受け継ぐ力
以前フリオと話したことがあった。
Sランク冒険者ばかりの俺達のパーティーの中で、いったい誰が一番強いのか。
「うーん、やっぱり一番強いのはエテルノじゃないかい?」
「お世辞は良いから、客観的な意見をくれ」
「お世辞というか、敵に回すんだったらエテルノが一番嫌だなってね」
俺に気を使っているのか、フリオが真っ先に挙げたのは俺の名前だった。
「実力的な意味では僕達の中だとエテルノはそこまででもないかもしれないけどね、でも何と言うか、気を抜いた瞬間場をひっくり返されそうな恐ろしさがあって……」
「そうか……?」
「うん。それに僕はそこまで読み合いに長けてないからね。エテルノの罠にはまって負けるのが目に見えてるよ」
それはそうでもないと思うが……
「フリオもスキルで人影を呼び出せるだろ?人影をけしかけられてフリオは動かない、とかだと俺も苦戦すると思うぞ」
「うーん、それはそうなんだろうけど僕はじっとしてられないかなぁ」
俺が強いというのならフリオも相当なものだ。
読み合いに長けていないとはいえ頭が悪いわけでは無く、いざという時には中々考えられた行動を取ったりするフリオも確かに強者の一人と言えるだろう。
スキルについても、圧倒的な数の暴力と不死の影達が襲い来るとか言うわけのわからない代物なのだから俺とてフリオと戦うのは避けておきたい。
「僕達がもし戦ったら勝敗は運次第、ってことになるのかな?」
「そうだな。膠着状態が続くとは思うぞ」
さて、他のメンバーはと言うと……
「グリスティアも怖いところがあるよな。遠距離にあいつが居た時にはもう手が付けられないぞ」
「グリスはそもそも魔法で僕らとの距離を引き離してきそうだしね。魔法は何でもありなのがずるいと思うよ」
グリスティア。俺が今まで散々磨いてきた魔法ですら彼女の魔法の腕には及ばない。
多種多様な魔法を使い分けてくる彼女からすればきっと、俺達がいかに小細工しようと何の障害にもならないことだろう。
フリオが召喚した影達ですら、きっとグリスティアの魔法の前では蹴散らされてしまう。
「戦うとしたなら読み合いでどうにかするしかないだろうな。やっぱり罠しか使えないか……」
「Sランク冒険者を罠でどうにかしようと思えるのもエテルノぐらいだよね」
まぁただ、そんなグリスティアでも絶対に勝てない相手がいる。
フリオもそれに気づいているのか、ため息をついて言った。
「ただ問題は、ミニモに関しては倒せないんだよねえ」
「だな」
ミニモ=ディクシア。治癒魔法を駆使することで、基本あいつは不死身と同じだと思って良い。
強化魔法を併用しているせいで力は基本人外並みなこともあり、グリスティアがどうにか逃げたところでミニモを倒しきれることはあり得ないと思って良い。
「正直フリオ、お前ミニモ倒せると思うか?」
「いやぁ、無理だね」
「だよな。俺も自身が無いぞ」
封印とかなら何とか出来るかもしれないが……あいつはそれすらも打ち破って来そうで怖いんだよな。
「となると僕達の中で一番強いのはミニモなのかな?」
「だな。戦闘でもサポートでも、メンタル面でも多分あいつが最強だ」
***
「--ってことが前にあったんだが」
「何の話なのか全然分からないね……」
以前の話をオーウェンに伝えたものの、やはり怪訝な顔をされてしまう。
ミニモは最強だというのが伝えたかっただけなんだが。
「オーウェン、お前なんでそんな微妙な顔してるんだ」
「いや……さっき殺した相手が復活してきたかと思ったら訳の分からない話をしてきたんだからそりゃあこういう顔にもなるでしょ……」
まぁそれもそうか。
さて……そろそろ普段通りのオーウェンなら俺の切り札も分かっているはずなのだが。
「お前まだ俺の切り札が分からないのか?」
「……」
「えぇ……」
分からないようだ。
どうしたものか……そろそろ種明かしをしてしまうか?
