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住民全員殺し屋の町

『えー、多分聞こえてると思うから言っちゃうとだね、あの町を取り囲んでる壁さ、あれ僕達が作ったやつなんだよねー』


 オーウェンの声が空気を震わせ、町全体へと響き渡る。

 言うまでも無く、町の住民たちもどこかでこの声を聞いているはずだ。


 突如響き渡ったオーウェンの声に、団長とテミルは動揺を隠せずにいた。


「ちょ、ちょっと何よこれ?!」

「ふむ、拡声魔法だな。演説などでも使われる、自分の声を遠くまで届けることができる魔法だ」

「いやそれは私達も劇で使うんだから知ってr……いやそう言うことじゃないわよ?!」

「……言いたいことは分かるがな。だがオーウェンが何を言おうとしているのか分からない以上何も言えないだろう?」


 さて、オーウェンの居場所は……俺の探知魔法の範囲内には、もう居ないようだな。

 このまま俺の不意を突きに来るようなことはない、と。

 となるといよいよオーウェンの話をこのまま聞くしかないようだな。


「おいミニモ、どう思う?」

「うーん……なんでしょうかね?降伏勧告する、とかですかね?」

「だと良いんだが……」


 それならわざわざ町中に声が聞こえるようにしている意味が無いよな。

 さて、どうするのやら……。


『--まず分かっていて欲しいのが、僕たちはいつでもこの町を滅ぼせるってことなんだよねー。ほら、あの壁を作るぐらいだからさ、この程度の町ならどうにでも出来るんだよ。ここまではオッケーだね?』

「……まぁ、それはそうだな」


 あいつらは以前フリオの居た村を焼いたこともあったらしいしな。

 やると言ったら間違いなくやるだろう。


『それでなんだけど、実は僕たちは今人探しをするためにここに来ていてねー。もし彼が見つかったようなら一切この町に手を出さずに帰ると約束しよう。……ただ、もし捕まらないようなら彼が逃げ出す前に、この町ごと彼を殺さなくっちゃぁいけないんだよ』

「……おい、嫌な予感がしてきたな」

「奇遇ね。私もよ」

「私もですねー」


 さて、もう先は読めているんだが……

 残念なことに、オーウェンは俺達の予想通りとんでもないことを口にした。


『もし君たちが生きていたいのなら、エテルノ・バルヘントとミニモ=ディクシアを探すのを手伝ってもらえないかな?お礼は君たちの命、ってことでさ、彼らを殺すのを手伝ってほしいんだよねー。とりあえずまだ期限は決めないけど、そんなに待ってもいられなくてさ』

「最悪だな」

「最悪ですね」


 ミニモがいるのだから死ぬことは無いだろうが……あぁいや、そういえばオーウェンとマスクのところにはフィナが居たのだったな。

 蘇生魔法を封じられてしまえば終わりだ。


 ……ん?これ想像以上にまずい状況なんじゃないか?


『それじゃ、お願いするね。彼らを見つけ次第、空に何か打ち上げてくれると助かるよー。それを合図に僕たちはエテルノを追うからね!』


 オーウェンの声が途切れ、森に静寂が戻る。

 鳥一匹すらも鳴き声を上げないのは何故なのだろうか。

 まさか、この町の行く末を予見して逃げたわけでもあるまいに。


「……さて、これ……どうしましょうか?」


 ディアンが気まずそうに言う。

 団長やテミルも不安そうにこちらを見ていた。


「……まずは、ここで一旦解散だな。テミル、お前たちはやっぱり俺達に付いてこない方が良い。一緒にいるところを見られたらどうなるか分からないだろう。町へ戻れ」

「え、あ、でもそれは……」

「助けになってくれるというのなら、町に戻って脱走の準備をしていてくれ。隙を見て脱出するからな。あくまで『別行動』というだけだ」

「まぁそういうことなら私も分かったわ。でももし死んだら絶対殺すわよ?」


 そんなことを言われてもな。


 まぁともかく団長は納得してくれたようで何よりである。

 死人を殺すなんてことは不可能だろうけどな。


「で、ディアンとイギルは流石についてこい。狙われてるのは俺とミニモなんだろうがお前らも捕まったらまずいのは変わらないしな」

「はいはい。というか僕はどっちみちついて行かざるを得ないでしょ?」

「だな。というかお前さっきはなんであんな目に合ってたんだよ?」

 

