放たれた鳥籠の鳥
「--はぁ、中々疲れたな……」
アニキが眠ったのを確認して俺はため息をつく。先ほどまで散々走りまわされて、もううんざりだ。
とはいえここで放置するのもまずいので休みは取れないのだが。
「……とりあえず動けないようにだけはしておくか」
アニキが目を覚まさないように追加で催眠ガスを吸わせ、手足を縛っておく。
まぁこれで大丈夫なはずだ。
「おいリリス、フィリミル、大丈夫か?」
「は、はい……でももう無理です……」
「……まぁそりゃあそうだろう。分かった。お前らはアニキを見張っててくれ」
アニキの攻撃で穴だらけになった部屋を魔法で簡易的に修復し、歩ける場所を作っておく。
フィリミルとリリスはここに残していって、俺はアニキを操っていた人間を突き止めなければ。
「悪いがリリスは魔獣が外に逃げ出さないようにしておいてくれ。それだけは本当にまずいからな。疲れているだろうが……」
「大丈夫です!私ももっと役に立たなきゃなので……」
「……そうか。じゃあ頼んだぞ」
最初に会った時と比べたら二人とも凄く成長しているな。
二人が再び警戒に当たり始めたのを見届けて、俺は探知魔法を使う。
「……ん?」
先ほどまでいた人数が、二人減っている。
「……ドーラの反応は……」
あぁ、あったな。ドーラはまだここに居るようだ。
とにかくドーラと合流しなければ始まらない。そう判断した俺はすぐにドーラの元へと駆けだすのだった。
***
「……おう、やっといたな。これはどういう状況なのか説明してもらおうか」
それから数分、室内にいるとは思えないほど苦労しながらも俺は何とかドーラを見つけ出すのに成功した。
ドーラは床に倒れこんでおり、それを心配そうにカイザーがつついている。傍から見ると食われかけているようにしか見えないが。
まぁそれは置いといてだ。
「ドーラ、生きてるだろ。なんでこんなことになってんのかって聞いてるんだ」
「っす……ちょーっとやりすぎたっすねぇ……ダンジョンマスターとして、頑張ったんすけど……」
「まぁ頑張ったのは分かるが……」
鬱蒼と草木の茂る室内は、壁を這いまわる蔓が窓も塞いでいるせいで光が全然入ってこない。
草木を少し切って道を開き、俺は窓を開けた。
外は……外まではこの植物は生えていないようだな。
通行人はこの騒ぎも何も気にしていないことだろう。
「しかし参ったな……これをごまかすのか……」
ドーラがダンジョンマスターだとバレないようにするためには、これを俺がやったことにしなくてはならない。
……でも俺こんな魔法使えないんだよな……。魔法が使えない人間ならまだしも、グリスティアやシェピアに見られたら一発でバレるぞ。
「片付けるしか、無いか……」
彼女達が見つかる前に片付けてしまえばいい。
というか、バレないようにするためにはそれ以外に道はない。
「あ、そういえば敵はどうなったんだ?」
「……そ、それなんすけど……」
ドーラが、面目無さそうに顔を上げた。
「三人、逃げられちゃったっす……」
「えっ」
「その三人の中にイギルさんとディアンさんがいたっすね……」
「えっ」
ど、どういうことだそれは。
「あ、でも他の人は全員植物の下敷きっすよ。安心してくださいっす」
「お、おう……」
確かに良く見ると蔓の下から手とかがちらほら見えている。
……随分仕留めたな。
「ちょっとあの三人に関してはどうしようもできなかったっす……すいません……」
「いや、大丈夫だ。ここまでやってくれたなら後は自分で何とか出来るだろう」
アニキに関しても、操られていたというのなら敵はイギルが有力だ。
イギルが逃げたということは、もうアニキが操られることは無いと思って良い。
「……ん?」
あいつらが逃げた、というのはまだ良い。が何のために、となると……
「……これマズくないか?」
イギルが逃げて何をするかと言ったらまぁ十中八九ミニモのところに向かうだろう。
ミニモのところは、フリオとグリスティアとシェピアしかいない。
……なるほど?
あいつら三人だとイギルに対抗できるかと言われると怪しい。
「ドーラ、ちょっとスライム置いてくからここ片付けておいてくれ」
「えっ」
「急いでいかないとマズイことになったわ」
ドーラにさっさと別れを告げ、俺は再び外へ飛び出すのだった。




