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スイーツ店(ゲテモノ系)

「で、スイーツだったか。どこに行くんだ?」

「えっと……サミエラさんに教えてもらったとこは最近出来た穴場のお店らしいわね。ギルドの近くだと思うわ」

 

 俺は人であふれかえった街中をシェピアと並んで歩いていた。サミエラの孤児院に寄った際に偶然出会い、ちょうど暇だったのでついて回ろうと思ったのだ。


「グリスティアに贈り物か……」

「そうよ。何か悪い?」

「いや、あいつの好きな物とか正直分からなくてな」


 少なくともシェピアよりは身近にいたので分かるだろうが、よく考えてみると俺もそこまでグリスティアに詳しいわけでは無い。


「でしょ?だからサミエラさんに頼ったのよ」


 なるほど。最近あいつが食べていたものといえば……ミニモに貰っていた干し肉、フリオの持っていた飴玉、あぁ、後は蜂の魔獣を討伐したときは蜂蜜なんかも食べていたな。

 他にも祝勝会なんかでは必ずデザートを注文していた覚えがある。


「確かに言われてみると、自分から何か食べるときはスイーツを選んでいるような気はするな」

「でしょ?何か良さげなものがあれば教えなさいよ」

「そう言われてもな……」

「ほら、スイーツじゃなくてもいいからグリスティアが受け取って一番喜んでた物とか無い?」

「……報酬金だな」

「そういうこと言うんじゃないわよ……」


 あきれた目でこちらを見るシェピア。指摘は実にもっともである。

 だがなんだかんだで金は贈り物にするには最適だ。贈り物として直接現金を渡すのははばかられるが……。


「そうだ、菓子箱を二重底にして、金を隠して渡すのはどうだ?」

「それは賄賂の渡し方。あんたさては真面目に考えてないわね?」


 む、バレてしまったか。

 シェピアはあきれたように言う。


「はぁ……もういいわよ。じゃああんたの方は何か面白い話とか無いの?」

「俺か?」

「そう。多少はあるでしょ?」


 ……ふむ、シェピアはこんな奴ではあるが魔法の腕は確かだ。相談してみても構わないかもしれないな。


「そうだな、一つ相談がある」


 こうして俺は、ミニモのことについて語り始めたのだった。


***


「--それで、誰かが知らないうちに部屋に入って来てる、と。部屋を変えるんじゃ解決しなかったのよね?」

「あぁ。結構困ってるんだ」

「んんん……そうね……」


 とりあえず、『犯人はミニモである』という部分だけ省いてシェピアに伝えてみることにした。

 伝えてみたは良いがここまで悩まれると少し申し訳ないな。


「でも貴方がそこまで困るなんて意外よね。泥棒だとか普通に拳でねじ伏せそうなのに」

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

「うーん……結界を張ってみる、とかどう?」

「結界か……」


 やっても良いがそれでミニモを止められるかというと……うん、俺が張った程度の結界じゃ無理だな。

 片手で結界を粉砕するミニモの姿が見える見える。


「あ、番犬を置いてみるとかどう?」

「番犬……ふむ、悪くないな」


 番犬がミニモに勝てるとは思えないが……極力バレないように振る舞っているミニモのことだ。部屋の中に動物が居たら部屋への侵入は避けるかもしれないな。


「……よし、今日の残りは番犬探しと行こうか」

「別に好きにすればいいけど、私は手伝わないからね」

「あぁ。はなから期待してない」

「はぁ?!どういう意味よ!」


 どういう意味も何も、そのままだろう。こいつはグリスティアへの贈り物探しの真っ最中だ。

 俺の用事を手伝わせるのも申し訳ない。


「……ったく、あんたと居ると気分がどんどん悪くなるわ……っと、ここね。スイーツ屋さん」


 くだらない話をしているうちに店へとたどり着いていたようだな。店の外観としては普通、といったところだろうか。こういうスイーツを売る店はもっと装飾があったり、店外にテーブルが置かれていたりするものだがこの店は武骨な感じだ。

 前情報が無ければ普通に居酒屋としても通るんじゃないか?


「おい、この店こんなんで大丈夫なんだろうな?」

「……この感じが穴場感あっていいんでしょ」

「おい、目を逸らすな。地図貸せ。店の場所間違ってないだろうな?」


 シェピアから地図を奪い、場所を確認する。

 ……間違ってはいないようだな。


「……入ってみるか……?」

「あ、待って、あれ……」


 シェピアが店の裏口と思しき場所を指さす。そこでは屈強な男たちが三人がかりで店内へと麻袋を運び込もうとしていた。

 しかも麻袋が蠢いている。中に何かが入っているようだ。


「……スイーツ店云々以前の問題でここ、やばそうだな……」

「……入って確認するわよ」

「おう。行くとしたら裏口からだな」


 本来これは冒険者の仕事ではないのだが……このまま見過ごすのも寝覚めが悪い。さっさと片付けて番犬探しと行こうじゃないか。


「行くわよ……!『白光閃典』!」


 シェピアが先陣を切り裏口の扉を蹴破った。その後、間を開けずに目くらましの魔法。

 シェピアの杖から放たれた真っ白な閃光に店内から驚きの声が上がるが気にしても居られない。

 出来るだけ素早く、相手を捕らえる魔法を唱える。


「我が敵をつるし上げよ!『縛氷点贋』!」

 

