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ドジっ子系ダンジョンマスター(マンドラゴラ)

「で、お前の今後の処遇なんだが……」

「お、お願いしますっす!殺さないでほしいっす!」


 俺がまだ何も言っていないのに華麗なスライディング土下座をかますドーラ。

 だが、だからといって見逃すようなことはあり得ない。


「そんな虫のいい話が通るわけないだろう。お前はダンジョンマスターで、何人かこちらにも死人が出てるんだ。いくら頼まれても見逃せないぞ」

「っすよね……。でも私がやったのは魔獣暴走(スタンピード)を起こしたところまでで、その後のは完全にゴブリン達が暴走しただけなんすよ……」

「スタンピード起こしてる時点で見逃すも何も無いんだけどな」


 なんだかんだでダンジョンマスターはドーラだったと判明したわけだが、またいくつか疑問が出てきたので質問することにしよう。

 未だに土下座のままで頭を上げようとしないドーラに俺は問いかけた。


「というか、お前が持ってるダンジョンマスターとしてのスキルなんだが、他の生き物に乗り移る能力だろ?なのになんで命乞いなんてするんだ。いつでも自害すれば逃げられるだろうに」

「そうっすね。ただ私のは、『自身が死んだとき他の魔獣にランダムで乗り移る』スキルっす。だけど今は、リリスちゃんに使役されてる状態なので自害ができない状態っすね……」


 あぁ、ランダムだったのか。なんでこいつはわざわざゴブリンなんぞになっていたのかと思っていたが、そういうことなら納得できる。

 そして現状、こいつはリリスに逆らえない。リリスがこいつに、『死ぬな』と一言言っていればこいつは危険な行動をできなくなる、ということだな。


「まぁそれなら問題ないか」


 俺はそれを聞き、ドーラにかけていた魔法を解いた。ドーラの周囲からおぞましいうめき声をあげる黒煙が立ち上る。


「なんっ?!なんっすかこれ?!何かしてたんっすか?!」

「当たり前だろう。お前に自害されたら困るからな。俺から逃げようとした瞬間発動するように設定して、魂に無限の苦痛を与える拷問魔法を掛けておいたんだ」

「なんっつうことをしてくれてたんっすかねぇ?!ぜんっぜん気づかなかったっすよ?!」

「無詠唱で掛けたからな」

「そういうことじゃないんっすけどねぇ!?」


 どういうことだ。とりあえず敵の手札が分からない状態で敵が無防備だったなら、出来ることは全てやっておくのは当然だろう。

 こいつに逃げられることは何としても防ぎたかったので、逃げられないようにする魔法をかけていた。それだけの単純な話である。


 ちなみにだが、他にもいろいろと魔法を掛けておいてある。

 発動はそうそうしないと思うが、こいつが迂闊なことをした瞬間アウトだ。


「じゃあ次の質問だ。何故俺たちがこのダンジョンに入ってすぐ攻撃を仕掛けてこなかった。元々敵対的じゃなかったというなら何故、魔獣暴走(スタンピード)を起こした?」

「えっとっすね……私は基本、このダンジョンでゆっくり暮らせてればそれでよかったんすけど、このダンジョンに皆さんが入ってきたじゃないっすか。放っておけばこのダンジョンにうま味も何もないんで出て行かせられるだろうと思ったんすけど中々出て行かなくて……」


 いや、確かにこのダンジョンならではの利便性とかもなくこれといったうま味も無かったが……それでいいのかダンジョンマスターよ。


「それで少し痛い目にあわせようと魔獣暴走(スタンピード)を起こした、と」

「ま、そういうことっすね。もちろん戦ってるだけってわけにもいかないんで頑張ってダンジョンを広げつつ下層に逃げてたんすけど、トレントを植えてる途中でちょっと…」


 あぁ、うん。逃げようと焦ってたから植えた本人がトレントに寄生されるなんて言う頭のおかしいことになったんだな。


「それでもさすがに焦りすぎじゃないか?」

「いやいや!結構頑張って作った迷路はぶち抜かれるし、ダンジョンの壁を壊すし、そんな奴らに追われてるんすよ?!焦るに決まってるでしょうそんなもん!」

「あー……今のは俺が間違ってたわ。うん。すまん」


 ドーラに涙目ながらに訴えかけられる。迷路をぶち抜いたのはフリオだろ?

