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壁の向こう側、壁の中

「シェピアさん!どこですかー?!」

「……いないな」

「いないね……いったいどこに……?」


 シェピアの捜索が始まって三十分、シェピアの足取りは掴めないままでいた。

 最後に彼女を見かけたのはフリオとグリスティア。それから一人で魔獣を討伐していたであろう彼女がどこにいるか、分からないのも当然であった。


 単純に、捜索している人数が少ないというのも問題かもしれない。他の冒険者たちを起こすのも申し訳なかったのでフリオと俺、フィリミルのみが捜索メンバーなのである。


「……駄目だな。すまないが、グリスティアを起こして探知魔法を使ってもらうか」

「うーん、そうだね……じゃあ僕が起こしてくるよ」


 そう言うとフリオがギルドに戻っていく。

 さぁ、俺は捜索に戻るとしようか。幸い、シェピアは強力な魔法を連発して魔獣を倒している。魔法の痕跡を辿れば――

 --いや、無理だな。連発しすぎてどこの方向に向かったのかもよく分からない。


「エテルノさん、シェピアさんって大丈夫だと思いますか?」

「……どうだろうな。魔獣に負けることは考えられないが何かしらドジをしていそうな性格ではあるよな」


 フィリミルに聞かれて答える。思い出すのはあいつがダンジョンの中で魔法を撃っていたときのことだ。

 あいつの魔法に巻き込まれかけ、説教をしたことがあった。それ以降も何度も何度も、火炎魔法で火災を起こしかけたり、食材を無駄にしたり、テントを倒したり、夜中にうるさかったり……。


「要するに、周りが見えてないんだよな。だからへまをやらかしているのは確定だと思う」

「僕もそう思うんですよねー。ちょっと嫌な人でしたけど、ドジなところがあるから心配で……」

「まぁ、そうだな……」


 本当に心配そうな顔をしているフィリミル。シェピアがいないことに真っ先に気づいたぐらいだ。シェピアのことをそこそこ気にかけていたのだろう。


「ごめん、お待たせ!連れてきたよ!」

「な、何よ急に……」

「ん、フリオか。思ったより早かったな」


 フリオがグリスティアの手を引いて戻ってくる。グリスティアは寝起きなのだろう。眠そうに目をこすっている。


「それでなんだがグリスティア、探知魔法で探してほしい人がいる。どうも昨日から行方不明のようなんだ」

「分かったわ。誰を探せばいいの?」

「シェピアだ」

「……ッ」


 シェピアの名を出した瞬間グリスティアの顔が強張る。気持ちは分かるがしょうがないことだ。しっかり協力してもらおう。


「できそうか?」

「……やってみるわ」


***

 

 グリスティアの魔法でシェピアを探してもらいながら待つこと約五分。彼女はふと、困惑顔を見せてこちらに戻ってきた。


「どうした?何かあったか?」

「いや、ちょっとおかしいのよね……」

「詳しくお願いできるかい?」

「えっと……まず、岩壁の中にはどこにもいないみたいなのよ。町の中は全部探したと思うわ」


 ……やはりか。どうやったかは知らないがシェピアならば岩壁の外に出て魔獣を倒しに行こうとすることもあるような気がしていた。

 だがそうなると、Sランク冒険者であるシェピアと言えど生存は絶望的--


「シェピアは、あっちにいるようなの」

「……え?ど、どういうことだい?」

「それが分からなくて……」


 グリスティアの指さす先は、ダンジョンの壁、だった。

 ……どういうことだ?シェピアはダンジョンの壁にでも埋まってるのか?


「グリス、それは……疑うようですまないんだけど、本当にちゃんと調べたのかい?」

「私が一番意味が分かってないのよ。今までこの魔法を使っててこんなこと、無かったのに……」

「……あ」

「ん?エテルノ、どうしたんだい?」 


 ふと、ある可能性に思い至る。いや、そんなことがあるのかは分からないが……そうでもなければダンジョンの壁の中にシェピアがいることなぞあり得ない。


「ミニモとリリスに詳しく話を聞く必要ができた。すまないが、先に戻る。後で追いついてきてくれ」

「え?ちょ、ちょっとエテルノ?」


 急いで二人の居る所へ向かう。

 予想が正しければ、シェピアは非常にまずい状況に陥っている。少しでも早くたどり着かなければ――!


***


「さーて、どうしようかしらね」


 魔法を放ちながら考える。もう周りにはグリスティアも、その仲間のフリオさんもいない。つまり私が何をしようと自由ってわけで――


「吹き飛びなさい!『風来黒禅』!」


 目の前にいた魔獣を広範囲魔法で吹き飛ばす。今の魔法でざっと十体ぐらいは吹き飛ばせただろうか。魔法の余波で周囲の地形が変わるほど、強力な魔法だ。

 こんなダンジョンの魔獣たちに使うにはもったいないほどなのだが、私は、出し惜しみをしない主義だ。周囲に人がいないのだから遠慮なく使っていこう。


「でも、さすがにちょっと疲れたわね……」


 ダンジョンの壁の傍に座り込み、考える。

 魔法とてタダで使いまくれるわけでは無い。使えば疲労もするし、規模によって疲労度も変わる。

 私は魔法を使える人間の中でも相当に優秀な部類なのでこの程度の疲労で済んでいるが、普通の魔術師なら私の放つ魔法は一発撃つのが限界だろう。

 ……そんな私よりも凄い人間も、もちろん存在するのだが。


「なのに、こんなとこで何やってるのよグリスティア……」


 彼女は、私よりもよほど優秀な魔術師だ。そうだったはずだ。なのに――

 不意に、背後から足音がした。


「ッ……?!誰?!」


 鈍い感触。揺らぐ意識。

 ……殴られた?いや、でもさっきはあの場所に人なんていなかったはず――


 意識が遠のいていくのを感じながら、私、シェピアは倒れこんだ。

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