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死なばもろともに

「……さて、ミニモちゃん、どんな調子だい?」

「どうもこうもないですけどね。何がしたいのか、訳が分かりません」


 私が連れてこられたのは未だに血の匂いが色濃く残る地下道。

 私の周りを、エテルノさんのかつての仲間であるシュリさんやネーベルさんが心配そうに取り囲んでいた。

 未だに私の手首を掴んで話そうとしないイギルさんは言う。


「何がしたいか、って言われてもね。僕たちはただ君を仲間にしたいだけなんだけど……信じてないみたいだね?」

「信じてない、というよりも貴方たちを仲間だとは思えないってだけですけどね。そもそもなんで貴方が生きているのかも分かりませんし」

「あはは、ボコボコにされたからねぇ。そこの女の子たちにもお世話になったよね」


 イギルさんがシュリさんやネーベルさん、その周りの皆を指さした。

 そうだ。以前イギルさんがここへやってきたときは、私達で囲んでイギルさんを確かに殺したはずなのに。


「いやぁ……まぁ、幻覚魔法が無ければ間違いなく死んでたんだけどさ、幸い僕は生き残った。しかも、それについてはあまり咎める気も無いんだからもうそんなに気にすることは無いと思うけどね?」

「……」


 正直なところ、私はあまりこの人を信用出来ていない。

 そもそも私の治癒魔法が発動していないのだって妙だろう。私はそう簡単に心を許したりする気はないのだから、彼の話を全て聞いてあげる義理も無い。


「……困ったなぁ。フィナ、だから先にエテルノの方を仲間に引き入れないとって言っただろう?こういう女の子は皆頑固だって相場が決まってるんだからさ」

「エテルノ……なんデそんな男ガ大切なンだ?私二は分からないガ……」

「エテルノさんはですね、凄いんですよ。フリオさんやグリスちゃんも凄いですけど、それよりももっと凄いんです」


 だから別にこの状況だって怖くはない。エテルノさんなら間違いなく助けてくれると分かっているからだ。

 ……問題は、シュリさんやネーベルさんもこちら側にいること。彼女達は元々エテルノさんと同じパーティーメンバーだったのだから、エテルノさんだって少なからず情が湧くだろう。

 エテルノさんを彼女達と敵対させたくは無かった。


「凄い、ねぇ。あの男のどこにそんなに惚れ込んでるのやら、って感じだけどさ、エテルノを仲間に引き入れれば君も協力してくれるんだよね?」

「……私はエテルノさんに従うだけです。エテルノさんが貴方たちの仲間になって禁術を広めるって言うんだったら、いくらでも協力しますよ」

「あっそ。他の皆なんてどうでも良いんだねぇ」

「そんなことありませんよ。フリオさんもグリスちゃんも、リリスちゃんもアニキさんもシェピアちゃんも皆大切な友達です」


 でも、エテルノさんの方が大切だった。ただそれだけの話。


 私がそう言うと、イギルさんはあきれた顔をした。


「参ったね。これじゃ恋と言うよりも、まるで崇拝だ。ここまで筋金入りとは思わなかったけど……」


 さて、先ほどから雑談のような感じになってはいるけれど……


「すいません、さっきから色々とやめてもらえませんか。うざったいです。私には効かないのであきらめた方が良いですよ」

「……バレてるねぇ」

「当たり前です」


 私が捕まってから散々、イギルさんが何やらうさんくさい動きをしているのは分かっていた。

 もちろんしっかり無効化しているわけだけど。


「まさか幻覚魔法が効かないなんて思わなかったな。ちゃんと効くんだったら操ってでも仲間にしたのにさ」

「治癒魔法士が治癒魔法だけだと思ったら大間違いですよ」


 怪我を治すだけが治癒魔法士では無いのだ。

 清潔な空間を保つために結界魔法だってそこそこ扱うし、他にも解毒魔法、精神干渉を防ぐ魔法だって覚えるのだ。

 治癒魔法が使えなくたって、出来ることはある。


「強化魔法も使ってるはずなんですけどね」

「その辺はちゃんと僕も使ってあるからね。君が頑張っても僕もパワーアップ、ってことであいこだよ」


 イギルさんの手を振りほどこうとしてもうまく行かないのはそういう事情らしい。

 こうなってしまったら助けを待つほかない、って感じなんですかね。


「あ、ちなみに蘇生魔法を無効にしててもそこの女の子たちが死なないのはどういう訳なんだい?その子達、君が蘇らせた感じだろう?」


 イギルさんはフィナさん達、そしてバルドだったものを見ながら言う。

 私達がここに来てからと言うもの皆もさすがにバルドを殺すのは止めておいてくれており、バルドは体の一部を失いながらもどうにか息をしていた。


 私はイギルさんの質問に答えることにした。


「そうですよ。私が蘇生魔法で、蘇ってもらったんです」

「……蘇生魔法を使えなくしてるのに、死なないんだね。死霊術を無効化したときは、操ってた死体は全部ただの死体に戻った覚えがあるんだけど」

「蘇生魔法はそういう感じじゃないですからね」


 死霊術は常に発動させて死体を操る魔法だ。

 けれど、蘇生魔法は違う。蘇生魔法が効果を発揮するのは『蘇らせた瞬間』だけなのだ。

 だから、一度蘇らせた人間は蘇生魔法を無効化されようと死体に戻ったりすることはない。


 死霊術なら魔力が途切れてしまえばただの死体に戻るため勘違いしやすいけれど、蘇生魔法と死霊術は完全な別物だ。

 もうすでに蘇っている皆が死ぬことはない。

 ……次死んでしまった時は、蘇らせられないけど。


「ふむ……?ということは、蘇生魔法を封印しつつ君を殺せば二度と蘇らない、ってわけかな?」

「……まぁ、そう言うことになりますね」


 死霊術であれば、術者が死んでもいつかは必ず蘇る。

 魔力さえあればいくらでも蘇ることができるのだから、封印したところで封印を解けば蘇るのだろう。

 けれど、私は蘇生魔法を封じられた状態で一度死ねば終わりだ。


「まぁ、貴方たちは積極的に私を殺そうとしたりしないでしょうしね。うっかり私を殺さないよう気を付けてください」

「あはは、自分の貴重さを分かってるって感じだね。嫌いじゃないよそういうの」


 さて、他にも気になることと言えばずっと黙っているディアンさんもですが……


 と、イギルさんが笑って言う。


「さ、ミニモちゃん、エテルノが来たみたいだよ」


 彼が何やら水晶を取り出して、私の目の前に置く。

 その中にはやはりと言うべきか、エテルノさんを先頭にして見知った顔の皆が映りこんでいたのだった。

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