晴れ時々槍とか剣とか
「ミニモ、何か必要な物はあるか?!」
「エテルノさん!えっと……とりあえずは、この水晶が邪魔なのでどうにかして平らな地面を作ってもらえると嬉しいです!」
「分かった、すぐにどうにかしよう!」
ミニモの要望で、怪我をした町の住民たちを手当てする場所を確保する。
水晶をそのままにしておくわけにもいかないので、魔法でとりあえず全てへし折っておく。
そうして平らになった地面の上に怪我人を順々に並べていく。
ざっと、攻撃に巻き込まれたのは数十人ぐらいだろうか。
拳ほどの大きさの傷が、足から腰に掛けて……酷い物だと、六ケ所近く風穴が空いている。
皆が皆そこまで怪我をしているわけでは無いが、かなり酷い状況になっているのは言うまでもない。
「……やらかしたな」
いくらマスクだとしても、ここまで広範囲に攻撃をしてくるとは思っていなかった。
この状況は奴の土魔法の実力を見誤っていた俺が招いたものだ。
どうにかして埋め合わせをしたいところではあるのだが……
今できるのは、少しでも早く避難を進めることぐらいだ。
ましてや、俺とミニモはオーウェンの放送のせいで住民たちに警戒されているのだ。
下手に動くとさらなるパニックを引き起こしかねない。
「出来ることは……まぁ、このぐらいか……」
ミニモの治療が終わった住民たちを浮遊魔法で移動させ、壁に開けた穴まで出来る限り早く移動させてやる。
先ほど確認したところ、壁の外にまではこの水晶が生えていないようだったからな。
一旦壁の外まで出してしまえば攻撃の第二波に巻き込まれることも無いだろう。
「さて……」
試しにと探知魔法を使ってみるが、やはり何も反応が無い。
やはりフィナが無効化しているようだな。
どこに敵が居るのか分からないというのも中々恐ろしいものがある。
いつ仕掛けてくるか分からない以上、避難は出来る限り早めに終わらせてしまったほうが良いだろう。
そんなことを考えながら、俺はどんどん避難者たちを浮かばせて運んでいた。
と、そんな俺に声がかかる。
「エテルノさんエテルノさん、こっちっすよ」
「……ん?」
振り返ってみても、誰も居ないのでつい困惑してしまう。
いや、確かにさっきの声は聞き覚えが--
「あ、上っす」
「上……?」
言われた通り上を見てみると、そこには烏の嘴に咥えられた植物が居た。
「なんだドーラか」
「なんだとは失礼っすね?!」
「悪いが今お前に構っている暇は無くてな。見ての通り、忙しいんだ」
「そんくらい分かるっすよぉ!!」
涙目になりかけているドーラをどうにかなだめて、本題を聞く。
緊張しているときにこいつが来るとついからかってしまうのが悪い癖だな。
こういうやり取りで多少冷静さを取り戻しているのもあるが、単純ドーラやサミエラをからかうのが面白いのだ。
「で?何が本題だ?」
「いえ、なんか向こうで怪しい人たちを見つけたので、報告っすよ」
「なっ……本当か?!」
「本当っすよ!カイザーに乗ってると町中が見渡せるんす!」
カイザーってなんだっけ……あぁ、ドーラが乗ってる、というか咥えられてる鳥の名前だったか。
俺達が色々やっている間にこいつは空から探索していたわけで、そうなると多少は信憑性があるか?
「あー……怪しいって言ったって、どう怪しいんだ?」
「えっとっすね、なんか喧嘩しながらこそこそ物陰に隠れながらこっちに来てたっすよ」
「怪しいな」
「そうっすよねぇ?」
町は今、かなり酷い状況だ。
住民たちは全力で逃げ惑っているし、冒険者だって俺やミニモをどうにか見つけ出そうと血眼で駆けずり回っている。
そんな中、喧嘩をしていただと?
