方向を変えて
「さすがにそろそろ限界ですよエテルノさん」
「……分かってるが、あと少しだろう?なんとか耐え抜くぞ……!」
イギルの幻覚魔法と俺の透明化魔法を駆使しつつ町へどうにか駆け込んだ俺達は、未だに冒険者達に追われていた。
町の中は逃げ惑う人々と俺達のことを探す冒険者達で溢れ返っており、前へ中々進めない状況が続く。
「そろそろテミル達に合流できるはずだからな。そこまで行けば多少は逃げるのも楽になる……!」
テミルや、劇団の面々との集合場所まであと少しだ。
彼女達を巻き込むようで気が引けるが、こんな状況では彼女達に匿ってもらうのが最良の選択肢のように思えた。
焦りつつも探知魔法を使って周囲の様子を確認した俺は、目を見開いた。
探知魔法に、かつての仲間たちの反応が映ったからだ。
「……ミニモ、フリオ達がここから近い。すぐそこにいるようなんだが……」
「え、そうなんですか?グリスちゃんとかリリスちゃんとかもやっぱりそこに……?」
「あぁ。基本皆が揃ってるみたいだな。揃ってないのは……サミエラぐらいか?」
動きからして、おそらく彼らは住民の避難を手伝っているのだろう。
アニキの『収納』で住民たちを避難させていると考えて良い。
これは俺達にとってはいい知らせだ。
俺達のことを追っていたフリオ達が、もう追ってこなくなったのだから。
「……」
であれば、もうフリオ達を置いて逃げるべきではないのか?
フリオ達が居ればここの住民はオーウェンの魔の手から逃げおおせるかもしれない。
というか、シェピアやグリスティアの魔法でかなりの人数は救えるだろうからな。
出来る限り早く劇団の面々と合流し、脱出を図ろう。
そんな風に、決めた時だった。
ふと、いつだったかに聞いたサミエラの言葉を思い出した。
『--お主の仲間が、死ぬかもしれんぞ?』
以前俺がギルドに向かった時出会ったサミエラが言っていた言葉だ。
彼女には七割の確率で未来を当てるスキルがあるのだ。
外れる可能性もあるとはいえ、当たらないとは限らない。
そしてもし俺の仲間の誰かが死ぬとしたら……
「……ここからのどこかのタイミング、だな」
マスクやフィナと戦った時か、はたまたこの町への攻撃が始まったときか。
いつになるかは分からないが、この先死人が出そうだなんてことは誰にでも予想がつく。
避難を進めているうちに、フリオが攻撃に巻き込まれて死ぬかもしれない。
これも、予想できる一つの可能性だ。
「エテルノさん?どうしたんです?」
足を止めた俺を振り返り、ミニモが不思議そうな顔をする。
そりゃあそうだろう。俺は今まで、この町から脱出するための行動をしてきたのだから。
こんなところで俺の足が止まるだなんて、ディアンもイギルも予想していなかったであろうことだ。
しかも、『仲間』が死ぬかもしれないだと?
俺はもう、フリオやグリスティアのことを仲間だとは思っていないはずだ。
俺をパーティーから追放したような奴らを、未だに仲間と思っていてやるような義理は無いのだが……
「……なぁミニモ、お前、俺が今からフリオ達のところへ行くって言ったらどうする?」
「ついて行きますよ?地獄だろうがなんだろうが、私はエテルノさんの近くに居たいので!」
即答されたな。
まぁ、そういうことなら良いか。
「悪いがディアン、俺達はフリオの方へ向かわせてもらう。少しでも多くの住民を助けるために、俺達の力を貸してやった方が良いだろ」
「なっ……そ、そんなことしたらどうなるか分かりませんよ?!」
「だな。まぁその可能性も一緒に考えたうえで、俺はフリオ達の手助けをしようと思う。お前は劇団と合流していてくれて構わないから、出来るだけ安全なところで俺達を待っていてくれ」
イギルもディアンと同じように、何かとんでもない物でも見たかのような顔で俺のことを見つめていた。
そんなに俺はおかしいことを言っているだろうか?
困っている人間を助けるために、フリオと手を組む。
ただそれだけの話だ。
別に奴らのことを仲間だとは思っていないので、あいつらが危険な目に合わないようにしたい、なんてことは一切ない。
……はずだ。
「よし、それじゃあミニモ、行くぞ?」
「はいはーい。分かりました!死ぬまでお供します!」
「縁起悪いからやめろお前」
「じゃあ死んでもお供します」
「もっと最悪じゃねぇか……」
ディアンとイギルを送り出し、俺とミニモはそれまで走ってきっていた方向とは全く違う方向へ駆け出した。
イギルがここを離れた今、もう幻覚魔法は使えない。
ここからは俺達の実力のみでフリオ達の居る場所まで。
「面倒だが……」
こんな時に言うことでは無いかもしれない。
だが、少しだけ、楽しいような気がした。
「これで町の住民を全員守れれば完璧だな」
「ですねー。ま、最悪後で生き返らせてあげれば良いと思いますよ?」
「そういう問題じゃないだろう」
一度死んだことがあるからどうだとか言ったとしても、やはり死ぬのは怖いものだ。
たったの一度でもこの町の住民が死の恐怖を味わわないようにしてやりたいものだな。
「あぁ、それとミニモ、一つだけ」
「……?はい、なんですか?」
「まぁ、その……なんだ、今回も頼りにしてるぞ」
「っ~~~!頑張ります!泥船に乗った気でいてください!」
「大船な。泥船だと沈むだろ」
不安は尽きないが、それと同時に期待も高まる。
初めて出会ったときはどうかとも思ったが、俺は案外ミニモとうまくやれて来ているらしい。
「さて、それじゃあフリオ達を助けに行くか!」
ミニモと共に、俺は人の群れの中へと飛び込んでいくのだった。




