ダンジョンマスターの真相
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「……」
「……おい、振り向いたまま固まるな。多少はダンジョンマスターとしての威厳を見せろ」
「ななな何の事っすかね!私はダンジョンマスターじゃないっすよ!?」
「おう。さすがにその誤魔化し方は無理があるわ」
話しかけるときに若干緊張していた俺が馬鹿に思えるレベルで、ドーラは普段と変わらないあほさ加減だった。
攻撃された時のために防御魔法とかも使っておいたのだが、無駄になってしまったようだな。
さて、ドーラの様子だが今のところ敵意は感じられない。むしろ相当焦っているのか膝もめちゃめちゃに震えている。
明らかに図星を突かれている、と語ってるようなその状況でダンジョンマスターじゃないとか言うのは無理があるだろ。
「……わ、私はダンジョンマスターじゃないっすよ?」
「いやさっきも聞いたけど、証拠が挙がってる時点でお前はダンジョンマスターで確定だからな」
「ほ、ほーう?何のことか分からないっすけど証拠なんてホントにあるのか聞かせてもらおうっすかねぇー」
まぁ元々そのつもりだったし聞かせてやってもいいだろう。俺の推理を話してやろうじゃないか。
***
まず俺が最初に調査に向かったのはトレントのいた森だった。
ダンジョン内に生息するタイプのトレントは移動できない。にも関わらずあそこにトレントがいたのはダンジョンマスターがあそこにトレントを植えたからにほかならず、それには何らかの意思があってのことだろうと思ったからだ。
結果として、俺はあの森の跡地でやけに大きな墓標を見つけることとなる。
アニキのスキルによってあの森を開拓していたため、墓標の上部分はすっぱりと無くなってしまっていたが何かが埋まっていたこと、このダンジョンにとってその何かがそこそこ重要だったであろうことなどが予測できたため、とりあえず掘り起こした。
そして出てきたのがこちらになります。
持参したバッグを探り、俺は頭蓋骨を取り出した。
人骨のような形をしてはいるが額に角が生えていたり、ところどころに人間とは違う特徴が見受けられたため、何らかの強力な魔獣、もしくは魔人の類だと最初は考えていた。
まぁ残念ながら全身の骨は持ってこられそうになかったので今持っているのは頭蓋骨だけだ。
その頭蓋骨をドーラの前に転がしてやると、ドーラの動きが固まった。
「あ、あんた墓荒らしまでしたんっすか?!この外道!人でなし!」
「ダンジョンマスターに人としての在り方を問われるとは思ってなかったな」
さて、この骨なのだが調べてみた結果、骨に食い込む形でトレントの種が埋まっているのが分かった。
察するに、こいつはトレントに寄生された結果死に至り、埋葬されることになったのだろう。
トレントに殺された哀れな魔族と、その魔族を埋葬した者がいる、という時点で俺は相当に警戒していた。
敵が少なくとも二人いたということは、もしかしたら更に仲間がいるかもしれない。
魔族による総攻撃があったりしたら厄介だと考えたのだ。
そして俺は次に向かった、ミニモ達の見つけたゴブリンの巣穴でまた別の「墓標」を発見することになる。
「っと、ここまで聞いて、どうだ?」
とりあえずドーラの顔色を確認してみる。うん。冷や汗がすごいな。こいつは多分、演技が下手なタイプだ。
「どどどどうしたもこうしたもないっすよ。ここのダンジョンマスターはお墓を作るのが好きだったんじゃないっすかね!」
なんだその言い訳。そんなダンジョンマスターがいてたまるか。
まぁいい。次に向かったゴブリンの巣穴なのだが、ここはシェピアが攫われたのとはまた別の群れだ。ミニモとリリスが見つけ、ミニモが破壊しまくったここの巣穴に住み着いていたゴブリンはかなり少数、そしてそのほとんどが今ではリリスに使役されている。
この巣穴の奥で見つけた墓標には、俺には読めない文字ではあったが墓標と思しき名前が刻印されていた。
掘り返して見つけたのはゴブリンの遺体。つるはしを持たされて特殊な服を着ていたことからこいつはリリスの元にいた、なぜか言語を解すゴブリンだということが分かった。
リリスに依然聞いた話によると、こいつは以前不運な事故で死んでしまったらしい。
それがなぜか、謎の文字を刻んである墓に埋葬されている。不自然な話である。
その次。俺はシェピアが連れ去られた方のゴブリンの巣窟に向かった。こちらにも奥に墓標があったのだが、問題はここからである。
