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一番強い人間

「……死んだね」


 エテルノ・バルヘント。 

 『追放されるほど強くなる』という、訳の分からないスキルを持った男。

 こいつの厄介なところは今までに手に入れていたスキルの数でも使いこなす魔法の種類でもない。

 真に恐ろしいのは、それを全て使いこなすこいつ自身の頭だ。


「でもまぁ、これでようやく僕の天敵は居なくなったわけだねー」


 僕のスキルはあくまで『相手の手を読む』というものだ。

 普段なら何の問題も無いのだが、エテルノ相手では残念ながら詳しく読み取れなかったのだ。


 『追放されるほど強くなる』というところまでは読めても、どんな能力を今まで手に入れてきたのかは分からなかった。

 スキル『収納』を知ったところで何が収納されているのかは分からないのと同じように。


 だからここでエテルノ・バルヘントを殺せたのには大きな意味がある。


「もうこれで僕に反抗する奴は居ないな」


 これで思う存分、禁術使いを殺して回れる。

 この世から全ての禁術を消し去ってしまえばいい。

 僕が全員を殺し、そののちにどこかで自分の命を断てばもう禁術が世の中に伝わることは無くなったわけだ。


 そのためには、禁術を保管している人間も全員仕留める必要がある。

 けれど相手の手を読み、全てを『変換』する魔法を知った今では僕の敵になるような人間は居ないだろう。


「とりあえずはあれかな。この町にはまだ他に禁術使いが居たはずだね。内容は『透過』だっけ?」


 確か透過の禁術を持っているのはディアンとか言う男。


 そして、イギル。禁術を集めていたという、狂ったギルドマスター。

 こいつも幻想魔法の使い手だ。


 当面の目標はこのイギルとディアンの抹殺だと考えて良いだろう。


「仕事が多いなー」


 でも、僕がやらなくてはいけない。

 禁術を封印していた馬鹿どもに言ってやりたい。

 封印するぐらいなら何故魔導書を焼き尽くして存在ごと抹消しなかったのかと。


「……そんなものがあるから僕たちは……」

「--へぇ、何があったのか聞いてやろうか?」

「ッ?!」


 かけられるはずの無い声が掛かり、思わず飛び上がってしまう。

 その声には確かに聞き覚えがあった。

 

「な、なんで生きてるんだよお前……?!」

「何でと言われてもな……これが俺の切り札だというしかないが」


 頭を掻いて欠伸をする男の顔にもやはり見覚えがある。

 目つきの悪さと言い、顔と言い、声と言い。全てがさっき殺したはずの--


「エテルノ・バルヘント……!」

「なんで毎回毎回フルネームで呼ぶんだよお前。呼び捨てでも良いぞ?」

「さっきのは幻か何かか?!君があんなに簡単に死ぬなんておかしいと思ったんだ……!」

「幻じゃないんだけどな」


 ここで手を緩めれば僕の方が危ない。

 先ほどので僕の切り札は割れてしまっているのだ。

 だから、せめてこいつがどうやって復活してきたのかを突き止めなければ対等に戦うことすらできない。


「『変換』!」


 エテルノの下半身を泥に変え、バランスを崩させる。

 確かな手ごたえがあった。

 幻ならば間違いなくこうはいかないはずなのだが……


 ……相変わらず、エテルノの顔には焦りが見えない。


「ほら、さっきも言っただろう。お前は俺には勝てないんだよ」 

「調子に乗るなよ……!」

「いやというか多分もう誰も俺に勝てないな」

「えっ、は……え?」


 売り言葉に買い言葉で咄嗟に返したが、エテルノの思わぬセリフについ固まってしまう。

 いや、え、流石にそれは言い過ぎなのでは?


「勝てるとしたらまぁ、フィナと手を組んだうえで数十人ぐらい連れてきても怪しいか……?」

「え、お、え……?」

「おい、何だその顔。別に調子に乗ってるわけじゃないからな」

「……い、いや、そもそもお前がそんな無茶苦茶なスキルを持ってるはずが無いだろ?!」


 エテルノのスキルを細かく言うのなら、『追放された分だけ強くなる』というのも本当は『追放されたパーティー内で一番強い人間に追いつくまで成長度合いがのびる』というだけでしかない。

 つまり、欠点だらけなのだ。

 そもそも追放されて以降も努力をしないと実力がつかないし、努力をしたところで『追いつく』だけ。

 だからどこまで行っても『だれも勝てない』ほどの実力を得ることはあり得ないはずなのだ。


「じゃあ試してみるか?」

「……は?」

  

 ふとエテルノが剣を引き抜いたのを見て、一気に空気が張り詰める。

 僕の禁術でエテルノの剣を空気へと変換し、すぐに攻撃……いや、それはまだ少しだけ待って、隙をつくか?


 そんな風に進んだ僕の思考は、次の瞬間に動きを止める。


 --エテルノが、剣先を自分へ向けたからだ。


「な、何をして--」


 エテルノの首元へ剣が突き立ち、肌が容易く破かれる。

 吐き出された血だまりは明らかに、エテルノの命の流失を表していた。


「ッが……」


 そのまま地面へ倒れ伏したエテルノを見て、僕は動揺を隠せずにいた。


 これが罠だというのなら、この隙にエテルノが襲ってきているはずだ。

 けれどそれが無いのだから、間違いなく、エテルノは死んでいる。


「--とまぁこんな感じだな」

「ッッ?!」


 なのに、ふと気づけばエテルノが元通りの姿で僕の後ろに立っている。

 エテルノの死体が確かにそのまま地面へ横たわっているのに、エテルノは無傷。


 もう、訳が分からない。


「もう分かっただろ?お前は俺には勝てないよ」

「なん、で……おかしいだろ……?!こんな戦い方、どんな魔法で……!」

「あー……それを教えてやる前に一つだけ良いか?」

 

 そう言って笑うエテルノは、まるで子供のようだ。

 答え合わせを純粋に楽しんでいるような、まるで、自分のいたずらに引っかかった大人を笑う悪ガキのような。


 僕はそれが我慢ならなかった。

 だってまるで、僕がこいつとの読み合いに負けたみたいじゃないか。


 エテルノは、こう続けた。


「--俺達のパーティーで一番強い人間って、誰だと思う?」

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