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只人に戻れるのなら

「久しぶりだね、フリオ」


 ディアン。僕の幼馴染であり、一緒に育ってきた兄弟のような存在。

 そして、町を半壊させるほどの被害を出したテロリストとして収監されていた男。

 そんな彼がなぜか今、テミルを捕まえているイギルの傍に立っていた。


「ディアン……?!なんでここに……!」

「……サミエラから聞いてるよね、多分。僕は脱走したんだよ。それしか、道が無かった」

「脱獄だけなら君の気持ちも分かるさ!で、でもそのイギルは--」

「知ってるよ。僕はこいつが最低な奴だってことを知ってる。僕が副ギルマスだったってことを忘れてないか?」


 そういえばそうだ。ディアンは副ギルマス、イギルはギルマスだったのだから多少は分かっているはず。


「じゃあなんで……!」

「テミルのことは、君たちに任せられないって分かったからね。大丈夫。テミルを」

「テミル……?いや、テミルは今エテルノが……」


 エテルノが、テミルや劇団の皆を救うためにまだ森に残って交渉をしてくれているはずだ。

 マスクやオーウェン、エテルノなら彼らとうまく話をまとめてくれると信じている。

 だから、僕たちはエテルノをあちらに残して戻ってきたのだ。


「ディアン、久々の再会なのは分かるけど今は急ごう。時間無いしさ」

「……あぁ、そうですね。じゃあそういうことで」

「ちょ、待ってディアン……!」


 少なくともミニモを連れて行かせるわけにはいかない。いつ蘇生魔法が暴発するかも分からないというのに、イギルが彼女を連れていくなんて--


 --ミニモの手を引こうと伸ばした手が空を切る。

 剣技でも散々練習した足遣いを使って、イギルが反応できないほどの速度で距離を詰めたはずなのに。

 伸ばした手がミニモを掴むと、そう確かな確信があったのに、掴めなかった。


 ミニモとイギルの体が、半分地面に埋まっているのを見て僕は目を見開いた。

 と、イギルが微笑を浮かべて言う。


「フリオ君、避けたほうが良いよ」

「なっ……!」


 わき腹に強い衝撃が叩きこまれ、体が軋んだ。

 フィナ。イギルと共にいた、棍棒使いの女性。彼女の棍棒が僕のあばらを抉るように、突き刺さっていた。


「フリオさん?!」

「ぐっ……!」


 衝撃を受け流そうと受け身を取っても逃しきれなかった衝撃が僕の体を巡り、一撃で意識が揺らいだ。

 

「フリオに……触らないでよ!」


 倒れ伏した僕を庇うようにグリスが魔法を展開し、フィナへ放つ。

 彼女達の戦いの奥で、地面に沈むようにイギルとテミルが消えていくのが見えた。


「地面に--」


 先ほど僕が見たのは幻では無かったらしい。

 確かに、ミニモとイギルは姿を消している。まるで、地面に沈むように。


「きゃあ?!」


 グリスが悲鳴を上げたのが聞こえた。

 フィナが、グリスの魔法をかいくぐって彼女に棍棒を振るったらしい。


「グリス……!」


 倒れている場合ではない。

 すぐに体を起こして、揺らぐ視界の中で無理やりグリスのところへ向かう。

 シェピアは一切動けないでいるようだ。

 それはそうだろう、先ほどまでイギルはアニキの姿だったのだから。

 イギルがアニキに変装していた、と言うことは商会へと向かったアニキ、リリスやフィリミルがどうなったのか嫌でも想像してしまう。


「せいやァッ!!」


 剣を振るってフィナを牽制、グリスから遠ざけつつ彼女を庇える位置まで移動する。

 地面に沈んでいくミニモと、目が合った。


「フリオさ--」

「……ごめん……!後で絶対助けに行く……!」

「……はい、待ってますね」


 ミニモとグリス。

 僕は咄嗟に、グリスを選んだ。

 

 地面へ沈んで消えたミニモの最後の顔が酷く悲し気に見えたのは僕の罪悪感の生み出した錯覚だろうか。


「ディアン……!これは君の仕業だってことで良いんだね?!」

「……そうだね、間違いなく僕のせいだよ」


 ディアンを今すぐにでも問いただしてやりたいが、今少しでも隙を見せればグリスたちが危ない。

 僕自身も、先ほどから胸が焼けるように痛んでいた。

 息を吸う度に膨らむ肺が悲鳴を上げる。


 動けて、あと少し。


 それを見ていたディアンが、悲しそうに口を開く。


「フィナさん、そろそろやばいです。そこまで来てるみたいなんで逃げたほうが良いかと」

「ム、そうなノカ?」

「えぇ。ミニモさんが居ない限り彼らの傷はそう簡単に癒えませんし、もう放置で良いかと。追っては来られないでしょう」

「ンー、じゃアしょうがなイ!」


 大人しく棍棒の構えを解き、ディアンの方へ歩いていくフィナ。

 僕はそれをただ見送ることしかできないでいた。


「じゃア、ディアン頼むナ!」

「えぇ、下手に暴れないでくださいね。操作も厄介なので」


 ディアンがフィナの肩に触れ、二人ともが地面へと沈んでいく。

 まるで体が無いかのようだ。すり抜けるようにして、体からフィナの棍棒までが地面へと沈む。


「……フリオ、最後に、良いですか?」

「……」


 ディアンが何か言いたげにこちらを見た時には、既にディアンの胸辺りまでが地面に埋まっていた。

 何か言葉を返そうと、息を吸った途端激しい痛みに襲われて、咳き込んでしまう。


「……本当に、すまないと皆に伝えてくれると嬉しいです」


 ハッとして顔を上げた時には、もう既にそこにはディアン、そしてフィナの姿は無く、ミニモと引き離された僕達だけがそこに残されていた。

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