聖人(剣士)
「カンパーイ!!」
「……おう。乾杯」
俺たちは今、ギルドに帰ってきて祝勝会をしていた。あの蛇の魔獣を倒したことによってそれなりの報酬が出たため、ミニモが祝勝会を提案したのだ。
「エテルノ、君は何を頼むんだい?」
「フリオか。えぇと、そうだな……これとこれ、それと酒だな」
「いいね。それにしても、君は案外たくさん食べるんだね?」
「あぁ。食べれる時に食べておかないとな」
そういうフリオの皿を見ると、乗っていたのは少量の肉と野菜、そしてコップ一杯の酒だ。かなり少ない。
「……お前は随分少食なんだな。剣士なのに珍しいことだ」
「フリオさんはお金を貯めてるんですよねー!」
「ミニモ、別にそれは言わなくても……」
「いーえ!フリオさんの貯金の理由は凄いんですから!」
俺とフリオが会話をしているところに顔を赤くしたミニモが会話に入ってくる。ミニモはさっきから酒をがぶ飲みしていたからな、すっかり出来上がっているようだ。
まぁそれはそれとしてフリオの節約の理由か。気になるな。
「フリオさんはねぇー、孤児院に寄付するために自分のお金を貯めてるんですよ?」
「ふむ、そうなのか?」
「うん、まぁね。僕が元々孤児だったから、少しでも助けになれればな、と……」
「だからって自分の身を削ってちゃ意味ないわよ?私たちが居るんだから、一緒に頑張っていけばいいじゃない?」
「ありがとう、グリス。でも僕は元々少食だからね。この量で十分なんだよ」
やはりフリオ、剣士より聖人の方が向いてるんじゃないだろうか。誰をも平等に愛し、誰をも救ってみせる、的な。
そんな聖人みたいな性格をしているこいつに嫌われるのは難しいことではあるだろうが、パーティーのリーダーであるフリオに嫌われることが出来れば追放されるいいきっかけになるんだよな……。
よし、もう少し深いところまで聞いてみるとしよう。
「なぁフリオ、孤児院に居たって事は結構大変だったろう?」
「まぁね。でもその生活が僕の今を形作ってるんだと思うんだ」
「……そうか。だが孤児院で不満だったこととかは無かったのか?」
「んー、強いて言うなら、汚れかな。僕は綺麗好きだってよく言われていてね、周りが汚いのは我慢できなかったかな」
なるほど、汚れか。とすると、俺が不潔な人間だとフリオに感じさせることが出来れば追い出されることもあるかもしれない。
試してみる価値は、ありそうだな。
「なぁフリオ、そういえば森から帰ってきて手を洗ってないんだが……」
「そういえばそうだね、食事の前に手を洗っておこうか。エテルノも綺麗好きなんだね?」
……功を急ぎすぎたか。
この場合食事を始めてから手を洗っていないことを言っておくべきだったかもしれない。
と言うより、今の会話のせいで好感度若干上がってないか?勘弁してくれ。
「……洗いに行くか」
「うん、僕も一緒に行こう」
ここで洗いに行かないのも不自然なだけだ。
ふむ、ならば次の手を考えようじゃあないか。
***
翌日、俺は市場を歩いていた。目的はもちろん、フリオに嫌われるための材料を集めるためだ。
材料はそうだな……、やはりゴミやちり紙がいいだろうな。あとは果物。若干腐っているものだとなお良い。匂いも綺麗好きには重要な要素となっているだろうからな。
そんなわけで市場を歩いていると、面白い物を見つけた。
遠方と遠方を繋ぎ、一方的に監視することが出来る魔道具。基本は囚人の監視なんかに使われているものだ。
見た目は対になっている水晶そのものなので、部屋の小物として置いてあってもなんの違和感もない。
「いいな、これ。仕掛けられた時のフリオの反応を見られれば今後の対応をより良いものにできる。おい店主、これはいくらだ?」
昨日の魔獣討伐の報酬を二割ほど持っていかれたが、まぁいい。必要経費として割り切ろう。
あとは部屋をいい感じに散らかし、この魔道具を設置した上でフリオを部屋に呼ぶだけだ。簡単な事だったな。
俺は高笑いをしながら帰途に着いたのだった。
***
俺の部屋から離れたところで魔道具を前にして座る。
フリオに話があると呼びつけ、先に俺の部屋で待っていてもらうように言っておいたのであと三十分としないうちに部屋へとやってくるはずなのだが……
と、ガコン、と音がした。
早くないか?まぁフリオの性格なら時間より早く来ることだってあるかもしれないが……
俺が魔道具を覗き込むと、俺の部屋の床板が外されているのが見えた。
ぎょっとしていると、床板を外して部屋に上がってきたのは、ミニモだ。
……なるほど分からん。
「何やってんだこいつ?」
思わず口走ってしまう。いや、それはそうだろう。何やってんだこいつ。
ミニモは辺りを見渡すと、そっと片付けを始めた。なるほど、部屋を片付けに来たと。どういうことだ。
困惑する俺を他所に、俺が床に放りすてたバナナの皮を頭に被って髪をなびかせるようにバナナの皮をファサっとしてみたり、俺のベッドのシーツを整えてみたり、花瓶に花を生けたりしだしている。
そして最終的に俺のハンカチを拾い上げ、そっとポケットにしまった。
「……どうすればいいんだこれ」
すげぇなあいつ。まだ酔っ払ってるんじゃないのか?
そうこうしているうちにミニモは床下へと戻り、床板をしっかりはめ込んで去っていった。
あぁ、あれだけ頑張って汚した部屋がこんなに綺麗に。
いや、というかサラッとハンカチ持ってってるんじゃねぇよ。最近何枚か見当たらなかったのはお前が原因か。一体俺が何をしたと言うんだ。
そしてミニモが去ってすぐ、俺が待ち合わせを決めた時刻のきっかり五分前。
フリオが俺の部屋にやってきているのが魔導具に映った。
俺の部屋を見て清潔感に納得し、机の上に置かれた花瓶と花を見て感心しているようだ。やめろ。俺に花を生ける趣味はない。後で花の生け方を教えてくれと頼まれても困るんだ。
……いや、マジでなんなんださっきの。
ミニモは何を考えてるんだ。訳が分からないというより純粋に気持ち悪いが。
俺が身の危険を感じるなんて久しぶりだぞ。
どうやら俺がこのパーティーを出ていきたい理由がまた1つ、増えてしまったようであった。
……とりあえず帰ったらすぐに宿の主人に言って、俺の部屋を変えてもらうとしよう。
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