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敵の敵は味方っていう見方もできなくもはない的な。

 俺がマスクやオーウェンに連絡を取り、俺の居る町へ来るように頼んでから彼らが到着するまでに約三日。

 無事に合流を果たした俺達は顔合わせもかねて次なる作戦を立てていた。


「……ってわけで、こっちのがオーウェン。で、こっちのがマスクだ。お前らの部下はどうしたんだよ?」

「外にいるぜ。大人数で来ても迷惑だろうしな!ここのガキどもと多分楽しく遊んでるはずだ!」


 孤児院に集合した俺達は、リリスやフィリミルに彼らのことを説明していた。

 同時に、ミニモが蘇生魔法を持っていることを知らなかったシェピア達にもしっかりと説明し、今後の作戦を練ろうとしているところである。


「ほんとに大丈夫なのかのぉ……」


 心配そうに孤児院の外を見ているのはサミエラだ。

 どうやらマスクの部下たちと子供たちが遊んでいるのが不安らしいのだが……でもアニキの手下と遊ばせてた時点でこっちの方がよほど安全に決まってるんだよな。

 マスクの部下たちはあくまで組織の一員、アニキの手下に至ってはただのゴロツキなのだから。


「で、そのイギルって奴とフィナって奴が今回の問題だ。ディアンに関してはおそらく説得次第ではどうとでもなる。……イギルの使う魔法だったりとか、奴らの魔法に心当たりがあれば教えて欲しいものだな」


 そう。これが本題だ。

 禁術に関しての知識は俺達よりも圧倒的に豊富であろうオーウェンたちに、イギルの使う禁術への対抗策を聞ければ心強い。

 が、期待に反してオーウェンは首を横に振った。


「悪いけど、幻想魔法に対抗手段は無いと思うなぁ。幻を見せられた段階で詰みだよ多分」

「……そうか」

「その、ディアン?の方の禁術はなんとなく見当がつくね。壁とか地面をすり抜けたんだろう?厄介ではあるけど、物理的な物をすり抜けたりするだけの魔法だからこれに関してはどうとでもなると思うよー」


 伸びをしながらオーウェンが言う。

 まぁ、そう言うのであれば大丈夫なのだろうが……。


「ちなみにだが、ディアンの処遇はどうするつもりだ?」

「……そうだねぇ。禁術に手を出したんなら、もうしょうがないかな。ミニモと同じように取り扱わせてもらうよ」


 つまり、殺す、と言うことらしい。

 オーウェンがこういうであろうことは既に予想してあったため、この場でオーウェンに食って掛かる人間はいないがやはり空気がピりつくのは避けられない。

 特にこの場で怒りをあらわにしているのは……サミエラと、フリオか。

 しょうがないこととはいえ、迂闊に挑発するような態度を出すのは止めて欲しいものだ。

 

 少なくとも俺は、ミニモもディアンもみすみす殺させるつもりは無いからな。


「で、ディアンを始末したとしてどうするんだ?フィナに関しては魔法の無効化が無いとしても強敵だし、イギルの幻想魔法については手が付けられないと来た」

「そうだぞオーウェン、どうするんだよ」


 俺の言ったことに賛同してオーウェンに聞いたのはマスク。仮面をつけた、オーウェン側の人間だ。

 仮にも仲間だろうにそれでいいのかお前。


「まぁどうにか出来ないことも無いよ。その幻想魔法って言うのには有効範囲があるんだったね?」


 オーウェンがアニキの方を向いて質問する。

 俺達の中でイギルと戦っていたのはおそらくアニキが一番経験多いからな。順当な人選だろう。


「有効範囲っつぅか、まぁリリスとかフィリミルにかかってなかったとこから推測しただけだけどな」


 そう。アニキが戦っている間、リリスやフィリミルは幻の被害を受けなかった。

 とするならば、気をつけなければならないとはいえイギルから一定範囲離れていれば攻撃は受けないと見るべきだ。


「じゃあ遠くから魔法での攻撃……ってことになるかな。でも魔法を無効化してくる人間がいる、と」

「あぁ、フィナな」


 ミニモをどうしているかは知らないが、一瞬魔法を無効化してすぐにミニモの治癒魔法を無効化する状態に戻す、と言うことも可能だ。

 フィナがいるだけで遠くからイギルを狙うことは格段に難しくなると考えられる。


「フィナを引き離しつつイギルへの攻撃が理想か?」

「そうなるねぇ」


 しかも俺達には同時に『ディアンへの説得』も条件として含まれ、イギル撃破の後にはミニモとディアンを守る方法も必要になってくる、と。

 難問だな。正直なところいい案が思い浮かばない。


「じゃあそういうことで。ちなみに今のところ彼らがどこに行ったのか分かってたりする?」

「あぁ。そこはばっちりだ。三日間無駄に過ごしていたわけじゃないからな」


 マスクやオーウェンが到着するまでの三日間、俺達も様々な議論を重ねていたのだ。

 グリスティアと俺が探知魔法を駆使し、奴らの居場所を突き止めるのもこの三日間で行っていた。


「場所は地下道、最奥の空間だな」


 俺達にとっては思い出深い場所だ。

 ……といっても、悪い思い出だが。


「前にこの町を襲った死霊術師が潜んでいた場所なんだが、何故だか今回もそこに陣取ったらしい。以前行った時はお世辞にも快適とは言えない場所だったんだがな」


 そう。ここはバルドが居た場所だ。

 バルドが居た地下道にわざわざ逃げ込んだのには何か意図を感じる。


「罠だとしても乗るしかないだろうが……」


 そもそも奴らがミニモを仲間に引き入れたいだけだというのならミニモを攫ってすぐにでもこの町の外に逃げればいい。

 そのため、間違いなく何かが待ち構えているはずだ。


 しかし代わりに、こちらにも利点があった。


「地下道の狭い空間なら、アニキの収納もしっかり機能するだろう」


 動き回られるのを苦手とする『収納』も地下道内ならその実力を発揮できる。


「それと、周囲が土だから言うまでも無くマスクの魔法も協力だ」


 土魔法を得意とするマスクにも相当期待できる。

 そのため、地理的にはこちらが優位。

 

 ……後にマスクも敵対することを考えると素直には喜べないが、さしあたってイギル達と戦うには朗報だと言える。


「そんなわけで、色々細部を詰めていきたいんだが……ん、どうした?」


 ふと俺を見る視線がいつもと違うような気がして、フリオに声を掛ける。

 フリオは、少しだけ笑って言った。


「いや、いつもと少し違う気がしてね。今日のエテルノはいつもよりも更に真剣だなぁって」

「そうか?」


 いつもは俺が真剣では無いような言い草だが原因があるとすれば、そうだな……。


「ミニモが居ないからじゃないか?あいつが居ないと集中できる」


 いつもはあいつがいるせいで色んな所に気をまわしているからな。

 そう俺が付け加えると、皆が笑うのだった。

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