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ダンジョン最終決戦

「さて、最終確認と行こうか」


 フリオが冒険者たちの前で演説を行っていた。背後には魔法によって造られた巨大な岩壁がそびえている。


 俺たちは岩壁の前に集まり、作戦の内容を確認していた。

 魔獣に襲われた街を奪還し、ダンジョンマスターを倒し、最後に残った障害。

 岩壁を取り囲むように集まる大量の魔獣の群れを討伐するための作戦である。


「この作戦の要はグリスティアとシェピアさんだ。この二人の護衛はエテルノ、アニキさん、頼んだよ」

「おう、任せろ!」

「分かってる。任せておけ」

 

 俺も護衛に選ばれてはいるが、ぶっちゃけやることはほとんどない。基本アニキのスキルを使っていれば防御で遅れをとることは無いからだ。

 なので後ろから、魔法を使って前線の援護でもしようかと考えている。


 そうこうしている間にも、フリオはテキパキと作戦を確認していく。

 君たちは右へ、そっちの班は左へ、そんな指示を飛ばしてしばらくの後、冒険者たちが散開していく。各々の持ち場に向かったのだ。

 俺たちの持ち場は街の中心だったか。




 俺たちが持ち場につき、フリオからの合図が送られた。グリスティアが頷き、杖に手をかける--


 直後、魔法を解除したことによって俺たちを守ってきた岸壁が崩れ去った。

 魔獣の群れが、飛び込んでくる。崩れた岩壁を乗り越えて駆けてくる群れはまるで波だ。

 あの数の魔獣をこれから、掃討しなければならないのだ。


 さぁ、このダンジョン最後の戦いを始めようか。


***


「エテルノ!そっちだ!」

「分かってる!俺のことを気にしてないで、しっかり守れ!」

「分かった!任せとけ!」


 向かってきた魔獣を蹴り飛ばしながらアニキに返事をしてやる。

 

 作戦は簡単に言ってしまえば、グリスティアとシェピアの手による超大規模魔法で魔獣を一気に消し飛ばす、というものだ。

 もちろん実際はそこまで単純なものでは無い。

 魔獣を一か所に集めるために岩壁も解除しなくてはならなかったし、味方を魔法に巻き込まないように避難経路まで計算しなくてはならない。


 非戦闘要員はアニキがスキルによって匿っているのでうまくいけば損害は出ない計算ではあるのだが……そこはグリスティア達の魔法の腕と、冒険者たちが無事に避難してくれるのを信じるしかない。


「はぁっ!」


 またもや魔獣が向かって来たので剣を振るって首を切り落としてやり、周囲を見渡す。

 今のところ誰かが苦戦している様子はないな。魔獣の一匹一匹は弱いから苦戦もしないのだろう。あくまで大変なのは数だけ、といったところか。愚直に突っ込んでくるだけの魔物に苦戦するような冒険者は流石にいなかったらしい。


「グリスティア!魔法はまだか!」

「あと……もうちょい……!」

「分かった。だが出来れば急いでくれ!」


 魔法はあと少しで発動できる。ならばそろそろ冒険者たちを撤退させておくべきか。フリオに合図を送ろうとした瞬間、ふと違和感を覚えた。


「おいおい……それはまずいだろ……!」


 フリオが戦っている相手は見るからに竜、といった印象の魔獣だ。翼を広げて空を飛び回り、火球を上空から落としていく。その下では冒険者たちが逃げ惑っている。

 魔獣の名はワイバーン、本来ダンジョン内にいるはずがない魔獣だった。


***

 

「おいフリオ!大丈夫か!」

「エテルノ?!」

「持ち場は大丈夫そうだったからな。こっちに加勢する!」

「ありがとう!助かるよ!」


 ワイバーンの姿を確認してすぐに俺はフリオの元へと向かった。何故こんなところにワイバーンがいるのか。

 ドーラにも事前に魔獣の種類を聞いてはいたが、ワイバーンなぞ生み出していなかったはずだった。

 

「エテルノ!上!」

「ッ?!」


 咄嗟に飛んできた火球をよけ、地面を転がる。すぐに起き上がって考えを巡らせる。

 もう少しでグリスティア達の魔法も発動する。今すぐに逃げるか、ワイバーンをすぐに倒すか、どちらかしかない。

 少しでも生存率が、勝率が高い方を選ばなくては。


 既に周囲はワイバーンの火球で焼き払われており、負傷した冒険者たちが仲間を抱えて撤退していく。死人はいないようだが――


「よし、逃げるぞフリオ!他の冒険者たちの避難も済んだようだ!逃げても問題ないだろう!」

「倒し方を考えてたんじゃなかったのかい?!」


 当たり前だ。倒せなくも無いが、すぐにグリスティアとシェピアの魔法でワイバーンは仕留められる。無駄なことはせず、被害は最小限に。

 少なくともここで死ぬわけにはいかないのだから。


「よし!行くぞ!」

「わ、分かった!ついていけばいいんだね?」

「そうだ!ついてこい!」


 フリオの前を全力で走――あ、待って。フリオ足早い。ちょっと待って置いていかないで。

 先に走り出したのにも関わらず、速攻でフリオに追い抜かれてしまった。なんとも言えない敗北感に襲われる俺に声が掛かる。


「エテルノ!大丈夫かい?!」

「だ、大丈夫だ!俺のことは気にせず急げ!」

「……分かった!」 


 再び前を向いて走り出すフリオ。まぁこのペースなら俺も十分、間に合うはずだ。魔法が使われる前にはちゃんと安全地帯にたどりつける。追って来ていたワイバーンも既に撒いて――


 後ろを振り向くと、冒険者に襲い掛かろうとしているワイバーンが目に入った。

 冒険者は気を失っているのか、動く気配がない。

 

 俺は咄嗟に自分に強化魔法を施し、ワイバーンに向かって走りだした。


***


 これは、間違っていることだ。あの冒険者を助ければ避難が間に合わなくなる。俺だけでも助かるべきだったのだ。だが、走り出してしまえばもう止まれない。強化された脚力でワイバーンの元へたどり着き、その顔面に魔法をお見舞いしてやる。


 ワイバーンが叫び声をあげるまえに、二撃、三撃を叩きこみ、冒険者を拾い上げて走る。ワイバーンも怒ったのだろうか。

 背後から怒りの叫びみたいなものが聞こえるが気にしないことにする。


 目の前に安全地帯が見えたので、とりあえず抱えていた冒険者を精一杯の力で安全地帯に投げ込む。

 このままだと抱えていた冒険者もろとも魔法に巻き込まれるからな。とりあえず投げ込んでおけばこの冒険者は助かるだろう。


 安全地帯に、ミニモとフリオの姿が見える。ミニモがこちらに飛び出してこようとしているが、フリオがそれを引き留めている。

 そうだ。それが正解だ。少しでも犠牲を出さないためにもそれで――


 直後、グリスティアとシェピアによる超広範囲魔法が炸裂した。

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