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町のあちこちで

 追放、それは冒険者が集うパーティーで時々起こる現象だ。

 

 この言葉は一般的にパーティー内で嫌われている人間がパーティーを理不尽な理由で追い出されることを指す。

 例えば、『お前より強い奴がパーティーに入ってくれることになったから』、『ハーレムを作るのに男の冒険者は邪魔だから』。酷いものだと『顔が生理的に無理だから』なんていう事例で追放されたものもあるという。

 

 さて、この場合俺が追放されないことについての問題点はというと……


「どこもかしこも問題だらけじゃねぇか……」


 そう。問題しかないのである。先ほど挙げた事例で言うと、

 第一に俺はSランク冒険者だ。俺より強い冒険者なんてそういる訳でもないし、フリオのパーティーは悪評が広まっているために誰かがパーティーに入ってくれるとは考えにくい。


 第二に、フリオはハーレムを作りたがるタイプではない。というかあいつは性差を意識していないように思える。

 俺についてもパーティー内で恋愛をする気は全くない。言うなればパーティーというものは冒険者の職場だ。職場で何故恋愛をする。職場では仕事だけすればいいじゃないか。パーティーを自分のハーレムにしようとするやつは気に入らないな。


 第三に、顔が生理的に無理……言われたことは今のところないが……言われたら傷つくな。

 Sランクの冒険者、特に剣士ともなれば相当な鍛錬を積んできているために太っていることなどはあり得ない。顔も……まぁ俺の場合よくもなく悪くもなく、程度が関の山だろう。


 ここまでにこんな確認をしてきたのは俺の現状を整理するためだ。問題点を洗い出すことで俺が追放されるために効果的な作戦を建てようと思ったのだが……


「これ俺、詰んでないか?」

 

 いや、だからと言って強くなることを諦めるわけにはいかない。なんとしてもこのパーティーを追放され、強くならなくてはならないのだ。


「追放……奥が深いものだ」


 時刻は昼過ぎ、今日の依頼はこれ以上無し、グリスティアとミニモはスイーツを食べに行きフリオは孤児院に行っていた。

 俺が悪だくみをするには絶好の状況なのだ。なんとしても……


「なんとしても作戦を考えなくては……」


 こうして俺は一日、一人で頭を悩ませたのだった。


***


「お、いらっしゃい兄ちゃんご注文は!」

「あぁ、トレントの木の実のケーキ一つで。お願いしますね」

「あいよー」


 時刻は昼下がり、腹を満たした客がちょっとお茶でもしようと俺の店に立ち寄る時間。

 商売には最高の時間だ。


「兄貴!邪妖精のエクレア、今売れたので最後っす!補充お願いします!」

「おうよ、任せとけ!」


 先日ダンジョン探索で儲けた金を使って開いたスイーツ店は大人気であった。スイーツは作ったものから飛ぶように売れ、口コミはどんどん広がっていく。エテルノに借りていた金もしっかりと返し終え、まさに人生バラ色、というやつだ。


「ほら、あんた達しっかり仕事しなさいよ!」

「了解っす姉御!」

「姉御……」

「何よ、なんか文句あるの?」

「いや、無いです……」


 現状に文句があるとしたらここだな。

 シェピア、先日この店にやって来た厄災というか何と言うか……。


 エテルノと一緒にやって来て、店のレイアウトを勝手にいじって帰っていったかと思ったのだがそのまま流れでずるずると雇うことになってしまい今に至っている。

 子分たちもシェピアを気に入ったようで『姉御』などと呼び出してしまっているのが……。

 飾りつけは普通にセンスがいいので解雇出来ないのが問題である。


「あ、グリスが来てるんだからちゃんと仕事しなさいよね!」

「はいはい……」

「じゃ、私はグリスと話してくるから」


 そう言うとさっさとシェピアはエプロンを壁にかけ、厨房から出て行ってしまった。

 グリスティアは確か、シェピアの昔なじみの冒険者だったか。エテルノと同じパーティーにいるSランク魔法使いだったな。


「……いやお前も働けよ?!何さらっと知り合いと話しに行ってんだ?!」


 俺、やっぱシェピア苦手だ。


「アニキ、次スライムの素揚げっす!」

「そんな料理あったっけか?!」


 なんか知らない料理だけどとりあえずスライムは出しとこう。そんなこんなで忙しさのうちに俺の一日は過ぎていくのだった。


***


「フリオ、最近ちと無理しすぎではありゃせんかの?」

「んー、そうでもないですよ。エテルノとも最近打ち解けてきた感じがして、依頼をこなすのも凄く楽しいんです」

「うむ……だとしても、孤児院にここまで毎度毎度お金を持ってこんでも良いんじゃぞ?」

「ま、僕も自分の使いたい分のお金は残してますしね」


 例えば武器とか、防具とか。あとは祝勝会をやったりとかね。

 

