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隔世街の拡声器

「おいオーウェン、ほんとにこれで良いのかよ?」

「あぁ、大丈夫じゃないかなー。流石にここまでやったんだったら逃げられることはないでしょ」


 仮面の男、マスクがこちらに目を向けずにぼやいているのを聞いてそう返す。

 今の僕の周りには、マスクと同じように仮面をつけた男女がざっと数十人ほど待機していた。


「いやぁ、一応指示通りにはしたけどよ、ぶっちゃけ俺でもきちぃぞこんなん……無茶ぶりにもほどがあんぞ……」

「でもこうでもしないとどうにもできないしねー。ミニモって子、逃がすわけにはいかないんだからさ。最悪この町ごと焼いてしまっても良いんじゃないかなって」

「頼むからそれは止めてくれ……どやされんのは俺なんだからよ……」


 マスクの魔法で町を外界から遮断、ミニモの逃亡さえ不可能にしてしまえばもうあとはどうとでもなる。

 地下を掘って抜けようにも地下に潜った瞬間マスクの土魔法の餌食、空を飛んで逃げれば僕達の部下が報告をする。

 逃げるのは間違いなく不可能だ。


 本来ならこんな手を使うのは愚の骨頂のような人間だけだが、あえて今この手を使うことには意味がある。

 エテルノのような合理的な人間はきっと、理解もしないし実行なんて思いもよらない手だろうから。


「ミニモ=ディクシアの近くには必ずあのエテルノがいるって見るべきだからねぇ。ミニモの方は正直どうとでもなる。問題は、あいつの方だよ」

「あぁ?でもあれだろ?お前『鑑定』あんだから苦労しねぇだろ」

「……あれ、説明してなかったっけ?」

「んあ?」


 僕のスキル、『鑑定』は相手の扱える魔法やスキルを知る、というものだ。

 足の速さとか、力の強さとかだって一目見れば分かる。

 例えばフリオは召喚魔法的なスキルを持っているのを知っているし、グリスティアが異常なほど多種多様な魔法を扱えるのも知っている。

 初見殺しだって、一度見れば看破できるから警戒さえしていれば絶対に喰らわない。


 だから、初めてエテルノ・バルヘントに出会ったときは驚いたものだ。

 彼はとてもSランクとは思えない実力をしていたから。


「本当に、あのエテルノって奴だけは何をしてくるか分からないからねー。潰すか、仲間に引き入れるかどっちかでしょ」

「おう……まぁお前がそこまで言うんだったらよっぽどなんだろうけどな」


 エテルノ・バルヘント。

 得体のしれない魔法使い。

 実力はどう見たってDランク、よくてもCランクの冒険者程度だというのになぜだかSランク程の力を使いこなし小賢しい戦術でこちらの目論見を潰してくる。

 スキルは、『追放されるほど強くなる』という物。


 おそらく、奴の力の元はこのスキルなのだが……


「僕じゃそれ以上は分からないからねぇ」


 スキルを通じてエテルノはあの力を出している。

 ここまではおそらく合っていると思うのだけれど、エテルノが今までにこのスキルでどんな能力を身に付けてきたのか。どんな強さを手に入れてきたのか。

 これが、僕の『鑑定』では分からなかった。


「まさかこんな天敵が居るとは思ってなくてねー。僕のスキルで分からないことがあるとは思わなかったんだよ。あはは」

「あははじゃねぇっつの。あの兄ちゃんは剣神?のスキルも使えんだろ?」

「さぁね。僕の鑑定じゃあ『追放されるほど強くなる』ってとこまでしか分からなかったんだってば」


 だから、エテルノが何か奥の手を持っていたとしても分からない。

 読み勝てないかもしれない。

 こんな経験は初めてだ。だから、


「なんとしても仲間に引き入れよう。敵に回すより、彼は仲間に置いておいた方が良い」

「あいあい。そのためにわざわざ追放されるように仕向けたんだろうがよ?」

「そうだね。案外うまく行ったみたいで何よりだけどさ」


 エテルノを追放させて、彼のスキルによって彼自身の実力を高める。

 そして、彼が一人になっているところを誘って仲間にしてしまえばいい。

 仲間だってマスクだけじゃ不十分だしね。

 もしかしたら彼は禁術すら身に付ける可能性があるし、監視の意味でも手元に置いて置きたいのだ。


「とりあえずミニモの攻略の前にエテルノを仲間に引き入れないとねー。面倒だけど、もう彼はこの町から出られないわけだし頑張らなくちゃね」


 エテルノは理性的な人間だ。

 彼が圧倒的に不利な状況で取引を持ち掛ければ、間違いなく乗ってくるはず。

 そう判断した。


「よし、それじゃあこれからエテルノを探して--」


 部下たちにそう指示を出そうとした時だった。


「おいマスク!オーウェン!話があんなら降りてこい!話は聞いてやる!」

「えっ」


 町中にエテルノの声が鳴り響く。

 僕達を呼んでいるらしい彼の声には一言では言い表せないような苛立ちが込められていた。

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