命大事に
「皆、準備は大丈夫かい?」
「えぇ。もちろん大丈夫よ」
「避難ももうあらかた大丈夫だろ。後は迎え撃つだけ、ってやつだな」
エテルノからの連絡が入ってから数十分。僕たちは無事に住民の避難を済ませ、オーウェン達を迎え撃つ準備を整えていた。
「とりあえず全員に強化魔法掛けてあげるからそこに並んでくれるかしら?」
「ん、助かるよ。ありがとねグリス」
「別に良いわよ。魔法使いだったらパーティーの仲間を強化するのも仕事のうちだし」
グリスが少しだけ照れくさそうに言う。
エテルノの話によると、今丁度オーウェンがこちらへ向かってきているのだという。
オーウェン自体はそれほど脅威ではないけれど、マスクやフィナがいるのが怖いところだ。
……とりあえず、何としてもミニモとディアンは保護だ。
この二人が傷つけられたならもう全てが手遅れになる。
「作戦を最後に確認しておこうか。まずはリリス、君は役目を果たしたらすぐに撤退だよ」
「は、はい!任せてください!」
「フィリミルは申し訳ないんだけど、襲撃に備えて残っておいてくれ。僕の剣にかけて、君に指一本触れさせることは無いから安心してほしいな」
「大丈夫です!僕が役に立てるなら少しぐらい危なくても全然平気ですから!」
二人の心強い言葉に僕は笑顔で返した。
作戦はこうだ。
まずはリリスが手なずけている魔獣を町に放ち、オーウェン達を見張る。エテルノの監視と合わせることで、より正確な情報を得ようという考えである。
オーウェンたちが僕達の今居るこの場所まで辿り着いたらリリスの仕事はおしまい。アニキの『収納』で退避してもらう。
言うまでも無く僕は実際に戦う役割をこなし、いつも通りフィリミルは奇襲を警戒する役目だ。
グリスとシェピアは町の上空に散らばっているマスクの部下を倒す役割を受け持ち、アニキはいざという時の避難やら何やらをメインに無理のない範囲で僕の補佐についてもらう。
問題はディアンとミニモだけれど……
「……本当に良いんだよね?」
『あぁ。俺はこれが一番確実だと思う』
スライム越しにエテルノに確認するが、彼の答えが変わることは無かった。
エテルノが立てた作戦では、二人は一応避難をせずにここに留まることになっていた。
僕としては不可解な考えなのだが、実際はそうでもないらしい。
『二人が居なかった場合オーウェンが真っ先に疑うのはアニキのスキルだろうからな。その場合フィナが『収納』を無効化してくるのが目に見えている。それならあえて姿を現していた方が良いんだ』
「……うーん、よく分からないけど、そうなんだろうね。大丈夫、僕はエテルノを信じるよ」
なお、イギルは留守番である。
彼は何をしでかすか分からないし、信用も出来ないからね。しっかり縛ってアニキの収納空間に転がしてあるのだ。
つまり、エテルノとドーラを含めても十人に満たない人数で戦うことになる。
しかも役割分担してあるから実際に戦えるのはもっと少数だ。
「今度もまた厳しい戦いだねぇ」
『だな。だが俺達……特にお前に人数は関係ないだろ?』
「ん、まぁスキルを使えばね。問題は無いと思うよ」
それに、万が一怪我をしてもミニモに治してもらえる可能性はあるし。
フィナに封じられてなければの話だけど。
『よし、あとは作戦通りで大丈夫だ。監視を続ける』
「分かった。気を付けてねエテルノ」
『おう。いざとなったらドーラを盾にして逃げるから心配するな』
『それはあんまりじゃないっすかねぇ?!』
うーん、ドーラは元気そうだ。
良かった良かった。
「それで?あと何分ぐらいで着くんだい?」
『いやぁ、マスク次第だな。マスクがオーウェンを引き留めてくれた分だけ到着時間は遅くなる。まぁ着く頃には言うから、ゆっくりしておいてくれ』
「この状況でゆっくりは中々難しいね……」
軽く笑い飛ばしているものの、エテルノの言葉には真剣さが感じられた。
何と言えばいいのか、こう、何かを覚悟しているような……
なんとなく普段と違う様子に僕が違和感を覚えていると、エテルノにふと、こんなことを言われた。
『なぁフリオ、一応言っておくが……』
「なんだい?何か僕がやっておいた方が良いこととかなら今すぐやるけど」
『いやそうじゃなくてだな、その……なんだ、絶対に死ぬなよ?』
「え?あぁ、うん」
エテルノは普段も割とこういうことを口にするけれど、今回は何かが違うような気がする。
得体のしれない違和感に、僕は首を傾げるのだった。