 そう、さっき俺達が到着したときにはイギルが足首を掴まれて振り回されていたのだ。

 ついうやむやになっていたが、こちらも今の状況と負けず劣らず訳が分からないのである。


 不貞腐れた顔をするイギルに聞いても何も答えてくれないので、代わりにディアンが俺の疑問に答えてくれた。


「この人はさっき、どうにかして逃げようとしてたんですよ。一応結界魔法で魔法は封じてたんですけどね。油断も隙も無い……」 

「……一応この辺に埋めとくか」

「待って待ってそれはやめて」


 イギルについては単純にお荷物なので、ここらで切捨てていくのもアリと言えばアリなんだよな。

 出来る限り守ってやりたいのは事実だが、負担になられるのは困る。


「あ、何なら協力してくれないか?幻覚魔法があれば多少は俺達も楽になるだろ」

「エテルノ、僕はそれは危ないと思うけど?こいつはもう信用しない方が良いと思うんだ」

「そうは言うが、オーウェンたちに発見されるリスクを考えればこっちの方がよっぽどマシだろう?」


 そうだな。不安なのも分かるので、どうするべきかは簡単だ。


「一応拘束を解くが、契約魔法を使わせてもらう。条項はそうだな……俺たちの意に反することをしない、脱走しない、禁術は使わずに幻覚魔法だけを使う、基本はディアンの指示に従う……とかでどうだ?」

「まぁしょうがないね。僕としてもここで死ぬのは不本意だ。条件を呑ませてもらうよ」


 そうか。それは良かった。

 もしこの条件を呑まないようならここでこいつを切捨てなければいけなかったからな。


「ちなみにもしその約束を破ったらどうなるんだい?」

「四肢が爆裂して全身が木っ端みじんになるぞ」

「怖っ?!やりすぎじゃないかな?!」


 そうか?シェピアが浮遊魔法を使った時に引き起こされることと同じなのだから、実質そこまでの事でもないだろう?


「あぁいや、そんなことよりも今はとにかく急いで逃げるぞ。一旦は他人に確認されないように地中を進もう。ディアン、行けるな?」

「えぇ。癪ですがそこのイギルも太鼓判ですよ」

「ミニモもこの方針で大丈夫だよな?」

「あ、はい。私はエテルノさんの立てた作戦ならなんでも大丈夫ですよー」


 ……まぁそうだろうなと思っていたからミニモへの確認はここまで後回しにしていたんだけどな。

 若干緊張した顔のテミルの肩を気軽に叩き、声をかけてやる。 


「よし、それじゃあテミル、お前らとはまた町で落ち合おう。スライムを渡しておくからそれで連絡を取ってくれ」

「わ、わわ分かりました!任せてください!」

「気負わずにな。一応ここから町に戻る分には罠の心配は無いだろうが、一応寄り道はしない様にしてくれ」

「何よ、私達がそんなことをするように見える訳?」


 少なくとも団長の方は見える。

 ……というと機嫌を損ねるのが目に見えているので言わないが。


 咳ばらいをして、俺はこの場の皆に告げた。


「さて、出発だ。目標は誰一人死なずに脱出することだから、無理はするなよ?」


 今はオーウェンを第一に警戒、次にフリオ達を警戒することにしよう。

 俺が常時探知魔法を展開していればそう不意打ちをくらうことはないはずだ。


 ここからが頑張りどころだな。


 気合を入れるために一度自分の頬を叩き、俺は前を見据える。

 生き物が皆いなくなってしまったかのような静寂と、俺達を呑み込もうとする真っ暗な森がそこには広がっていたのだった。

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