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加工すればトレントだって木材

「皆!準備はできてるかい!」

「今日も朝から元気だなフリオは……」

「もちろん!久しぶりの依頼だからね、頑張らなきゃ!」


 朝の五時、今日の依頼は久しぶりに魔獣の討伐である。

 久しぶりの依頼ということもあってフリオは張り切っているが、なにせ朝の五時だ。ミニモとグリスティアは未だに目をこすっている。

 もちろん俺も眠気に襲われている。


「というかまだ他に寝てるやつらもいるからな。あんまり大声を出すなよ」

「あぁ、確かにそうだね。分かった!」

「分かってないだろお前」


 良い返事、というか良すぎる返事をするフリオを連れてさっさと宿の外に出る。

 あまり他の客に迷惑を掛けても困るからな。


「さて、今日の依頼は森で魔獣討伐だよ!」

「言ってたな。植物系の魔獣だったか?」

「そうそう。虫系はグリスのためにも避けようって話になったんだよね」


 町を歩きながら言葉を交わす。

 そうだな。グリスが虫を嫌いなのは学園でのトラウマに原因がある。それを聞いた後だとそう簡単に虫の魔獣討伐には行けないだろう。

 まあ俺も虫を特別討伐したいわけでは無いのでその方針に異論はない。


 俺が眠気を覚まそうと頬を引っ張っているとミニモが楽しそうに言う。


「森……ワクワクしますね」

「野生に帰るんじゃないぞ」

「エテルノさんは私を何だと思ってるんですかね?!」

「本能に従うタイプの動物」


 しかも結構活発に動くタイプのやつだ。


「いやいやそんなまさか!私がそんなこといつしたって言うんですかぁ!」


 冗談だとでも思っているのだろうか、笑顔で俺の肩をバシバシ叩くミニモ。

 そういえば昨日、こいつは俺の部屋に侵入してたんだったな。ちょっとイライラしてきた。あと肩叩くな。若干痛い。


「……くそゴリラが」

「もはやただの悪口?!」

「あぁ、言いすぎたな。ミニモ、お前の力と知能はゴリラ並みだ」

「丁寧に言い直しただけじゃないですか!」


 気づかれたか。そんな俺達のやりとりをグリスティアとフリオはほほえまし気に見ているのだった。


***


「エテルノ、僕と前線で戦うよ。ミニモ、グリスの護衛兼治癒、グリス、援護はお願い」

「おう。任せろ」


 森に入り標的を発見、すぐに仕事が割り振られる。

 今回の討伐対象はトレントだ。ダンジョン内で遭遇したトレントは寄生という厄介な攻撃を仕掛けてきたが地上のトレントはその限りではない。

 最低でも五メートルはある巨大な体にも関わらず馬車に匹敵する速さで走り回ることができる地上のトレントは厄介極まりない魔獣だ。

 そんな速度、そんな大きさで走り回れると森の木が片っ端からなぎ倒される。

 というか木のくせに走るんじゃねぇよ。ダンジョンの中にいたトレントのほうがよっぽど植物らしかったぞ。 


 そんなトレントはSランクパーティーならまだしも、Aランクパーティーなら三つ以上が協力して狙うような獲物だ。さて、しっかりと気合入れて行こうじゃないか。

 フリオに目配せをし、走り出す。まずは機動力を削ぐところから。大きな根は片っ端から切断していく。


「っく、うまくいかないか……!」


 ギチギチギチ、とトレントの根が周囲に広がり始める。触れれば一瞬で絡めとられてしまうだろう。根を切っていくのはやめ、空中に足場を……


「せいやっ!」


 と、フリオの剣の一振りがトレントの根を薙ぎ払った。地面まで抉るほどの威力だ。

 すごいな、今斬撃が飛んだように見えたぞ。


 あまりの衝撃にトレントの体が傾いていく。この隙を狙って――


「グリスティア、俺とフリオに強化魔法だ!ミニモ、蹴り倒せ!」

「任せて!」

 

 直後三人の合わせ技による蹴りがトレントに炸裂し、トレントの巨体が地面に転がることとなったのであった。


***


「まだ生きてるね」

「だな」


 地面に転がされたトレントの枝葉はまだ蠢いていた。まぁ当然と言えば当然だろうか、まだとどめを刺していないのだから。


「いやでも、トレントってどうやってとどめを刺すんだ?」

「やっぱり首を斬るんじゃないかしら」

「首……」


 トレントの頭(と思しき場所)を見上げていく。


「……」

「……」

「……いや首どこだよ!?」

「これはちょっと分からないね……」


 まぁ枝葉とか根が蠢いてるだけで他は普通に木だからな。そりゃ分からないわ。

 するとミニモが俺の肩を叩いてきた。


「エテルノさんエテルノさん、木を切り倒した後ってどうするか知ってますか?」

「ん?そうだな……加工して扱いやすいサイズの材木にするんじゃないか?」

「その前に実はやることがあるんですよ。まずは枝を上から順に全部切り落としていくんです!邪魔になりますからね!」


 ……だから何だというのだろうか。


「それをトレントにやってみよう、と?」

「はい!まずは動いてる枝が邪魔なので切り落としていきましょう!」

「えぇ……」


***


 数分後、枝を切り落とされるたびにびくっと震えるトレントの姿がそこにあった。

 これトレントの見た目が木で良かったな。笑顔で切り落としていくミニモも怖い。


「はい、終わりました!」

「……おう、お疲れ様」

「えへへ……」


 でもまだトレント生きてるっぽいんだよな。こいつを始末するのは難しいんじゃないか?


「あ、このトレントは女の子だったみたいですよ」

「何で分かったんだ……」


 やっぱりミニモ怖いわ。

 フリオもおずおずと言う。


「と、とりあえずトレントは持って帰るかい……?」

「あ、討伐の証明っているのか?」

「いや、普通に倒すだけで良かったはずだったけど……」

「それなら普通に燃やせばよくね?」

「あっ」


 ……燃やすか。ミニモの労力、完璧に無駄だったな。


 すると俺が魔法を使って火球を生成したのを見てミニモがトレントの前に立ちふさがった。


「え、嘘、燃やすんですか?!こんなに良い木なのに?!」

「魔物だしな……」

「トレントが可哀そうだとは思わないんですか?」

「お前さっきまで自分が何をしてたか覚えてる?」


 きょとん、とミニモは首を傾げた。あ、これ自覚ないわ。

 フリオ、これどうにかしろよ、とアイコンタクトを送ると、首を横に振って返事をしてきた。無理だ、ということなのだろう。


「あー……そこをどけば昨日買ったお土産をやろう」

「え、そんなのあるのかい?!」

「あぁ、フリオの分もあるぞ」

「さぁエテルノさん!トレントでもなんでもやっちゃってください!」


 瞬時に道を明け渡すミニモ。……現金な奴だな。


「で、どんなお土産なんですか?」


 期待の目で見てくるミニモ。そうだな、なんと説明したものか。


「近頃話題のスイーツだ。甘くてプルプルしてて、で半透明な感じの……」

「おぉ、美味しそうだね」

「端的に言えばただのスライムの死骸だ」

「一気に食欲がなくなったよ」


 さて、さっさとトレントを倒して帰ろうか。


「えへへ……お土産……」


 スライムの死骸だと聞いてなお楽しみそうにしているミニモ。

 まじでこいつ、どんな育ち方してきたんだ……。

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