「ふむ……最近は何を買ったのか教えてくれるかの?」

「幸せになれる水ですね」

「詐欺に引っかかっておるな?!」

「あ、持ってきたんですよ。飲みます?」


 この孤児院の皆にも幸せになってもらいたいからね。

 僕が渡した水をコップに注ぎ直し、サミエラは口に含ん――


「腐っておるではないか?!」

「わ」


 サミエラが水を吹き出し、普通の水で口をゆすぐ。よっぽどまずかったらしい。


「腐って……あ、エテルノがそんなことを言ってましたね」

「それが分かっててよく普通に飲ませたの?!」

「腐ってたらスキルの『未来視』か何かで分かるんじゃないかと思ったんですけどね」

「そんな無茶な……」


 多分、フィリミル君の『先見』なら気づけることだから似たようなスキルであるサミエラの『未来視』なら何とかなるんじゃないかと思ったんだけど……駄目だったようだ。

 それをサミエラに伝えてみると――


「はぁ……よいか?『未来視』は他人の未来を七割程度の確率で見通すことができるだけのスキルじゃ。その……『先見』?とは違って自分のことには使えないんじゃよ」

「へー」

「どうでも良さそう?!というか未来視のことなんて子供達でも知っておるぞ?!」


 孤児院の子たちはサミエラと共に生活している分サミエラについて知っていることも多いのだろう。


「でも、僕は一緒に暮らしては無いですからね」

「はぁ……。ま、無理だけはするんじゃないぞ?いくら孤児院にお金を持ってきてくれても自分がおろそか、ではいかんからな?」

「大丈夫ですよ。だって僕は、『英雄』ですからね」

「……そうじゃな」


 そう言うとサミエラは寂し気に笑ったのだった。

 

 あ、別のお土産もあったんだった。ここに来る途中で飼ってきたスイーツをサミエラに差し出した。


「お、近頃できたスイーツ屋のスイーツではないか!また食べたかったんじゃよ!」

「あぁ、こっちのお土産は気に入ってもらえましたか。良かったです」

「うむ、しかし美味いな……何でできておるのやら……」

「あ、分かりますよそれ」

「本当か?!」

 

 えぇと、確かエテルノに紹介してもらった時は何と言っていたか……


「あ、思い出した。スライムの死骸です」


 直後サミエラが盛大にむせた。

 

***


 呟く。口から洩れる言葉は敵への呪いの言葉だ。殺す。殺す。絶対に許さない。


「……」

「おいてめぇ、金目のものを出してもらおうか」


 突然目の前に大男が立ちはだかった。が、気にせずに歩く。もちろん口から漏れ出る呪詛は止めないままに。


「あァ?てめぇさっきから何ぶつぶつと……」

「……お前はエテルノ・バルヘントを知っているか?」

「誰だそれ。いや、そんなことより金目のもんをだな……」


 あぁ、邪魔だな。こいつ。


「……骸骨兵」

「てめぇさっきから舐めてん――」


 男の動きが止まる。男の胸元から、鈍く光る槍の先端が突きでているのが見えた。

 驚いた顔で男は振り向き、自分に槍を突き立てた人間を見る。

 いや、人間というのは正しくない。人骨だ。槍を持った人骨がそこには立っていた。

 

「なっ……?!」

「黙らせろ」

「がッ……!」


 もう一度、槍が男の喉に突き立てられて男がその場に崩れ落ちた。

 肌を突き破る鋭利な槍から男の血が伝う。


 まぁどうでもいいか、こいつは知らなかったわけだから。

 もうすでに命を失った男の体を蹴飛ばし、再び前に進み始める。


 ふらふらと覚束ない足取りで、浮浪者のような出で立ちで、それでも瞳に宿った殺意は消さないままに。


「殺す。殺す。殺す……。エテルノ・バルヘント……!」


 この町のどこかには、いるはずなのだ。

 殺して、皮を剥いで、肉を野良犬に食わせて……


「くは」


 乾いた笑いが漏れる。


「くは、は、はははははははは」


 ――悲願の復讐を遂げよう。暗い殺意が、町にはびこり始めた。

町にはいろんな人がいます。野良スライムもいますし。


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