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翼は貴方を庇うために

「シェピアちゃん、そっちはどんな感じ?」

「大丈夫よ!どいつもこいつも大したこと無いわ!」

「あ、そうなんだ……まぁそれなら良いんだけどね」


 町のはるか上空。

 私たちは今、岩壁の周りを飛び回っているオーウェンの部下たちを魔法で順々に撃ち落とす役割を順調にこなしていた。

 

「浮遊魔法の調子はどう?」

「完璧ね!教えてもらった甲斐があったわ!」

「いやいや、上手いこと制御できてるのはやっぱりシェピアちゃんに才能があるからだよ」


 突っ込んで来た男の魔法使いに氷槍を撃ち込みながらシェピアちゃんが宙がえりを披露して見せる。

 今までは魔法の制御にかなり苦労していた彼女だったが、私としばらく特訓してからは多少なりとも魔力の扱いが上達しているように見えた。


「ッ化け物どもが……!」


 私達を取り巻く魔法使いたちはざっと数えても五十人を優に超えている。

 が、それだけの人数をもってしても私たちに勝てていないのはやはり実力不足が原因だろう。

 彼らは全員がBランク魔法使いぐらいの実力を持っているとは思うのだが、それだけではSランク冒険者に勝てることなぞあり得ない。

 私とシェピア。魔法に関しては並ぶものの居ない、魔法学園出身のSランク冒険者が二人。


 彼らもきっと、実力差は承知しているのだろう。苦々し気にこちらを睨んでいながらも、やたらめったら攻撃をしてくる魔法使いは存在しなかった。

 その分時々不意打ちがあるのが怖いけれど、さっきもシェピアは返り討ちにしていたし。 


「そろそろ片付けましょうか?出来るだけ早く戻った方がフリオも助かると思うんだけど……」

「良いわね。私もさっさとアニキの援護に行きたいわ」


 私達の仕事は、『町の上空を飛び回る敵の足止め』だけだ。

 これが終われば戦いの援護をすることになっているけれど、別に援護が無くても構わないとも言われている。

 

 ……でも、やっぱり出来る限り皆の役に立ちたいのが普通だろう。

 私達の親友であるミニモの生死を分ける戦いなのももちろん影響しているけれど。


「舐めるなよ……!なんとしてもここで始末を--」

「グリスティア、行くわよ!」

「はいはい……そんなに急いでやる必要も無いと思うけどね」


 結界魔法を使って相手を結界の中に閉じ込める。

 シェピアちゃんの魔法はちょっと間違えば町にも被害を出しかねないから、こうやって私が補助をすることは以前から話し合って決めていたのだ。

 結界の中に魔法を放てば、町にまで流れ弾が飛んで行くことはない。


 私の合図を見届けてシェピアちゃんが魔法を放つ。

 今回は相手を無力化したいだけだから、命までは奪わない魔法で。


 結界の中に閉じ込められた彼らも、この状況がまずいことを理解しているのかなにやら騒ぎ出した。

 焦ったところで私の結界はそんなに簡単に破られないけどね。


 私はすぐにシェピアの魔法に備えて、目を閉じて耳を塞いだ。


「--我が声を聴け!我が光を浴びよ!この世全てのあらゆる眼は我が物也!『響滅陽光殲滅閃弾』!!」


 空気が震えるような、とてつもない破裂音とまぶた越しにでも目を焼くかのような閃光が辺り一帯を薙ぎ払う。

 今は空にいるから良いものの、もしこんなことを地上でしていたら中々の範囲に被害が出るはずだ。


 閃光がおさまって、私は目をぱちぱちしながら周囲を見渡す。

 強烈な光によって、辺りはぼんやりとして見えた。


「皆仕留めたわよ!」


 誇らしげにそう報告するシェピアの足元には、浮遊魔法で捕らえられたであろう意識を失った魔法使いたちがぐったりと浮かんでいた。

 あの至近距離で音と光を直に浴びてしまったらそりゃあそうなるだろう。

 少しだけ彼らには同情する。


「これでもう目を覚まさないと思うから、もう後は拘束して放置で良いわよね?」

「うーん、良いんじゃないかなそれで。早く皆に合流しましょ」


 もう空一帯は自由になった。

 これで、岩壁は未だに消えないものの空を飛んで町に入ってくることが出来るようになったわけだ。


 しばらくすれば他の町からも助けが来るだろう。


「アニキさんとフリオは……一緒に戦ってるみたいね。行きましょシェピア」

「そうね!私が居ないと調子も出ないでしょうし!」

「まぁ確かにシェピアちゃんがいるときのアニキさんはリラックスしてるわよね」


 気が緩んでいるとも言うけど。


 そうして、私たちは空を飛び回る。

 頬に当たる風を心地よく感じている暇は、今の私達に無いのだ。

 この戦いが終わったらみんなでゆっくり宴会でもやろう。


 晴れ渡る空を見ながら、私はそんなことを考えていた。

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