スライム(スイーツ用or爆破用)
「……よし、こんな感じでどうだ?」
「あー、そっちの飾りつけはもっと上の方にしてくれる?」
「分かった。任せろ」
俺とシェピアは、アニキの新しい店で飾りつけを行っていた。今から少し前に俺達が勘違いでこの店で暴れてしまい、その片付けの延長戦として店の飾りつけまで行っているのだ。
基本俺はシェピアの指示で飾りつけを行っているのだが店内がどんどんピンクになっていく。
シェピアにもちゃんと女子らしいところがあるんだな……と若干失礼なことを考えつつ作業を進めていたところに、厨房で料理を作っていたアニキが戻って来た。
「うぉお?!なんだこれ?!」
「飾り付けておいたわ!感謝しなさい!」
「いや、ありがてぇんだがなんかこう……落ち着かねぇな……」
様変わりした店内を見て驚くアニキ。
それもそのはず、先ほどまでは居酒屋のような見た目の店内だったのに今となっては女子力あふれるスイーツ店そのものの見た目だ。
そんな店の中心で居心地悪そうに佇んでいるアニキはフリルの付いた女性用エプロンを着ている。子分が用意してくれたらしく、無下にもできないので着ているという話だったが……
「……ふ」
「お前今なんでこっち見て笑った?!」
アニキの方を見ていたら怒られてしまった。
いや、面白かったから……うん。しょうがないな。こんな光景、聖人と名高いフリオでも笑ってしまうだろう。
「あ、それが噂のスイーツってやつね?」
「そうだ。用意できたから持ってきたんだよ。だからもう帰ってくれ……」
今更気づいたが、アニキの手にはしっかりと包まれた箱が握られていた。
「ふーん。でもま、もうちょいで飾りつけ終わるから後でね」
「えぇぇ……」
シェピアの意識はもうスイーツよりも飾りつけの方に行ってしまっているようだな。
それを見るアニキの背中には哀愁が漂っている。
「あー……俺は帰ることにする」
「ほんとか?!」
「喜ぶな」
「んな理不尽な……」
嬉しそうに俺を見てきたのでサクッと切り捨てる。
用事もあるし帰るのは帰るんだが……そうだ、せっかくだからこいつにも聞いておくか。
「俺もさっきのスイーツを買って帰ろう。用意してもらえるか?」
「お、買っていってくれるか!シェピアの注文もあったし用意は済んでる。待たせたりはしねぇよ!」
そうなのか。それは助かるな。
「それとなんだが、番犬に当ては無いか?」
「番犬?」
「あぁ。何かしら強い魔獣で良いんだが、仕入れてたりしてる魔獣があれば譲ってくれ」
「魔獣か……獣っぽい方がいいか?」
「いや、無生物系でもいい。スライムでもゴーレムでも番犬の役目ぐらい出来るだろ」
「分かった。ちょっと待っとけ」
そう言うと再びアニキは店裏に引っ込み、戻ってきたのはそれから数分後のことだった。
***
「ちょっとしか離れてなかったのにまた店内が様変わりしてんな?!」
帰ってきて速攻でツッコミを入れるアニキ。全く、忙しい男だな。
「いやー、なんかちょっと違うのよね。あ、間取りが悪いんじゃない?」
「そんなこと言われても困るんだが……?」
「間取り変えちゃう?」
「何言ってんだお前?!お前エテルノよりもやべぇんじゃねぇか!?」
誰が『やべぇ奴』だ。間取り変えるぞこの野郎。
というか間取りを変えるぐらいなら一定以上の実力を持った魔法使いなら普通に可能だ。岩壁を造ることもできるぐらいだからな。
それを知らないということは……アニキはあまり魔法に縁がないのかもしれないな。
「あ、エテルノ、これが注文の品だ。それと魔獣なんだが……」
「あぁ、ありがとう」
俺が注文したのは、シェピアの買ったものと被らない種類のスイーツ四人分だ。
俺とミニモとフリオとグリスティア。せっかく外出しているのだから土産ぐらいは持って帰ってやろうと考えている。
「魔獣は何匹か見繕って来たんだが……手なずけられるのか?それともあれか、あのー、確か、リリスだったか?に協力してもらうのか?」
あぁ、さっきから何か言いづらそうにしてると思っていたが魔獣を手なずけられるかどうかの心配をしてたのか。