 ミニモはまぁ言わずもがないろいろやらかしてるし、グリスティアもゴブリンの巣窟から脱出するときに壁をぶち抜いた……あれ、今のところ俺のパーティーの奴らばっかりが脳筋ムーブしてるな?


「……俺も壁をぶち抜かないとダメな流れだったりすると思うか?」

「やめてくださいっす」

「そうか」


 ダンジョンマスターにそう言われたら止めておくしかないな。うん。


「で、ゴブリン達が暴走したってのはどういうことだ?」

「あ、それっすか。私、魔獣を生み出すこと自体は出来るんっすけど制御できないんっすよね……。トレントに寄生されたのもそうですし、ほら、空飛んできた魔獣にさらわれたこともあったっすよね?」

「あぁ、あったわそれ」


 聞けば聞くほどこいつが雑魚にしか思えなくなってくるな。

 困ったことだ。油断しないようにしなくては。


「ちなみにっすけど、さらわれたときは右半身の八割ほど食われましたっす」

「重症じゃねぇか」

「植物っすからね。土に埋まってたら回復したっすよ」


 いや、そうはならないだろ。

 マンドラゴラだからかダンジョンマスターだからかは分からんが、普通の植物は右半身の八割無くても土に元通り、とはならないのは確かだ。


「はぁ……もういい。それでお前の処遇なんだが……殺しはしない」

「ほんとっすか?!」

「というか殺せないんだよな」


 今こいつを殺してしまうと他の魔獣に乗り移り、追えなくなる可能性がある。それならこいつを殺さないでいたほうが良いというものだ。

 幸いマンドラゴラは長寿な植物。場所によっては三千年物のマンドラゴラが生産される土地もあるのだから寿命の心配はしなくていい。


「あ、それでも契約魔法は結んでもらう。暴れられては困るからな」

「もちろん構わないっすよ!どんな契約でも大丈夫っす!」

「じゃあ今後、他の魔獣に憑依した以降も含めて人に危害を加えないこと。出来る限り、魔獣管理を頑張ること。今後もリリスに使役されたままでいること、って感じでどうだ?」

「大丈夫っすよ!むしろ私は人間のこと嫌いじゃないっすから!なんならもっと厳しい契約とかあるのかと思ってたっす!」


 そうか。じゃあ――


「うさぎ跳びで岩壁の周囲を十周すること、ってのも追加しておこう」

「そ、それはやめてくださいっす!」

「冗談だ」

「も、も~!エテルノさんは真顔でそんなことを言うんっすから~!」


 ほっとしたような顔で冗談めかしく、ドーラがぺちん、と俺のことを叩いた。

 対して痛くもなく、傷ができたわけでもないのだが――


「あっ」

「え?なんすか?」

「いや……まぁいいか」

「オオオォォォ……」

「うわぁ?!」


 ドーラの周囲に黒い靄がまとわりつき始めた。怨嗟の声を上げるそれには時々、干からびた人間の死骸のような顔が浮かんでは消えている。

 拷問魔法、『怨恨封神』。俺が前もって、特定条件で発動するように仕組んでいた魔法……というより呪いである。


「こ、これさっき解除したって言ってたっすよねぇ?!」

「おう。ただまぁ、重ね掛けしてたんだよな。発動条件は『俺に攻撃を加えること』だ」

「はぁ?!あんなのが攻撃になるわけないはずないっs……って痛たたたた!!」


 ゴロゴロと地面をのたうち回り土煙を上げるドーラ。まぁ自業自得だな。

 こいつは間接的とはいえ人を殺したのだから相応の罰は受けてもらおう。


 あぁ、そうだ。フリオにもダンジョンマスターは片付いたと言っておかなくてはいけない。始末したという証拠は――トレントのとこに埋まってた頭蓋骨でいいか。

 そんなことを考えながら、俺は深夜のダンジョンを歩いて俺のテントへと帰っていくのであった。


 ちなみに翌朝、悶え苦しんだ挙句泥まみれとなったドーラが倒れているのが発見されるのだがそれはまた別の話である。

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