巣窟からの脱出、ダンジョンマスター捜索
「うわぁ……」
「ほらほらほら!当たりなさい!」
俺たちがグリスティアに追いついた時、既にゴブリン達は壊滅状態だった。
生き残った数匹が逃げようとしているが、グリスティアの魔法が的確にゴブリンの体を貫き、壁に磔にしていく。
そしてそれを見て、ドン引きしたような声を出すフリオ。俺もこの場はフリオに完全に同意だな。
ほら、ダンジョンの壁にゴブリンの血とか飛び散ってるし。酷い有様だ。
「これで……最後の一匹!」
「グギャァ?!」
グリスの杖が振るわれ、最後の一匹となったゴブリンが倒れ伏した。
グリスティア、初めて会った時には思いもしなかったが恐ろしい奴である。
「シェピア!大丈夫?!」
ゴブリンが死んでいるのを確認し、グリスティアがシェピアを揺する。シェピアは動いていないようだが……だが息はしているようだな。それを遠目に確認し、俺はバックから薬瓶を取り出した。
「グリスティア、ちょっといいか?」
「良いけど……何をするの?」
「ちょっとシェピアの傷を見せてくれ」
シェピアの傷口に処置をしていく。見たところ、ゴブリンの麻痺毒にでもやられたのだろう。
麻痺症状を和らげる塗り薬も塗っておこうか。
「……よし、こんなもんだろう」
っと、忘れていたな。シェピアの服はゴブリンに引き裂かれてしまったようなので俺のローブを脱ぎ、掛けておいてやる。
ふと、フリオが心配そうにこちらをのぞき込んでいるのに気づいた。
「大丈夫そうかい?」
「いや、死にはしないだろうが放置すれば後遺症が残る可能性はあるな。出来るだけ早くミニモに治してもらった方がいいだろうよ」
「……分かったわ」
深刻そうに俺の忠告を聞いていたグリスティアが、ダンジョンの壁に向けて杖をかざす。
「おい、お前まさか……」
「打ち砕け!『崩滅神骸』!」
直後、ダンジョンの壁が吹き飛んだ。あぁ、この脳筋ムーブ、既視感あるわ。
だんだんとこの状況に慣れてきている自分に恐怖を感じつつ、俺は負傷者の応急処置を続けるのだった。
***
「おかえりなさいエテルノさん!グリスちゃんもお疲れさまでした!」
「ミニモ!ただいま!」
ゴブリンを掃討してから約二十分、俺たちはギルドまでダンジョンの壁をぶち抜いて最短距離でギルドまでたどり着き、ギルド前にシートを敷いているミニモと合流を果たした。
「ミニモ、人数が多くて悪いんだが治療を頼めるか?」
「ふふふ、そんなこともあろうかとシートを敷いていたのですよ!さ、負傷者を並べてくださーい」
なるほど。準備がいいことだ。俺たちは促されるままに、担いで帰ってきた負傷者たちを並べていくのだった。
それからまた数十分、ミニモの治療がひと段落したようだったので、話しかける。
「ミニモ、どうだ?後遺症は残ってしまいそうか?」
「……いえ!大丈夫そうですね!この感じなら全員完璧に治せそうです!」
「そうか。それは良かった。……ところでなんだがお前、グリスティアに何て言った?めちゃめちゃ前向きになっていたが、何をしたらあそこまで元気を取り戻すんだ?」
そう、それがずっと疑問だったのだ。グリスティアがあそこまで変わったのはミニモに話を聞いてもらったからだ、とはグリスティアが言っていた。
では、ミニモは何と言って説得したのか?気になる。
「んー、ちょっとそれは内緒です。そうですね……、何か言葉で説得するより、行動したほうが納得してもらえることもありますよ、ってことで!」
「……まぁ無理に聞こうとは思わんが……」
でも気になるものは気になるよな。あぁ、他にも疑問があった。
「じゃあ次の質問だ。なんでお前はグリスティアに付いてこなかった?ゴブリンに攫われた人間がいるのは分かってたよな?」
「そうなんですけどね……でも、私もこっちでやることがあったので……行けなくてすいませんでした」
「……いや、責めているわけでは無いんだ。向こうにたどり着いた時点での生存者は誰一人死ななかったわけだしな。むしろここまで治療を施せてるのはお前のおかげだろ」
俺が『たどり着いた時点での生存者』などと曖昧な言い方をしたのは、死傷者がいなかったわけでは無いからだ。
救助隊からは死傷者は一人も出なかったのは事実なのだが、すでにゴブリンに殺されてしまっていた商人がいたのだ。シェピアよりも前に攫われてしまっていたのだと推測されている。
「……埋葬はいつになりそうですか?」
「ダンジョン内に埋めていくのも良くないだろうからな。なんとか遺族に届けてやりたいところだが……」
未だに岩壁の外には魔獣がひしめいている。このダンジョンをどうやって出るか見通しが立っていないのが現状だ。
っと、それで思い出した。元々俺はダンジョン内を巡っていて違和感があった場所を調査しようとしていたのだ。シェピアがゴブリンに攫われてしまっていたから先送りになっていたが、今なら調査に行けるな。
早速ミニモに確認する。
「ミニモ、まだ俺はここに居たほうがいいか?」
「いえ、大丈夫ですよ?治療は私一人でもなんとかなると思います」
「そうか。じゃあちょっと用事があるから行ってくる。フリオ達にも伝えといてくれ」
「はいはーい。了解です!」
違和感があった場所、まずはそうだな……。トレントが森を作っていた、あの場所から調査しに行くか。
***
深夜、ダンジョン各所の調査を終えて俺はギルドまで戻ってきていた。あちこちを移動し、色々調べまわったために今はとんでもなく眠い。が、そうも言っていられないのが現状だ。
ダンジョンマスターの目的はいまだ不明のままだが……居場所を突き止めたのだ。
放置していても何をしてくるか分からないためにさっそく対処しに行こうと考え、ここまで戻ってきた形になる。
さて、お目当てはどこにいるだろうか?俺は明かりのほとんどついていないキャンプ地近くを歩き回り始めた。
***
そのまましばらくギルド周辺のキャンプ地を歩き続け、ようやく動き回る人影を見つける。
予測の通りならばとりあえず、危険はない。声を掛けるとしよう。
「--よう、ダンジョンマスター。いい夜だな」
俺に唐突に声を掛けられた人影が、驚いて跳ね上がる。
「といっても、ダンジョンの中だから月明りすら見えないのが残念だが……まぁ良しとしよう」
「な、なんでここに……!というかなんで知って……?!」
そう。その反応だ。驚かせようとこっそり近づいた甲斐があったというものだ。
そのまま俺は人影に向けて話しかける。といっても、小さな、小さな人影だ。
「さぁな。なんでだと思うよ。お前が甘かったからじゃないか?なぁ、ドーラ?」
リリスに使役されている魔獣のうちの一匹、マンドラゴラのドーラに向けて、俺は問いかけたのだった。




