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町に待った再会

「--見つけたぞ!あそこだ!」

「っぐ、やばいなこれ……!」

「エテルノさん、一旦潜りましょう!」

「……いや、それはマズい!足だけでどうにか逃げ切るぞ!」


 俺達を発見した冒険者によって、空へと魔法が撃ちあげられる。

 空に打ちあがった魔法は破裂音と共に火花をまき散らし、俺達の居場所をオーウェン達へ伝える。


 打ちあがったこの魔法を見て集まってくるのはオーウェンやマスクだけではない。

 他の町の住民たちも、きっと俺達を探してここへ集まってくるのだろう。

 

 ディアンの禁術で、地中に隠れてしまえたならばどんなに楽か。


「イギル、また頼む!」

「しょうがないね。報酬は追加してもらわなくっちゃ……!」


 イギルの幻覚魔法で俺達の居場所を分からなくしたうえで、急いでこの場を離脱する。

 イギルの見せた幻によって冒険者たちは四方八方へと散らばって行った。


「エテルノさん、だ、大丈夫ですかねこれ……」

「大丈夫かどうかは分からないがやるしかないだろう……!」


 イギルとディアン、俺とミニモ。この四人だけでこの窮地を切り抜けなければならないのだ。

 オーウェンを少し舐めてかかっていたな。戦闘面であいつは何の役にも立たないことから無意識のうちに軽視していたかもしれない。


 事の起こりは、今から数時間ほど前だ。


***


「エテルノさん、結構順調ですね?」

「だな。何の問題も無く町まで辿り着けそうだ」


 俺達はそれまでいた森を抜け出し、町まであと少しというところまで差し掛かっていた。

 ディアンの力を借りて地中を進むことで随分と簡単に進めてきていたのだが、ここで異変が起こる。

 

 地中に居るせいで何かが起こっているのかは分からなかったが、俺達の耳に届いてきたのはこんな言葉だった。


『--そろそろ三十分ぐらい経つんだけどさ、ここまで誰もエテルノの居場所を掴めていないのはどういう訳なのかなぁ?え、一応この町そこそこ住民いるんだよね?真面目に探してるー?』


 オーウェンの声だ。

 少しだけ、イラついているようにも聞こえる声色で彼は続けた。

 

『流石にそろそろ我慢の限界かな。それじゃあもうこの町を滅ぼしちゃおうと思うけど……』

「なっ……?!」


 それは流石に早すぎる。

 いくら俺達が見つからないからと言って、そこまでの横暴は--


「--あぁでも、今から数分以内にエテルノ達を見つけたんだったらまだもう少し許してあげよっかなー。ねぇ?エテルノ。もちろん聞こえてるんだよねぇ?」

「……」


 なるほど。それが狙いか。


 俺と同じようにオーウェンの意図に気づいたらしきディアンが、苦々しい声を出した。


「僕達がどこかに隠れてるのを分かって言ってるんでしょうねコレ。今すぐ僕達が姿を現さなければ町を壊す、っていう……言い方を変えれば、町を人質に僕達が姿を現すように強要してるって感じでしょうか?」

「だな。しかもこの口ぶりなら本当に町を滅ぼしかねないぞ」


 オーウェンにはそういう危うさがある。

 ……こうなってしまったら仕方がない。一旦外に出て、適当な冒険者に見つからざるをえないか。

 多少はイギルの幻覚魔法で誤魔化せるのが不幸中の幸いと言ったところだな。


「じゃあ一旦外に出て、発見されたうえでもう一度地中に戻りましょうか?」

「いやそれも良くないだろ。下手にそんなことを繰り返すと、『地中に潜ったら町を壊す』だなんてルールを提示してきかねないからな」

「あー……」


 何を考えているのかは知らないが、今は姿を見せてやるだけで良いのだ。

 であれば、今は言うとおりにしておいてやろうじゃないか。

 イギルの幻覚魔法で俺たちの居場所を錯覚させつつ、俺達を狙ってきた皆を返り討ちにする。

 そうしていけばそのうちにオーウェンやマスクの元にたどり着けるはずだ。


 ……万が一、フィナに幻覚魔法を封じられてしまったとしてもミニモの魔法は問題なく使えるから心配はいらないな。


「面倒だが、姿を見せてやろう。出来るだけ俺達の足だけで町を逃げ回るぞ」


 先ほどから俺達が後手後手に回っているのが不安要素ではあるが、今は出来ることの中で最善を尽くそうじゃないか。


***


「すいません皆さん!避難お願いします!」

「俺の収納空間の中にいりゃぁ一旦は安全だからな!出来るだけ急いで、最低限の食料を持ってそこに並びやがれ!」


 逃げ惑う人々の群れをかき分け、僕たちは町まで戻って来ていた。

 アニキが子分を連れて人々を誘導し、用意の出来た人から収納していく。

 こうしておけば、収納空間に逃げ込んだ人々がオーウェンに殺されるような事態は免れるだろう。


 僕も出来る限り精一杯声を張り上げ、パニック状態になってしまった皆を助けられるように努力を重ねていた。


「皆、一旦落ち着いて!僕が居れば大丈夫だ!」

「フリオ、少しいいかしら?」

「なんだい?何かあるんなら早めに--」

「エテルノが、結構近くに居るわよ」

「なっ……?!」


 彼は逃げたと思っていたのに、何故わざわざこんな町にまで戻って来てしまったのか。

 僕達の目的はあくまで『ミニモやディアンを殺させないこと』であって、なんならエテルノがミニモ達を逃がしてくれても構わないと思っていた。


 そりゃあ捕まえられるならその方が良いけどね。

 でもミニモはそんなに悪い子じゃない。『蘇生魔法は許せない』だなんて言っては見たけれど、実際のところ彼女を恨んだりなんてしちゃいないのだ。

 エテルノを追放する理由付けとして言ったけれど、別にミニモがエテルノと逃げ延びていくのも選択肢の一つだったのだ。


 だから、僕たちはオーウェンの発言を聞いてすぐにミニモを追うのをやめ、町へ戻って来た。

 エテルノ達が逃げた今、町を守らなければならないと思ったから。


「エテルノは今どこに?」

「いえ、多分そろそろ--」


 グリスの言葉を遮るように、空に魔法が撃ちあがる。

 なるほど、エテルノはあそこか。


「探知魔法で調べた感じだとミニモも一緒でしょうね。他にも大体集まってるわよ」

「……でも、今は避難が優先だね。エテルノのことは一旦放っておこう」

「そう言うと思ったわ。一応、報告しに来ただけよ」


 グリスも微笑んで自分の居た場所へ戻っていく。

 とりあえず今は避難を最優先に。


 そしてその次は、オーウェンを倒さなければ。

 エテルノやミニモのことはその後で良い。


 以前僕の村が滅ぼされたようにこの町も滅ぶだなんて、そんなことはさせてなるものか。


 強い決意を胸に抱き、僕は一段と声を強く張り上げた。

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