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冒険の帰り道

「化け物じゃないか……!」

「誰が化け物だ。失礼だな」


 オーウェンがじりじりと後ろへ下がりつつあるのを見て、俺はまた一歩距離を詰めた。

 すぐに俺の体が消滅させられ、死ぬ。

 が、蘇生魔法を使って復活。

 オーウェンがまた後ずさりをし、俺がまた距離を詰める。


 先ほどからこれの繰り返しだ。

 俺は死なないのだから、オーウェンが俺に勝つのはまず不可能。

 だが、俺もオーウェンに近寄ることができない。

 何しろ蘇ってすぐに殺されるのだから。


「さて……膠着状態だな」


 このままでは、俺がひたすら殺され続けてオーウェンがひたすら逃げ続けるだけの不毛な戦いだ。


 ただし、このままなら、の話ではあるのだが。


「オーウェン、お前の負けだよ」

「は……?そんな状態で言わないで欲しいものだねぇ」

「……うん、まぁそれはその通りなんだけどな」


 オーウェンに散々消滅させられたせいで、そもそもの俺の体の再生が追いついていない部分がある。

 いくら治癒魔法と蘇生魔法を使えるようになったとはいえ、まだ練習が足りない。

 ミニモには到底及ばない再生速度なのだ。


 ただ、俺がオーウェンよりも優れているのは『それ以外の魔法も使える』ということだ。

 特に不意打ちを察知することに関してははるかに優れている。


「お前、何を笑って--」


 俺の態度に疑問を持ったのか、オーウェンが不思議そうな顔をした瞬間だった。

 地面からずるりと伸びた腕が彼の足を掴み、思い切り捻じ曲げた。


「ッがァアぁ?!」

「っと……随分派手にやったな」

「あぁ。こいつには悪いけど、このまま逃げられるのが一番困るからな」


 そのまま地面から這い出してきたのはアニキ。ディアンのスキルで地中を通ってやってくるのを、俺は探知魔法で察知していた。


 もちろん、やってきたのはアニキだけではない。


「エテルノ、大丈夫だったかい?!」

「あぁ。無事か無事じゃないかで言ったら何度も殺されたが、まぁ無事だろう」


 フリオ。俺の親友が既にやって来ていた。

 その隣には言うまでも無く、グリスティアが控えている。


「無茶しすぎじゃないかと思うわ。ミニモがそんな戦い方をしてたからって貴方までそんな風にしちゃうのはどうなの?」

「うーん……確かにそうなんだがな。ただ、オーウェンも言っていたんだが禁術に対抗するには禁術を使うしかないんだ。だから割と苦渋の決断というか……」


 毒を以て毒を制す、だったか?

 まぁどうでもいいが。


 グリスティアも、フリオも、アニキもシェピアも、考えうる限りの仲間たちが既に揃っている。

 もしオーウェンが皆に手を出したとしても俺がすぐに蘇らせるから何の問題もないだろうが……オーウェンは、今までよりも更に思いつめたような顔をしていた。


「おいオーウェン、もう降参しても良いんじゃないか?お前もこれ以上戦うのはきついだろ?」

「……ふざけないでくれよ。このままじゃ禁術使いを殺せないのなら、もっと方法はあるんだ」

「……おい?ちょっと待てお前何を--」


 オーウェンが手をかざすと、周囲の物が変化してすぐに大小様々の魔獣に変わっていく。

 魔獣たちはすぐに俺達へ向けて飛び掛かって来た。


「変換は、無機物を生物に変えることだってできる。これでもお前らにとっては多少の時間稼ぎには……!」

「うーん……まぁそれは無茶だろ」


 フリオもグリスティアも、自分たちに飛び掛かって来た魔獣を一瞬で仕留めている。

 フィリミルやリリスでさえも大した時間はかからなかった。


 残った魔獣たちはバラバラにどこかへ逃げていく。

 もう俺達の戦いが終わるまで、奴らが手を出してくることは無いだろう。


 これが冒険者だ。

 様々な経験を積んできた俺達が今更魔獣に後れを取ることなぞあり得ない。


 オーウェンは冒険者では無いからな。彼の目には魔獣はそこそこの脅威に映るのだろうが、俺達からしてみれば知恵のある人間の方がよほど厄介だ。


「そ、それなら今度はドラゴンを--!」


 ドラゴンを町で呼ばれるのは流石にまずいな。

 切り刻んでおいてアニキの『収納』で隔離してもらうか?


