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駆け出し冒険者と一攫千金の罠

「っく……やはり時々痛むな……」


 俺は今、度々襲ってくる痛みを我慢しながらある場所へと向かっていた。正直フリオに任せても良い程度の雑用ではあるのだが……今回に限っては事実を知っているのが俺しかいないのでしょうがない。

 目的は駆け出し冒険者であるフィリミルとリリス、及びそのペット(元ダンジョンマスター)のマンドラゴラ、ドーラに話を聞くことである。


 フィリミルとリリスに聞くことはあまりない。ダンジョンを出てからはまだ一度も会えていないので安否確認ということにでもしようか。


 俺が用があるのはマンドラゴラのドーラの方だ。

 ダンジョンでの戦いが始まる前にドーラ自身が生み出したと自己申告してきた魔獣のリストの中に、俺たちを襲ったようなワイバーンの名はなかったはずだ。

 何故あの時ワイバーンが現れたのか、何故ワイバーンが狭いダンジョンの中にいたのか、その他諸々奴には聞くことが多いのである。


 そうこうしているうちに目的の宿屋にたどり着き、宿の主人にフィリミルたちに用があることを伝える。恰幅のいい宿屋の主人は快く了承すると、フィリミルたちを呼びに行ってくれた。


「……にしても、この宿屋豪華だな……」


 なんでもフィリミルとリリスはダンジョンから帰ってきて宿屋を変えたらしく、ミニモにこの宿屋に泊まっていると教えて貰ったのだがこの宿屋、装飾も中々凝っていて俺の泊っている宿屋よりも豪華なのではないかと感じる。

 壁にかかっている絵画など、触っただけでも怒られそうだ。


***

 

 そばにあった椅子に腰かけてしばらく待っていると、宿屋の主人が二人の客を連れて戻って来た。片方は豪華なローブを身にまとい、もう片方は高そうな礼服に身を包んでいる。なるほど、こんな豪華な宿だ。ああいう客もいるんだな。

 となるとフィリミルやリリスがなぜこんな宿にいるのかが疑問ではあるが……。


「エテルノさん、すいませんお待たせしました」

「え?」


 唐突に、宿の主人が連れてきた客の一人に声を掛けられる。近くで見ると礼服のところどころに高そうなアクセサリーが……いや待て。なんで俺の名前を知っているんだ?


「えっと……どうしました?エテルノさん」

「……まさかお前、フィリミルか……?」


 ダンジョンから戻ってきて会えないでいたこと数日、フィリミルとリリスは様変わりしていたのだった。


***


「それでですね、ダンジョン攻略の報酬で大金がもらえまして!」

「その金を使ってこの宿屋に越してきた、と」

「そうです!まさかこんなにお金が貰えるなんて思ってませんでしたからもう、びっくりしちゃって!」


 なるほど。フィリミルとリリスはA班、ダンジョン攻略の中でも最も危険な仕事をしていた班の一員だったからな。一年ぐらいは豪遊できる程度の報酬が支払われたのだろう。

 ……俺の分の報酬はあとでしっかりフリオから受け取っておこう。バタバタしていたせいで今のところ俺だけ報酬を受け取れていないからな。


 さて、それは置いといてなのだが、一応こいつらの様子を見に来ておいて正解だったな。

 駆け出し冒険者が急に大金を得て大失敗する、冒険者の中じゃよくある話だ。しっかり先輩冒険者として教育をしてやらなくてはいけないだろう。

 そうと決まれば――


「よし、ここじゃなんだから町に出るぞ。ついてこい」

「え、あ、分かりました!」


***


「さて、お前らは一つ、大きな間違いを犯している。なんだかわかるか?」

「間違い、ですか?うーん……」


 歩きながらフィリミルに話しかけると、フィリミルは悩んだ表情を見せる。歩きながらフィリミルのポケットからジャラジャラ音がしているのが既にやばい。

 硬貨でも詰め込んでいるのだろうか。


「リリス、分からないか?」

「そうですね、えーっと……あ、エテルノさんのお見舞いに行かなかったことですか?」

「…………それは別に大丈夫だ。気にするな」

「結構間がありましたね」


 気にしてないぞ。うん。

 とりあえず答えは出なさそうだったので本題に入る。


「問題って言うのはな、お前らの金の使い道だよ」

「え?そうですか……?」

「そうだ。一つ面白い話をしてやるからよく聞いておけよ」


 未だによく分からないような顔をしていたので例えを使うことにする。

 

「これは俺が以前所属していたパーティーの話なんだが……」


 以前、俺がいたパーティーでドラゴンの討伐に参加したことがあった。

 当時の俺や俺の居たパーティーの冒険者の多くがBランク冒険者だったので直接ドラゴンとの戦闘に関わることは無かったのだが、それでも報酬として大金を受け取ることができたのを覚えている。

