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別方向へと進む背中

 シュリ。かつての俺の幼馴染であり、一緒に旅までしていた仲間。

 バルドのせいで命を落とした、バルドの死霊術で操られていた、そして。

 ……そして、俺がとどめを刺した、忘れようと思っても忘れることの出来ない少女だ。


「エテルノ、知り合いかい?」

「……まぁな。なんでこんなところに居るのか、訳が分からないが……」


 思わず笑ってしまいそうになる。

 シュリの周りにはバルドの死霊術で操られていたであろう人骨たちが群れており、そこから見てもシュリが敵であることは明白だ。

 なのに、ここまで親しみを感じるというのは凄まじいな。

 俺もまだ、非情になり切れていないらしい。


「紹介しようか。フリオ、あれは俺の昔のパーティーメンバー、シュリだ」

「……え、ちょっと待って、それって……」

「あぁ。確かお前たちにはバルドの一件で説明はしてあったんだったな」


 以前バルドと戦うことになった時、俺は皆に昔のことを話した。

 話せる範囲での話ではあったが、彼女達のことは覚えているはずだ。


「おいシュリ、ネーベルは?」

「いるわよ。ただ、合わせる顔が無いんだってさ」

「なんだそりゃ」

「ほら、この前会ったときはバルドに操られてたじゃない?だから、貴方に嫌われててもしょうがない~って」


 あぁ、バルドの記憶があるのか。

 それに口ぶりからして、死霊術で操られていたことも分かっているようだ。

 

「おいネーベル、気にしないで良いぞ。俺は生きているんだし、せっかくならお前とも話したいんだ」

「……本当に、その節はすいませんでした……」


 人骨の群れの中からひょっこりとネーベルが姿を現す。

 あぁ、彼女も俺の夢の中の姿と同じ姿をしている。

 シュリもネーベルも幾度となく見てきた悪夢のままの姿だ。


「ちょ、ちょっとエテルノ、シュリさんとネーベルさんって死んじゃったんじゃなかったわけ?」

「だなぁ。……まぁ『今は生きてる』って考えて良いんじゃないか?」

「……えぇと……話が呑み込めねぇんだけど?」


 俺達が話している後ろでマスクが首をひねる。

 当然だな。マスクとオーウェンはシュリについてもネーベルについても何も話していないのだから。


 流石にこのままでも埒が明かないのでざっくり説明しておこう。


「簡単に言うと、俺の昔の知り合いだな。死んだはずだったが蘇生魔法で蘇ったらしい」

「……へぇ?」


 オーウェンが何やら目を細めているのが怖いな。

 大方、禁術がどうのこうの……みたいなことを考えているんだろうが。


 俺がそう言うと、シュリは笑った。


「あら、蘇生魔法のおかげだってよく分かったわね?そうじゃないかもしれないわよ?」

「いや、蘇生魔法で合ってるな。死霊術なら探知魔法に反応しないはずだし、今一番可能性として考えられるのは蘇生魔法しかない。……ただそうなると、ミニモの蘇生魔法は封じられているはずなのに何故蘇ったのか、っていうところに疑問は残るがな」


 見てみると、骸骨に紛れてちらほらと女の人影がある。

 男は……居ないようだが、俺の知っている顔はシュリとネーベルぐらいか?

 何故ミニモがこいつらを蘇らせたのか、見当もつかない。


「あー……シュリ、ネーベル、お前らはイギルに従ってる、って認識で良いんだよな?」

「そうね、まぁそういうことよ。悪いけど、今回も貴方の味方は出来そうにないわ」

「……そうか」


 シュリは元々頑固だったからな。いくら説得しても無駄なのは分かり切っている。

 死霊術で操られている敵に紛れて、なにやら冒険者風の女たちが数十人。しかもそちらは、生きている。

 イギル、やはり性格が悪いな。


「シェピア、魔法は放てるか?」

「え、わ、私?!」

「おう。まとめて薙ぎ払っちゃった方が楽だろ」

「エテルノはそれでいいのかい……?」


 フリオがやけに深刻な顔をしている。

 気遣いはありがたいのだが……


「まぁ今話せてるのもそれこそ幻みたいなものだろ。あいつらが死んだときにもうとっくに覚悟はしてあるんだよ」

「……そうかい」

「そうだ。だから一思いに終わらせてくれ」


 操られているわけでもないのに敵側についたというのであれば、残念だが俺も容赦は出来ない。

 いくら親しい仲間だろうと、情が湧こうと、それはもはやただの敵なのだから。


 敵か、味方か。敵だというのならどんな相手だろうと敵と扱うのみだ。


「わ、私嫌よ……」

「……そうか」


 シェピアは、魔法を使うことを拒否した。


 俺の方針に皆が従うことができるわけでは無い。

 まぁ、敵の殲滅と言えば聞こえは良いが要するに人殺しだからな。

 冒険者だとしても許容できない場合が多いだろう。


 フリオもグリスティアもなんだかんだと言いつつしり込みをしているようだった。


「エテルノ、やっぱり考え直さないかい?ディアンみたいに牢屋に入ってもらったりすれば、彼女たちだってきっと--」

「もう話は終わりで良いかしら?もう良いようならさっさと終わらせたいんだけど」


 フリオの言葉を遮るようにシュリが言う。

 彼女の目からはもうとっくに親しみが消えていた。

 

 今俺達の目の前にいるのは、ただの敵でしかない。


「分かった。それじゃあ始めよう。……フリオ、ここは俺が残るから先に行っていてくれ。俺の予想が正しければ、この先にはバルドがいるはずだ」

「……ッ?!本当かいエテルノ?!」

「あぁ。そもそもバルドが居ないと死霊術使えないだろうしな」


 おそらくバルドもミニモが蘇らせたのだろう。

 故意にやったとは思えないので、イギルによる脅迫の結果だろうか?


「それじゃ、突撃~!!」


 間の抜けた声でシュリが開戦を宣言する。

 こちらへ飛び込んで来た骸骨をいなしながら言う。


「フリオ、悪いがここは任せてくれないか。効率を度外視するなら流石に身内の始末は自分でやりたいんだ」

「……ミニモも待ってるから、早く来るのよ?」

「分かってる。ただバルドをさっさと片付けてくれないとこの骸骨どもをどうしようもできないから、お前らが急いでくれないことにはどうにもできないんでな」


 グリスティアの言葉にさっさと返して、フリオの背中を押してやる。

 ……ここに居るのはせいぜいが骸骨兵と駆け出し冒険者の女数十人だ。

 残念ながら、俺一人でどうとでもできてしまう。


「さっさと行けよ。俺だって人の見てるところで人殺しなんてしたくないからな」

「……分かった。先に行ってるから出来るだけ頑張ってね」

「あぁ。そもそも俺が頑張らなかったことなんて無いだろうが」

「いやそれはあるけどね」

「あぁ?!」


 すれ違いざまに言われた言葉を聞き返そうと振り返った時にはもうフリオ達は駆けだしていた。

 骸骨を魔法で吹き飛ばして道を開き、進んでいく彼らの背中を目で追う。


 ……オーウェンたちも先に行きやがった。大方、死霊術を使ってるバルドを優先する判断だろうが……あいつらだったら多少手伝ってくれても良かったのにな。


「よし、そんじゃ始めるか……」


 剣を鞘から抜いて、俺は伸びをするのだった。

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