まずその墓標を見て、違和感を抱いた。刻まれた文字に見覚えがあるのである。
トレントのいた森で見つけた墓標の文字は下半分だけしか残っていなかったが、それでも、ここまでに見つけた墓に刻まれていた文字はすべて同じ文字だった。
中にはそれぞれ違う死体がちゃんと入っている墓。だがどれもこれもが同じ名前で埋葬されている。
しかも、墓をちゃんと立てる程度にはダンジョンに重要だった存在が埋葬されている。
うーん、訳が分からん。
まぁあくまで、墓に刻まれていたのが名前ではなく弔いの文句だったとかいうオチも無くはないのだが、とりあえずここは名前が書かれていたと仮定しよう。
さて、ここで少し考え方を変えてみることにする。どの墓が一番古いのか、という考え方だ。
ダンジョンの最深部、トレントの森にあるのが多分一番古いんだよな。少なくともここまでまめに墓を建てるような奴だ。ダンジョンの最深部に意味なく墓を建てるとは思えない。ましてや埋まっていた骨はここのものが一番重要そうだったわけだし。
ゴブリンの死骸に比べたら、そりゃ魔神っぽい骨の奴が重要度は高そうである。
更に、いくら探しても見つからないダンジョンマスター。攻撃を仕掛けてくるくせに姿は現さない。ここまでを照らし合わせると――
「あれ、ダンジョンマスターってこれ、もう死んでね?となったわけだ」
「お、おかしいっすよ!いくら何でも考えが飛びすぎっす!第一ダンジョンマスターが死んでるならこのダンジョンはもう機能してないっすよ!それにそれに、私がダンジョンマスターだって話はどこに行ったんすか!」
ここぞとばかりに抗議してくるドーラ。もちろん、言っていることは間違っていない。俺も最初は冗談半分で考えていたわけだし。
「まぁ落ち着け。あくまで仮定としてダンジョンマスターは既に死んでいる、ということにしたわけだな」
ここまでに行った仮定は二つ。
「ダンジョンマスターは既に死んでいる」「三つの墓に埋葬されているのはすべて同一人物である」この二つだ。
すると更に予測が立つ。ダンジョンマスターは死後、何らかの生物に乗り移ることができるスキルを持った生霊の類なのではないか?
そうだとすれば、複数ある死体も、いちいち丁寧に埋葬しているのも説明がつく。
リリスの使役していた「喋るゴブリン」はダンジョンマスターが乗り移っていたから、他のゴブリンが喋れない中であいつだけ喋れていたわけだな。
「ところでなんだが……普通は喋れないはずなのになぜか喋ってる奴、ゴブリン以外にもどっかにいたよなぁ?」
ドーラの方を向いて言ってやると、速攻で目を逸らされる。
「そいつ確か、リリスのゴブリンが死んだ後辺りから喋るようになったんだよなぁ?元はただの、鉢植え植物だったのになぁ?」
「な、なんのことか分からないっすね……」
往生際悪いなこいつ。
さて、ドーラが他の生物に乗り移る能力を持ったダンジョンマスターだと仮定すると他にも説明がつくことがある。
例えば、俺たちの作戦の穴をつくように的確に攻め込んできていたこと。俺たちが探索に出ている隙にダンジョン内の町が魔獣によって襲われたのは記憶に新しい。
実際、その時の作戦はリリスと一緒にドーラも聞いていたのだからこちらの内情は筒抜けだったわけだ。
いくら探しても見つからなかったこともそうだ。最初から自分たちの目の前にいたマンドラゴラが、まさかダンジョンマスターだとは思うまい。
最初はただの思い付きだったが、考えれば考えるほどこいつがダンジョンマスターとしか考えられなくなっていく。
そんなわけでこいつがダンジョンマスターだと判断したのだが……反応が分かりやすすぎるんだよな。
怪しすぎて逆にダンジョンマスターじゃないんじゃないかと疑い始めているレベルだ。
「あぁ、ところでなんだが……」
「な、なんっすか?」
「トレントに寄生されて死ぬって、トレントを植えたのもお前なのにそれはどうなんだ?植えた自分が被害受けてどうするよ」
「うるさいっすねぇ?!あの時は私だって焦ってたんすよ!……あっ」
「……すんなりと自白したな」
「ひ、卑怯っすよぉ!」
涙目になるドーラ。もう反論することもできなくなったのか、その場に力が抜けたように座り込んで涙をぬぐい始めてしまった。
いや、最終的にはお前が自白したわけだからな。
こんな奴に今まで翻弄されていたとは。あまりの馬鹿らしさに頭が痛くなってきて、俺はため息をついた。