 そんな風に、考えた時だった。

 オーウェンが下卑た笑いを浮かべる。


「……そうだ、いっそのことこの町丸ごと魔獣に変えてしまおうか?そうすれば、いくらSランク冒険者だろうと全滅だよねぇ?」

「……オーウェンお前、何のために禁術使いを殺そうとしてるんだよ?」

「そんなの決まってるじゃん?禁術を悪用してるような人間を抹殺して、僕みたいな被害者が出ない様にするために--」


 なるほど。もはや自分の言っていることのおかしさにすら気づかないらしい。

 死霊術師バルドの一件から、禁術について俺達が学んだことがある。


 それは禁術にはデメリットがあるということだ。

 ディアンは元々『魅了』のスキルを持っておりこれを使ってシュリやらネーベルやらを懐柔していたわけだが、このスキルは禁術を身に付けた時に消滅したらしかった。

 

 禁術、というぐらいだ。

 身に付けた人間は多少なりとも何かを失う。


 バルドの場合は強力なスキルを、ミニモの場合は……あいつの場合は死への恐怖心とかかもしれない。

 イギルもかなり人間的な感性がズレているし、ディアンの場合は……まだ詳しくは話していないから分からないが、少しだけ以前のあいつとは違う行動をするようになっている気もする。


 その法則にのっとれば、オーウェンが禁術を身に付けるために失ったものも自然と知れてくるだろう。

 

「『理性』……ってところか。お前随分なもんを失ったな」

「何を言ってるのか分からないねー。残念だけど、僕は冷静そのものだよ?」

「はいはい。それで?もう分かっただろう?お前はもうだめだよ」

「いや全然分からないね。だってほら、ここからでも僕はまだ負けてないんだからさぁ」


 オーウェンが何やらほざいているが、俺はもうオーウェンのことなぞ見ていない。

 見ているのは、もうひとりの方だ。


「おいマスク、どうだよこの話を聞いて?」

「--おう。もう覚悟は決まったぜ?兄ちゃんたちにも今まで迷惑かけたなァ!」

「なっ……?!」


 オーウェンの背後、先んじて俺が復活させておいたマスクを透明化させて配置しておいた。

 もしオーウェンを倒したとしても、後々俺が苦労させられる可能性もあるからな。

 特に、マスクやオーウェンをこちらへ送り込んで来た組織と敵対することになってしまったらたまらない。

 その意味でも、こいつらが同じ組織なら自分たちで決着をつけてもらおうじゃないか。


「覚悟しろよオーウェン。仲間の道を正すために振るわれる俺の拳はちと重いぜ!」

「へ、『変--』」


 ゴッ、と鈍い音が辺りに響く。

 マスクの拳にまとわりついた岩塊が見事にオーウェンを弾き飛ばしたのだ。


 一瞬でオーウェンの意識を刈り取った岩塊はそのまま解けるように空気に変わっていく。


「……さて、これで終わったな」

「だね。それでこれからどうするんだいエテルノ?」

「そうだなぁ……とりあえず、町に散らばった魔獣を処理しに向かうか?」

「うえぇ……そんなの私達がやらなくても良くない?もう別の冒険者を呼び戻しましょうよ……」


 そういう訳にもいかないだろう。

 それに、オーウェンを倒したことで多少なりとも気が緩んでしまうからな。

 徐々にペースダウンを図る意味でも魔獣処理はしておくべきだ。


「フィナも放置しっぱなしだしな」

「あ、それは俺が『収納』しといたぜ」

「助かる」


 さて、やることは山積みだ。

 冒険は敵を倒して終わりではない。無事に安全な町まで戻ってきてこその冒険者なのだから。


「さて、ここからも頑張るか!」


 そう言って見上げた空は、相変わらず雲一つない吸い込まれそうなほどの青を晒していた。

完結前に、相当過去話を編集すると思います。

そのせいで通知が行ってしまう方も居るようなので、やたら通知がうるさくなってしまって耐えきれない場合には一旦ブクマを解除してしまってください。

今週中には完結させたいと思うので、一日で百話は編集していこうかと。


ブックマーク表示が新着更新順に設定されていない方であれば、おそらく問題ないです。

ご迷惑をおかけします!!完結前に、更にいい作品を目指します!

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