 確かな手ごたえがあった。徐々にシェピアの放った光が弱まっていき、俺が捕らえていた敵の姿が見えてき――


「……ん?」

「あ、え、エテルノじゃねぇか?!」


 エプロン姿で床に倒れていたのは、アニキだった。

 またこいつか。


***


「はぁ……。犯罪行為に手を染めるなと忠告したはずだよな?」

「ち、違う!誤解だ!」

「あんたの知り合いなの?」

「いや、知らない人だ」

「因縁があるレベルでがっつり知り合いですが?!」


 アニキは以前、俺の復讐に巻き込まれて職を失うことになった元悪徳ギルドマスターだ。

 その後魔獣の肉を使った肉屋を営んでいたり、ダンジョン攻略にも参加していた。そこでは活躍を見せたため見直しかけていたのだが、それがこの体たらくとは……。


「あれ、そっちの嬢ちゃんどっかで見たことあるな」

「ダンジョン攻略にもいたからな。お前らが直接話す機会は無かったか?」

「無いわね。こんな男見たことも聞いたことも見たくもないわ」

「最後の一言余計じゃね?!」

「犯罪者なんて見たくもないわ」

「だから犯罪なんてしてねぇんだって!」


 今のところこの口論、若干シェピアに理がある。

 まぁそれを抜きにしても、今のアニキはフリル付きの女性用エプロンを身に着けた状態で床に倒れこんでいる。犯罪者云々以前の問題で、ちょっと、知り合いとしてどうかと思う。

 いや、うん。そういう趣味は否定しないがな。


「お前のその憐れむ視線は何だよ!?」

「……憐れんでないぞ。うん……」

「答えるまでに間があるんだって!……ま、まぁとにかく、言いたいことは分かった。今俺らがやってることが怪しいんだろ?試しにその布袋を開けてみな」

「……開けるわよ」


 先ほどアニキの手下が運んでいた布袋をシェピアが慎重に開ける。そこに入っていたのは――


「……スライム、か?」


 蠢く半透明の魔獣。危険度もほぼない魔獣だが、なんでそれをこいつらが……?


「いやさ、この店のコンセプトは魔獣を使ったスイーツでな。俺は今日、試作料理を振る舞うために肉屋の方から出張してこっちの店に来てたんだよ」

「魔獣を使った料理……?」

「おうよ。そのスライムはサトウキビ畑を荒らしてたやつでな。農家に掛け合って捕まえさせてもらったんだよ。食ってたもんのおかげか知らないがそいつの体は結構甘くてな。触感も独特で良い甘味になるんだ」

「……?」


 言いたいことは何となく分かるが……食うのか?スライムを?正気とは思えないな。


「あら、美味しいじゃない」

「なに普通に食ってんだお前」


 正気じゃない奴がここにもう一人いたか。


「そうだろ?俺らはもともと魔獣食を専門にしてたんだがよ、魔獣の肉を売るんなら魔獣のスイーツも売らなきゃってんでここに店をオープンしたわけだ!」

「お前の専門は元々ギルドマスターその他の業務だろう」

「……いや?こっちの方が儲かるし……」


 悲し気にうつむくアニキ。自覚はあったんだな。少し可哀そうになって来たのでこれ以上このことには触れないでおいてやろう。


「……中々美味いな。これは穴場だと人気が出るわけだ」


 試しにスライムの一片を口に入れてみると、口の中でほどけるスライムが滑らかな口触りを生み出し、ほんのりと感じる甘さがまた美味しい。単体だとそこまででもないがこれに蜂蜜やらなにやらを掛けて食べるのは美味しいだろうな。


「だが店の飾りつけは絶望的だ」

「うぐぅっ?!」

「ちゃんと店の客層を予測しているのか?お前仮にもギルドマスターだろう」

「うぐぐっ?!」

「だからギルマスの座を追われるんだろ」

「それはほぼほぼお前のせいだけどな?!」


 さて、何のことやら。


「とりあえず美味かったから知り合いには勧めておこう。他にも何か用意したいものはあるか?」

「え、エテルノが急に優しい。どうしたんだ一体」

「甘味処が増えるのは悪いことではないからな。犯罪行為かと勘違いして店を荒らした詫びもかねて、多少は宣伝も手伝ってやるよ」

「あ、私も手伝うからスイーツ、安く売ってくれるかしら」

「お、おう……いいぞ」


 こうして、俺たちは散らかった店内を片付け始めるのだった。

 さて、今日の当初の目的が全然果たせていないんだよな……。どうしたものか。

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