そう俺が思い始めた時だった。
「--『変換』」
「ッぐ……!」
一瞬で喉が潰され、口の中に血の味が広がる。
喉に手をやってみるとパックリと空間が空いている。
まるで喉を一部分だけ、切り取られたような。
「頭ごと消し飛ばしでも復活してくるならこうやって見極めさせてもらうよ。幻だと言うのなら、これで君が消えなかったらおかしいしね」
だからって会話の最中に唐突に致命傷を負わせないで欲しいのだが。
「どうせこれでも致命傷にはならないんだよねー。だから、君がどうやって復活してきてるのか見極める」
喋るだけでも結構きつい。
すぐにオーウェンに手の平を向け、数百本に及ぶ氷槍を放った。
「危ないからやめてほしいなァ」
「お前の方が危ないわ……!」
もちろん、そんな雑な攻撃が今のオーウェンに通じるはずもない。
すぐに消え去ってしまった氷槍はおそらく、空気か何かに変えられたのだろう。
「……うーん、結構苦しんでるように見えるんだけどねー」
「苦しいに決まってるだろうが……!」
喉に穴をあけられているせいで息をする度にヒュウヒュウと喉から、肺から空気が流れ出す。
息が出来ないのももちろんそうだし、おそらく相当に血が流れだしているに違いない。
「う、おぉ……!」
「っと、本当に危ないな……あんまり近寄らない様にしないと……」
土魔法で結晶を生み出し、オーウェンの頭上から落としてやる。
残念ながら、それもすぐに消えてしまったが。
「もう諦めたらどうかと思うんだけど?」
「諦めるわけ無いだろうが。この程度で勝てると思うなよ!」
「いやいや、もうそんな状態じゃどうしようも……」
オーウェンが一瞬、隙を見せる。
言うまでも無いことだが、その隙を見過ごす俺では無い。
「油断したな!」
「えっ?」
喉の傷を一瞬で塞ぎ、剣を持ってオーウェンに切りかかる。
剣が一瞬で消滅し、そのまま勢いで拳を--
「っつ!」
オーウェンに触れる寸前でやはり拳も消えてしまい、痛みが全身を駆け巡る。
すぐに感覚を遮断して冷静さを取り戻し、傷口を焼くことで止血を終える。
だが、俺を見るオーウェンがこれ以上に無いほどに目を見開いているのはきっと、俺の不意打ちに驚いたからばかりでは無いだろう。
「お、お前それ一体……?!」
オーウェンが指さしているのは俺の喉元。
先ほどまで穴が開いていたそこは既に新品の皮膚で覆われていた。
「……これが俺の切り札だよ。お前が隙を見せるまで使わないでおいたんだが……避けられるとは思わなかったな」
「ふざけるなよお前!説明しろよ?!今のはまるであの女の……!」
あの女、ではない。彼女の名前はミニモ=ディクシアだ。
「ミニモ=ディクシアの魔法だろう今のは!そんな馬鹿な話がある物か!お前は治癒魔法なんて使えたはずが……!」
「随分と口調が乱れてるな。そんなに怒らなくても、今までもしっかりヒントを出してきたはずなんだが……」
まず、俺達のパーティーの中で最強はミニモ=ディクシアだ。
これが第一のヒント。
そして、本来なら知らされるはずのない第二のヒントも、オーウェンのスキルで知られているのだから。
「オーウェン、俺のスキルの内容をもう一度復唱してみろ」
「そんなの、『追放されるほど強くなる』だけに決まって……!」
「厳密には、『追放された時、パーティー内で一番強い人間に追いつくまで成長が早くなる』的なものだな。そして、その成長には相手と同じ『スキル』や『魔法』が使えるようになることも含まれるんだよ」
ここまで言えば今のオーウェンでもきっと分かるだろう。
要するに俺は、
「ミニモに追いつくことができるまで俺は成長し続ける。もう一度聞くぞ?治癒魔法も再生魔法も使いこなす俺に、本気で勝てると思ってるのか?」
オーウェンが歯を食いしばる音が、聞こえた気がした。




