ギルド防衛戦、魔獣掃討戦
「シェピアさん!こっちは大丈夫ですか?!」
「どうしたもこうしたも無いわよ!ったく、倒しても倒してもキリがないったら……!なにぼさっと見てるのよ!早く手伝いなさいったら!」
「あ、あぁ、そうだね。すぐ手伝いますから!」
苛立たし気にシェピアさんが叫ぶ。
今、僕はギルドの人たちのことをエテルノとミニモに任せて魔獣の数を減らすべくグリスと戦いを重ねていた。
その途中でシェピアさんと合流したはいいんだけど……
「っく、グリスティア!とろとろしてんじゃないわよ!」
「え、あ……ごめん……」
「謝ってる暇があるなら早く働きなさいよ!」
気まずい。というより、シェピアさんは基本的にグリスに当たりが強く、グリスはすっかり委縮してしまっている感じだ。そしてそこに挟まれる僕。うーん……
「シェピアさん、グリスも頑張ってるからもう少し優しく……」
「冗談じゃないわよ!そいつはまだ全力出してなんてないじゃないの!」
「わ、私のせいでごめんなさい……」
「だから謝る暇があったら……!」
と、そこに大きな人型の魔獣が突っ込んでくる。大きな体で筋骨隆々、額に生えた一本の角が鈍く光る。これは――
「……オーガね。全く、厄介でしょうがないったら……!」
オーガ。冒険者たちにその巨躯で恐れられる危険な魔獣だ。本来は待ち伏せして、オーガの攻撃が届かないような場所から奇襲を仕掛けて倒すのが良いとされている。
だけど、ここは町の中で、既に見つかってしまっている。ここから逃げ出すのは難しいだろう。
そう判断してすぐに指示を飛ばす。
「グリス!僕が攻撃を引き付ける!君は後ろから援護!」
「わ、分かったわ……」
分かってはいたことだけど、グリスはシェピアさんに文句を言われていたせいで委縮して普段よりも動けなくなってしまっている。彼女の性格からして、ちょっとやそっとの文句では堪えないと思っていたけれど……それ以上に、シェピアさんとは深い因縁があるようだ。
『学園』の関係者だと言うし、グリスの過去を考えれば納得できる気がする。
だけど、戦っている最中に注意が散漫になるのはまずい。
なんとしても、グリスが怪我をしないように僕が頑張らなくちゃいけないだろう。
「シェピアさん!シェピアさんは周りの雑魚をお願いします!オーガは僕とグリスで何とかしますから!」
「……分かったわ。あんたたちに任せる」
そう言うと、シェピアさんはここから離れていく。
彼女が得意としているのは広範囲に及ぶ強力な魔法。彼女が周囲に集まってきている弱い魔獣を多く倒していてくれることで、僕とグリスはオーガとの戦いに戦いに集中できるのだ。
……ただ、彼女に離れてもらったのはそれだけが理由じゃない。
「……グリス、大丈夫かい?」
「う、うん。さっきからごめん……」
「良いんだよ。ただ、戦闘の最中に迷ってたら危ないよ。切り替えていこう」
「わ、分かった。任せて」
グリスも僕の言うことをしっかりと受け止めてくれたようだ。そう、シェピアさんをこの場から離したのはグリスのためでもあるのだ。
彼女がいると、グリスもどうやっても委縮してしまうから。
本当ならこんな方法を取らずに、二人で仲直りしてほしいところではあるんだけど、状況が状況だからしょうがない。僕はそう心の中で言い訳をするとオーガに向き直る。
「悪いけど、僕とグリスのコンビに敵うとは思わないことだね。君にはここで、死んでもらうよ」
そう言って、剣を構える。この剣はエテルノが僕のために選んで来てくれた剣だ。ダンジョン攻略で使っている間に相棒と呼べるレベルで僕の手になじんできている。
彼の期待に応えるためにも、僕はここで負けるわけにはいかない!
直後、オーガが雄たけびを上げて突っ込んできた。さぁ、戦いの始まりだ!
***
「フリオさんたち、大丈夫だったでしょうか……」
心配そうに呟くミニモ。ミニモは既に負傷者全員の治療を終えて一息ついていた。
ミニモに茶を差し出してやりながら俺も答える。
「あいつらは強いしな。よほどの敵が出てこない限りはそうそう負けることなんて無いだろうよ」
「そうは言いますけどね……やっぱり、心配ですよ」
「まぁな。だが俺達にも役目がある。それを果たすのも重要だぞ」
「ですねー……」
しょぼくれながらも渋々納得するミニモ。
俺の役目、それはギルドを守ることだ。確かに魔獣自体の数は減ってきているが、ギルドに押し寄せてくる魔獣自体はそれなりにいる。
俺はここまで戦闘を続けてきたアニキに代わり、ギルドへの侵入を阻止する。ミニモは戦いで負傷者が出しだいすぐに治療する。そうしてここまで持ちこたえてきていた。
「しかし、ここに来たばかりの時よりも魔獣の数が減ってきた気がするな」
「フリオさんたちが頑張ってるんでしょうねー」
「そうだな。あいつらも良く働くもんだ」
そういえば、リリスやフィリミルも戦いに行ったらしい。
あくまで他の熟練冒険者たちの補助、という形ではあるがなんとかして誰かの役に立とうとするあいつらは中々立派だと思う。
と、そこに先ほどまでミニモに治療を受けていたアニキが口をはさんでくる。
「……よし、俺ももうちょい頑張るか……。エテルノ。交代で良いぜ」
「あ、ちょっと、アニキさん?!まだ血は戻ってないんですから動いちゃダメですよ!」
「ぅぐぁ?!」
ビタン、と音がしそうなくらい綺麗にギルドの床に転ぶアニキ。といっても、貧血で倒れたわけでは無い。
「あぁ、もう!だから言ったのに!」
「ミニモ、俺の方から見ると、お前が急に足を掴んだせいで転んだように見えたぞ」
「……何のことか分からないですね」
治す側のお前が負傷者を増やしてどうするよ。
まぁツッコミどころは色々あるが、ミニモの言うことも分からないではないんだよな。
「い、いてぇ……傷とか開きかけたかと思ったぜ……」
「はぁ……。ミニモの言う通り、お前は休んでていいぞ」
「そうはいくもんかよ!俺だって、この前トレントに一件でお前らに迷惑を掛けちまったからな、ここで挽回しなくちゃ男が廃るってもんよ!」
あぁ、そんなことがあったな。以前こいつがトレントの生態を間違って伝えていたせいで、知らぬ間にそこそこ危険な状況になっていた、あれのことだろう。
「それについては構わない。お前はここまでしっかり、町の人間を守ってきたんだ。その功績を考えればそんなもの、大した問題にならない」
「エテルノさんが人のことを褒めました……?!」
「血も涙もないあのエテルノが俺を……?!」
おい。俺を何だと思っているんだ。
「だがそれでも、俺も力になれなきゃ気が済まねぇんだよ。悪いが俺も力になり――」
無理にでも魔獣と戦おうと前に出ようとするので仕方なく、アニキの足の前に俺の足を突き出して転ばせてやる。
またもや転ばされて、したたかに顔を地面に打ち付けるアニキ。
……まぁ、若干私怨の交じった引き留め方になってしまったがいいか。
俺は黙って、鼻血を出しているアニキをミニモに引き渡すのだった。




