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語られる冒険譚

「迫りくるゴブリンの群れをなぎ倒していく冒険者たち!あっちに行っては敵を切り、こっちに走っては味方を助ける!」

「うおぉ!兄ちゃん達ってすげぇんだな!」

「そうですよー。私たちは凄いんですから!」


 ダンジョンから出てきて一週間後、俺たちはフリオの出身の孤児院へとやって来ていた。

 孤児院に入るなり群がってきた子供達にフリオがダンジョン攻略の話を始めてしまい、結果として相当な武勇伝として俺たちの冒険が語られている真っ最中である。

 その隣にはミニモとグリスティア。二人はフリオの隣でうなずきながら冒険譚を聞いているが……ミニモは子供達にも負けず劣らずなレベルで良い反応をしている。

 お前当事者なのになんでそんなにワクワクして先を聞きたがるんだ。相変わらずよく分からない奴である。


 そんな子供たちを遠巻きに眺めている少女が一人。

 ……あぁ、いや、少女じゃないんだったな。彼女はサミエラ。そこそこ珍しいエルフ族でありこの孤児院の運営までこなす才女なのだが見た目はどう見ても白髪幼女である。

 そんな子供のような見た目のくせして喋り方は老人そのものなのだから、喋っていると違和感が半端ない。


「おいサミエラ、お前そんなところにいてフリオの話は聞こえてるのか?」

「いや、全然聞こえんが、というかフリオの姿すら見えんが皆楽しそうじゃからの。それで満足じゃ」

「そういうわけにもいかないだろ。ほら、ちょっと避けろ」

「え、な、なんじゃぁ?!」


 魔法を使ってサミエラの真横に台を作り上げる。土魔法で作った雑なものだがまぁこいつの体重なら大丈夫だろう。


「ほら、使っていいぞ。多少は見えやすくなっただろ。あとは聴力強化するなりなんなり好きにしろ」

「こ、怖ぁ……!急に魔法使われると怖いじゃろうが!年寄りの心臓をもっと労わらんか!」

「……ふっ」

「お、お主いま鼻で笑いおったな?!」


 まぁ見るからに幼女なのに年寄りの心臓とか言われたらな。鼻で笑いたくもなるというものだ。




「とまぁ、こうして僕たちはダンジョンの外に戻ってきたのでした!」

「感動しましたー……!」


 フリオが冒険譚を締めくくり、子供達から拍手が上がる。その隣にいたミニモは取り出したハンカチで涙を拭い――だからなんでお前が感動してるんだ。お前当事者だろ。

 というかそのハンカチ見覚えあると思ったら俺のじゃねぇか。ツッコミどころ多すぎるぞ。


「……」


 隣にいたサミエラにじっと見つめられる。何か顔についているだろうか。


「なんだ?何かあったか?」

「いや、お主……人を助けて怪我をしたのか?」


 なるほど。フリオの話の中には俺も出ていたからな。その話が気になったのか。


「あぁ。そうだな。助けたのは事実だ」

「不愛想なくせに?」

「余計なお世話だ」


 サミエラは未だに怪訝な顔で俺のことを見ている。全く、失礼な奴である。


 と、今度は子供たちが俺の周りに集まってきてしまった。フリオに『なんとかしてくれ』とアイコンタクトを送ると、頑張れ、と親指を立てて返された。


 なるほど、俺がこのガキどもの面倒を見ろ、と。適当にあしらってミニモの……ところはダメだな。グリスティアのところにでもこいつらを押し付けることにしよう。


「なぁなぁ兄ちゃん、兄ちゃんダンジョンで活躍したんだって?」

「おう。そうだぞ。だからお前らも、俺の言うことはしっかりと――」

「兄ちゃん座ってー!」

「は?ま、まぁいいが……」

 

 言われるがままに座らされて子供の目線に合わせてやると、子供が俺の肩をポンポン、とでも表現するような感じで叩いた。


「兄ちゃん、頑張ったじゃん」

「……」


 これは完全になめられているな。子供のくせに俺のことを慈しむように見てきている。


「……くそガキども!今から俺の実力を見せてやる!敬いひれ伏せ!」

「いつもの兄ちゃんに戻った!」

「またあれやって!噴水!」

「良いだろう!食らえ!」


 子供の顔面に向かって威力を弱めた水魔法を噴射してやるが、そこまで大きなダメージを与えられた様子はない。

 ならば、こうだ!


「ほーら、ダンジョン土産の美味い菓子だ!この袋の中身は取ったもん勝ちだぞ!」

「お菓子?!」

「そら!取ってこい!」


 懐から袋を取り出し、グリスティアに向けて放り投げる。ガキどもは群がるようにグリスティアへと走り寄っていく。単純な奴らだ。


「ちょ、ちょっとエテルノ?!」

「よし。後はよろしく頼んだ」


 グリスティアから非難の声が上がるが、知ったことか。俺は子供の相手なんぞしていられないのだ。


「姉ちゃん!その袋貸して!」

「え、あ、え?はい!」


 子供たちの勢いに押し切られたグリスティアはすんなりと袋を渡してしまった。なんだ、つまらない奴め。

 さて、バレる前にさっさと逃げるとしようか。そっと俺は孤児院の外に出て行った。


***


「いやぁ、エテルノはほんとに子供たちに人気だね」

「そうですねー、子供は性格の良い人を見極めて懐くとも言いますし……エテルノさんの良さが分かるんでしょうね!あ、でも私にもよく懐いてくれてますよね!」

「いや、ミニモは同レベルと思われてるだけだと……」

「フリオさんなのに辛辣ですね?!」


 いや、うん。ミニモと子供たちはほぼほぼ同じにしか見えないというか……僕から見ても同レベルに映るのだからミニモが懐かれているのも納得だ。


「そら!取ってこい!」


 と、エテルノがグリスに向かって袋を投げ、子供たちがそこに集まっていく。こういう子供たちの扱い方に手慣れているのが実に彼らしいというべきか……。


「お菓子!お菓子!」


 期待の目で袋を見つめる子供たち。袋の中から手を引き抜いた子供の手に握られていたのは――


「……肉だね」

「正確に言うと干し肉ですね」


 えぇ……?


「ちなみに私がエテルノさんにあげたものですね」

「えぇ……?」


 予想外のミニモの言葉に、心の中に留めておこうと思っていた困惑の声がつい口をついてしまったのだった。

最近のオチ担当:干し肉

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