そんな呑気なことがあるものか。
「場所を教えてくれるか?それが本当にオーウェン達なら、俺から皆に連絡を回そう」
「もちろんっすよ。そのために来たんすから!」
「よし、それじゃあ透明化魔法をかけてやるからそこを動かないでくれ」
「は、はいっす!」
透明化しておかないと俺達の方が先に発見されないとも限らないからな。
無事に透明になっていることを確認して、ドーラが言う。
「透明……ってことはっすよ、今なら私何をしてもリリスちゃんに怒られないっすか?」
「俺がチクるからどのみち怒られるぞ」
「……そうっすよね……」
何をしようとしていたのかは知らないが、まぁ釘を刺しておこう。
「ほら、急ぐぞ。案内頼む」
掴んだ手掛かりは逃してなるものか。
そうして、俺はドーラを連れて町を再び駆け巡ることになったのだった。
***
「ほら、機嫌治してくれよー。さっきのはしょうがなかったんだってばさぁ」
「……だとしてもやっぱ俺は、あんま一般人に手を出すのは反対だからな」
「はいはい、分かってるって。だからさっきは妥協案を取ったんだろー」
ドーラの案内に従って、数分ほど町中を移動していた時だった。
ようやくというべきか、オーウェンとマスク、フィナの三人が物陰に隠れながら移動しているのを見つけた。
ドーラが『怪しい奴ら』と呼んでいたのは、本当にこいつらだったわけだ。
というか喧嘩って、何をしてるんだこいつらは。
見れば、マスクがごねてオーウェンが渋々と言った顔でそれをいさめているようだった。
「僕だってそりゃあ一般人を傷つけるのは心が痛むけどさぁ、犠牲は少数で抑えられるならその方が良いだろ?このままにしておいたら蘇生魔法がどんな被害を起こすのか分からないんだからさ?」
「……そりゃそうだが……」
「だからもうさっさと進もうよー。このままだと逃げられちゃうかもしれないよ?そうなったら君が責任を取ってくれるわけ?」
「……」
なるほど。マスクとオーウェンの方針が食い違ってるのか。
オーウェンは基本的に作戦担当だ。マスクを無理に従わせることも出来ないため、ここでマスクを説得するしかない……好都合だな。
「エテルノさん、どうするっすかこれ?」
「……そうだな、どうするか……」
ドーラに耳打ちされて、少し考えてみる。
このまま放置して出来るだけ時間を稼ぐのもいいかもしれない。
とりあえずフリオ達にはスライムを通じて連絡を済ませてある。
このままでも特段問題は--
「--何か来てル見たいダナ?」
「……エテルノさん、あの女……フィナでしたっけ?なんか気づいてないっすか?」
「いやそんなまさか……」
ドーラが心配しているように、先ほどからフィナがきょろきょろと辺りを見渡していた。
何か気配でも察知しているのかは知らないが、少なくとも俺達の姿が見えない以上発見する手段はないはず--
--ぴたりと、俺達とフィナの視線が合った瞬間に全身が粟立ち理由のない恐怖感に襲われる。
気づいたときには、俺はすぐにドーラを掴んで移動していた。
「な、何をするっすかエテルノさ……」
「そこダ」
轟、と音を立てて投擲された剣が先ほどまで俺達の浮かんでいた場所を掠めて飛んで行く。
言うまでも無く、フィナが投げたものだろう。
横に居たマスクとオーウェンはきょとんとした顔をしてフィナの方を見ていた。
「え、どうしたの?」
「お、おう。なんか……あれか?俺らの言い争いがうざかったか?」
「違ウ。何か居タみたいだったかラ投げた……が、勘違いダった。それじゃ続きをドウゾ」
「いや流石にもう喧嘩できる雰囲気じゃねぇぞ……?」
出来るだけ息をひそめて、事の顛末を見守る。
何と言うか、何のスキルでも魔法でも無く勘だけで俺達の居場所を当ててきているのがやばすぎるな。
隠れているのも割に合わないかもしれない。
「……ドーラ、一応逃げる用意だけはしておけ。最悪撤退も考えるぞ」
「っす。テミルちゃんと言い、なんで私の周りの女の子は人間離れしてるんすかねぇ……」
「類は友を呼ぶとか言うしな。お前がそもそも人外だから人間離れした奴が集まってくるんじゃないか?」
「それはさすがにあんまりっすよ……」
フィナもまだ疑惑を晴らしてはいないようだが、俺達の居場所を知ろうとするのは諦めたらしい。
マスクを先頭に、俺達が壁に開けた穴までゆっくりと進んでいく。
おそらく、俺達に見つからない様に慎重に移動しているのだろう。
もう見つかっているとは知られていないのが唯一の救いだな。
フリオ達に情報を共有しつつ、フィナには最大限の警戒を。
一歩間違えれば命が危ない状況で、俺は空から町を見下ろすのだった。