 それからしばらく、俺以外のパーティーメンバーは豪遊に豪遊を重ねていた。

 俺が選んで入っていたのは『俺を追放してくれそうな性悪パーティー』だったのでそんなパーティーの奴らに金銭感覚があるわけもなく、一か月もする頃には金が足りなくなっていた。

 

 だがそれから倹約しようにも染みついた贅沢癖はそう簡単に抜けず、結果として奴らが選んだのは『エテルノ・バルヘント』の追放によってパーティーの維持費を浮かすという方法だったのだ。

 

 そんな話をフィリミルたちにしていくと、徐々に顔が真剣になっていく。アドバイスを素直に聞けるのはこいつらのいいところだな。余計な指導をする必要がないのはとても助かる。

 

 俺の話が終わり、フィリミルが少しためらった後に口を開いた。


「あの……僕達ってちょっと危ないですかね?」

「金銭感覚の話ならそうだな、ちょっと危ないんじゃないか?」

「さっきの話は実話ですもんね?」

「俺の体験談だ」


 長い溜息が一つ、フィリミルの口からこぼれ出た。もう彼の顔に、いままでの浮かれていたような表情は無い。


「……分かりました。幸い、まだお金は残っていますし倹約することにします。あの宿もお金は前払いしたので、その分だけ泊って引っ越すことにします。それでいいかなリリス?」

「うん……残念だけど、その分浮いたお金は武器に使います……」

「それが良いだろうな。困ったらフリオにでも聞けばいい」

「そこはエテルノさんに聞け、じゃないんですね」

「当たり前だろめんどくさい」


 この様子なら俺が何か言わなくてもフィリミルたちはしっかりと倹約するようになっていたかもしれないな。俺の指導は余計なお世話だったか。

 さて、話も終わったことだ。さっきから隠れている奴に出てきてもらうとしよう。


「それじゃあリリス、ドーラをしばらく借りるぞ。用があるからな」

「あ、分かりました。でもさっきから隠れてて出てきてくれないんですよね……」

「……ドーラ、みじん切りにす――」

「はいはーいっす!別にエテルノさんから隠れてたわけじゃないっすから!勘弁してくださいっす!」


 勢いよくリリスのローブの袖口から飛び出してきたドーラ。その首をサッと掴み、逃げられないようにしてからリリスたちに別れを告げる。


「いたたたた?!」

「じゃ、またな」

「はい、お金のこと、教えてくれてありがとうございました!」

「気にするな。駆け出しなら皆が通る道だ」

「何事もないみたいに会話続けないでもらえるっすかね?!」


 手を振って離れていく二人を見送り、俺は人の居ない裏路地へと入ってドーラと話を始めた。


「……で、あのワイバーンはどういうことなんだ?」

「あれ私が召喚したんじゃないっすよ!冤罪っす!」

「ダンジョンに勝手にワイバーンが住み着くわけないだろうが」

「そ、それでもっすよ!ダンジョンを管理する身として悪かったとは思うっすけどホントに私は関係ないっす!」


 嘘をついている様子は無いが……それならいったん次の疑問を解消するか。


「それと、ダンジョンマスターはダンジョンの外に出られないんだったよな?なんでお前は普通に出てきてるんだ?」

「いや、私はもう死んでるっすからね。魂だけがマンドラゴラに憑依してる状態っすから出られたんすよ。詳しいことは知らないけど」

「……じゃあお前の死骸はどうした?」

「フリオさんが引っ張り出せなくて苦戦してたっすよ」


 なるほど、俺が魔法を受けて意識を失っている間にそんなこともあった、と。


「よし、じゃあお前が悪さをしたわけでは無いんだな?」

「当たり前っすよ!私、正義のダンジョンマスター目指してるっすから!」

「あぁ、はいはい」

「適当っすね!?ちゃんと聞いてくださいっすー!」


 こいつが嘘をついていたら発動するように、魔法も裏で使っていたのだが発動はしなかったな。あのワイバーンはこいつの差し金じゃないというのは本当のことだろう。

 となるとドーラはもう用済みだな。俺も宿に帰ってもうひと眠りと行こうか。


「ドーラ、お前ひとりで宿まで帰れるか?」

「当たり前っすよ!なんなら買い物だってすんなりと――」

「あっ」

「あ」


 自慢げに胸を叩くドーラを、突如空から飛来した鳥が咥えて行った。

 

「助けてくださいっす~~!!」

「……」


 徐々に遠のいていくドーラの悲鳴を聞きながら、俺は自分の宿へと足を向けた。

 道を行き交う人の中にもドーラの声が聞こえた人がいたようだが、首をかしげると再びどこかへと歩いて行ってしまう。


 ……まぁ、死にはしないだろ。マンドラゴラで、しかも元ダンジョンマスターだし。

 そんなこんなで俺の休日は終わっていくのだった。

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