「心配ないぞ。魔獣を使役するための魔法は習得してるからな」
「まじかよ、魔法何でもありだな……」
「ただリリスのスキルと違って一度魔獣を力で服従させる必要があってだな……」
「どゆことだ?」
「簡単に言ってしまうと魔法を使う前に一回半殺しにする必要がある」
「うわ……」
しょうがないだろ。そういうものなんだから。
だからそんな目で見るな。
「わ、分かった。魔獣は用意してあるから好きなの選んでくれ」
「あぁ。じゃ、シェピア、俺は先に帰るから」
「はーい。グリスによろしくねー」
「了解だ」
「二人とも帰ってくれよ……」
あくまで予感だが、シェピアは今後ここに入り浸るような気がするな。アニキも哀れなものである。
***
「……誰もいませんかね……?」
私はそっと床板を外して部屋に入った。周囲には……誰もいないようですね。
「っはぁー、新鮮な空気です……」
床下って埃っぽくて苦手なんですよね。最近は色々と改造して手狭ながらも快適な空間に変わりつつありますが、それとこれとは別な話なわけで。
「……あれ、なんか今日いつもと雰囲気が違いますね……」
具体的には家具の数が増えているような気がします。あとほんのりと甘い匂いが漂ってくるような気も……
「……ま、いいですかね別に。そんなことよりさっさと用事を済ませてこの部屋を堪能するとしましょう!」
そう、今日こそはエテルノさんのハンカチ以外の物を……具体的に言えば枕カバーとかを……!持ち帰るのですから……!
以前持って帰ったハンカチをそっと元の場所に戻し、また別のハンカチをそっとポケットに忍ばせる。
さて、後は枕カバー……!
と、その時だった。ずるり、と背後で何かが這いずる音がした。
「……誰ですか?足音がしませんでしたね」
「……」
「そうですか……そっちがその気なら……!」
振り返りざまに全力で回し蹴りを放ち、私の背後に回っていた『何か』を一撃で仕留める――つもりだったのに仕留めた感触が無い。
当たってはいるのに受け流されたような……
「はぁ……誰ですかね?私今忙しいんですけど、また邪魔をしに来たんですか?」
「……」
背後にいたのは巨大なスライム。あぁ、それならさっきの攻撃が通じなかったのも納得ですね。出所は……クローゼットですか。
隠れていたんですか。
全く、どこから来たのか知りませんがエテルノさんの部屋に侵入するなんて最低です。
「スライムは打撃が効かない?……笑わせないでください」
ごぼごぼと、スライムが音を立てる。
何を考えているのかは分かりませんが、こいつを送り込んだ誰かがいるということはエテルノさんに敵意を持った誰かがいるということ。
--それは許せませんね。
「そりゃ!」
さっきよりも早く拳を振るう。もちろん狙いはスライムではなく、その核。
スライムの弱点である核を一撃で粉砕すればいいだけの話なら、そこを狙いますよね。
「……まだ届きませんか……」
スライムの体に阻まれて、拳の勢いが弱まってしまう。ええと……エテルノさんは前どうやってスライムを倒していましたか……
あ、火を使うって言ってましたね。えっと……火は……
部屋の明かりに使われていたランプから油を取り出し、躊躇なくスライムに投げつける。もちろんスライムですから、すぐに油は吸収されてしまうわけですが……
「これで燃えやすいスライムの出来上がりってわけですね!」
さて!お片付けと行きましょうか!
***
設置場所を監視できる水晶で、俺はミニモ、というか俺の部屋を観察していた。
ミニモは俺が番犬代わりに置いていたスライムに臆することなく立ち向かい、急に油を掛けたと思ったが……
--その後の展開は見るに堪えなかったので書く気が起こらない。ミニモは相当後片付けに苦戦していた、とだけは述べておこう。
……まぁ室内で大量の油を含んだスライムに火をつけたらそうなるわな。ちゃんと部屋を元通りにして帰っていったから良かったものの、荒らされていたままだったら多分キレてたぞ。
ため息をついて、俺は自分の部屋に戻っていくのだった。




