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ダンジョンの町の惨状

「ほ、本当かい?!でもこっちには魔獣なんて一匹も……!」

「分からねぇよ!でも間違いなく大量の魔獣が押し寄せてきてるのを俺は見たんだ!兄貴が今戦ってるけど兄貴だけじゃ町は守れない!だからあんたらを呼んで来いって……!」

「……分かった。すぐに向かうよ。A班が揃ってないタイミングでこんなことが起こるなんて……!」


 ダンジョンマスターが見つからない状況でこの事件。間違いなくダンジョンマスターが引き起こしたもののはずだ。だが今まで手を出してこなかったのに急に仕掛けてきたのはなぜだ?

 疑問は尽きぬままに、俺たちはキャンプ地に向けて駆けだすのであった。


***


「ッ……?!誰もいないんですか?!誰か、返事をしてください!」


 町は酷い状況になっていた。辺りには町で売られていた品物が散乱し、建物はところどころが崩れ落ちている。町のところどころでは火の手も上がり、道端には品物と一緒に、元が何だったのかも分からないほどボロボロになった赤黒く変色した肉の塊が散らばっていた。

 まだ人だと分かるような死体がないのが救いといったところだろうか。おおよその死体は魔獣の物のようだ。


「グリス、探知魔法を!」

「わ、分かったわ」


 フリオが瓦礫をどかしながらグリスに指示を飛ばす。探知魔法は魔獣がどこにいるのか探るための魔法だが、災害現場などでは人を探すためにも使われることがある。つまり――


「この先、町の中心に魔獣に囲まれてる建物がある!その中にみんな避難してるみたい!」

「分かった!今すぐそこに向かおう!」

「待て。魔獣の数はどのくらいだ?」

「……多すぎて分からないわ。でも間違いなく、私達だけで対処できる数じゃない、と思う」


 グリスティアが魔法で皆を発見し、そこへ向かう。


 ……町の中心にあって立て籠もるのに適した建物というと、ダンジョン内に臨時で建てられたギルドのことだろう。そこを取り囲んでいる魔獣を攻撃すると言っても俺たちだけで対処できるとはとても思えない。

 規模によっては国一つすら滅ぼすことのある魔獣暴走(スタンピード)が本当に起こっているのだとしたら、そこに無策で飛び込むのは自殺行為だ。


「エテルノ!何を迷ってるんだい?!早くしないと皆が……!」

「……まぁ待て。俺にいい案がある。とにかくまずは、ギルド内の面々と合流と行こうじゃないか」


 焦るフリオを何とかたしなめ、俺は作戦を説明するのだった。


***


「あ、兄貴!こっちそろそろ限界っす!」

「おう、ちょっと離れとけ!『収納』!!」


 ギルドの扉にバリケードを築いていた手下から助けを求められ、すぐにそちらへ向かう。手を目の前へ持ってきて座標を指定、下準備を終えてすぐに俺のスキルを使用する。

 地面から五十センチほどの空間にスキルを発動、魔獣の体を異空間に収納することで分断し、切断。収納範囲を限界まで広げることで一度に大量の魔獣を仕留められる技なのだが――


「こんなん、無茶だろ?!」


 いくら倒してもその後ろからすぐに他の魔獣がやってくる。倒れた魔獣の屍を越えて、空中から飛び掛かってくるものまでいる始末。

 ましてや俺のスキルは「座標を指定し、その範囲のものだけを収納する」というもの。

 上手く使えば敵を切断することも可能だが、敵が座標外、例えば五十センチより上に座標を絞った場合、五十センチもない小さな魔獣はなんのダメージを負うこともなくこちらへ向かって来てしまうのだ。

 空を飛ぶタイプの魔獣も同様に、収納する前に避けられる可能性が高い。


 ……端的に言って、俺のスキルは対多数だったり動き回る敵に使うのは相性が悪すぎるのだ。


「やっべ……仕留めきれないっ……!」

「お、おい困るぞ!君は我々から金を受け取ったんだ!きっちり守ってくれよ!?」


 後ろから声を掛けてきたのは町にいた商人の一人だ。

 俺と手下たちがギルドに逃げてきたとき、町にいた商人たちもギルドに逃げてきており、なんとかとか言う組合が俺に護衛を依頼してきた。

 エテルノに借りていた金を返してもなお余るほどの額を提示され、つい引き受けてしまったのだ。


「あんたらも異空間に入ってくれればこんなことしなくて済むんだがなぁ!」


 目の前に迫ってきたゴブリンの首を斬り飛ばしながら叫ぶ。

 基本俺がスキルで作り出した異空間の中に避難させていれば立て籠もることについては完璧なのだ。事実、町の人間の大半はすでに避難させ、手当を受けさせている。

 それをこの商人たちは――


「そんなこと、できるわけがないだろう!一時的とはいえ冒険者の配下になるなぞまっぴらだ!そんなくだらないことを言う暇があれば早く魔獣どもを蹴散らせ!」


 汗を拭きながら怒鳴り散らす髭面の太った商人。

 そう。俺のスキルが収納できるのはあくまで「俺の所有物」、もしくは「俺の手下」だけだ。


 本能で動く魔獣であったり、死体であれば意思がないためこじつけで収納することは出来る。

 だが人間はそうはいかない。商人たちは俺の配下になることを拒否したため、異空間に逃がすことができずギルドに立て籠もることになってしまったのだ。


「くっそ、そろそろやべぇぞ!A班はまだ来ないのかよ?!」

「兄貴!こっちのバリケードもやばいです!」

「あぁ、分かったよ!今何とかしてやっから待ってろ!」


 倒しても倒してもキリがない魔獣の群れ。そろそろ限界だなこりゃ。

 金は惜しいが俺と手下だけ避難して商人たちは見捨てるか?だが助けられる商人たちを見殺しにするのも……。


 そんなことを考え始めた時だった。


「ッッ?!」


 ダンジョン内を襲う、立っていられないほどの巨大な揺れ。思わず地面に倒れこんでしまった。

 と、魔獣の群れの後方で異変が発生する。


「な、なんだありゃあ……」


 ――土煙と共に、巨大な岩壁が隆起していた。土煙の奥から人影が見える。


「あれは……エテルノか?やっと来やがったか……!」


 かつて敵として憎んでいた相手が、今は酷く頼れるように見えたのだった。

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