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ろくでなしの罠士

 簡単に説明すると、俺の取った作戦は『俺がおとりになる』というものだ。

 万が一、ミニモの元にマスク達がたどり着くとマズイ。

 ミニモを探させる隙を与えるぐらいなら、俺の居場所を伝えてしまえばいい。

 どうやらオーウェンは俺のことを信用していなかったようだからな。俺を先んじて潰せるとあらば、罠の可能性を考慮していたとしても食いついてくるはずだ。

 

 俺の声が出来る限り遠くまで届くよう、拡声魔法を重ね掛けしたうえで俺に出せる限界の声量で叫ぶ。


「--おいマスク!オーウェン!話があんなら降りてこい!話は聞いてやる!」


 恐らくだが、これで俺の声は奴らに届いたはずだ。

 空を見上げるとマスクの部下と思しき人間が行き交っていた。

 オーウェンとマスクも空のどこかしらに居ると考えて良いだろうな。


「あー……」


 少し、喉が痛いな。声を出しすぎたかもしれない。


 さて、残りの問題と言えばフリオ達の方だ。

 あちらにはグリスティアがいるせいで、ミニモ達がどこへ隠れようとも探知魔法で見つかってしまうんだよな。

 一応対処はしたが、こちらはミニモとディアンの力を信じるしかない。


「--やぁやぁ、まさか君の方からお呼びしてくれるとはねー」

「なんだ、もう来たのか」


 声をかけられて振り返ると、そこにはやはりオーウェンが居た。

 ぼさぼさの髪に、よれよれの服。

 その後ろにはこれも想定の通り、マスクも控えている。


「なんだ、とはご挨拶じゃないかなぁ?せっかく呼ばれたから来てあげたのに、お茶の一つもないなんてねぇ」

「お望みならそこらの落ち葉の煮出し汁ぐらいは出してやれるがな。今作るから、鮮度は抜群だぞ?」

「落ち葉の時点で鮮度も何もねぇけどな?!おいオーウェン、くだらないこと言ってないで本題に入れって!」

「あー、うん。そういえばそうだったね」


 マスクの邪魔が入ってしまったので、時間を稼ぐのには失敗だ。

 次の手に移るとしよう。


 幸い、周囲にはマスクとオーウェン、そして俺だけ。周りを巻き込む可能性はほぼないので気楽なものだ。


「それで?本題ってのはなんのことだ?」


 あたふたしているマスクとは対照的に、にやにやと気味の悪い笑いを浮かべているオーウェン。

 気味が悪いな。面倒ごとなら勘弁してもらいたいが……もしミニモのことを聞かれるようなら、しらを切りとおそう。

 オーウェンたちは探知魔法を使えないからな。俺の本心がバレるようなことはない。


 だが、オーウェンの発した言葉は俺が一切予想していなかったものだった。


「エテルノ君さ、僕達の仲間になる気は無いかなー?」

「……は?」


***


「グリス、どうだい?ミニモの行方は見つかったかな?」

「……一応は、居るっぽい場所は掴んだわ。出来るだけ急いで向かいましょう」


 僕たちは隊列を成して森の中を進む。

 町を突如取り囲んだ謎の岩壁が木々の隙間からちらちらと見えていた。


「大丈夫だって。そんな急いだら、かえってオーウェン達に見つかっちまうぞ」


 そんなことを言うのはアニキだ。

 彼は森に入ってからというもの、スキルで木々を伐採しては道を切り開いてくれていた。


「いいか?ああやって町と外を遮断したっつぅことはオーウェンたちがまだミニモを見つけられてねぇっていう証拠にほかならねぇ。だから、今急ぐのはかえって悪手なんだわ」

「うーん、確かにそうなんだろうけど……」


 アニキが言っているのは、下手に急いだらオーウェンたちにもミニモの居場所を知られてしまう可能性があるから慎重に行動するべきだ、という意見だ。

 確かにその通りではあるけれど……


「ミニモも、逃げるかもしれないからね。オーウェンたちに追い抜かれないのも大事だけどまずはやっぱりミニモに追いつけなくちゃ」

「……だな。結局『慎重に急げ』って結論になっちまうわな」


 厄介だし難しいけれど、そういうことになる。

 しかも僕達の場合、ミニモは殺さずに捕らえることが目的になるためオーウェンたちよりもはるかに達成難度が増しているのだ。


「あら?」


 ふと、グリスが声を上げた。


「どうしたんだい?」

「いや、エテルノが向こうで誰かと……いえ、オーウェンと、マスクね。その二人と鉢合わせてるみたいなんだけど……」

「えっ?!エテルノさんってミニモさんと一緒にいるんじゃないんですか?!」


 思わず驚きの声を上げたフィリミルを手で制し、慎重に進む。


「エテルノにも何か策があるのかもしれないね。ただ、ミニモの傍にいないってことは少しだけ朗報だよ。エテルノを相手にしないで済むからね」


 相手にしないで済む方が助かるのは間違いない。

 気持ち的にも、実力的にも彼と戦うのは怖いからね。


 もしかしたら彼はまだミニモと合流していないのかもしれない。

 それが本当だったら最高の知らせだ。




 それからしばらくの後、遠くに座り込むミニモの姿を見つけて一歩踏み出そうとした時だった。

 フィリミルが僕の体を掴んで引き寄せる。


「フリオさん、危ないです!」

「えっ」


 まだ何もしていないはずだ。だって、まだミニモの傍には--


 そう考えた僕の鼻先を、巨大な丸太が掠めて飛んで行った。


「……えぇ……?」


 思わず一歩よろめいて後ろに下がった瞬間矢が飛んできて、体勢を崩しつつもどうにか回避。

 体勢を崩したところに更に魔法が--


「う、嘘だろ?!これでエテルノはこの場に居ないって言うのかい?!」


 シェピアがおもむろに落ち葉をめくると、その落ち葉には魔法陣が刻み込まれていた。

 ……嘘でしょ?


「……フリオ、これ多分踏んだら発動する感じよ……」

「とんでもない物仕掛けてあるじゃん……」


 さっきの攻撃の感じだと、そこまで命を狙ってきているわけでは無い、と思う。

 エテルノはとんでもない罠を仕掛けてたりするからね。今回のはましな方だ。


 ……でも、これじゃ進めない。

 足止め目的で、威力の低い魔法を大量に仕掛けておいたらしい。

 参ったな。やっぱりエテルノを敵に回すのは失策だったかもしれない。


「あー……とりあえずアニキ、ここら辺の落ち葉を全部収納することって可能かい?」


 そうすれば、一旦この落ち葉に困らされることは無くなるはずだ。

 そう思ってアニキの方を見ると、彼は困ったような顔をしていた。


「……それは良いんだけどよ、さっきまでいたミニモがもう居なくなってんぞ?」

「……」


 なるほど。罠が発動したんだからそりゃ気づかれるか。

 思わず天を仰ぐと、上からも魔法が降ってきているのに気づいて全力で回避。

 今のはおそらく拘束魔法だ。当たったら動けなくなってしまう。


「エテルノ……」


 君、冒険者よりも罠士とかの方が向いてるんじゃないかな。


 とりあえずエテルノには勝てない気がしてきたよ。うん。

 どうにか頑張らなくちゃね……。

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