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敗北宣言

「中々終わらないな」

「ですねぇ」

「なんでこんなに緊張感無いんですかね……」


 アニキの爆撃を防ぎつつ、俺たちは次の作戦を練っていた。

 爆撃に関しては普通に結界で防げそうだから良いのだが、アニキに攻撃が出来ないのが難点だからな。

 アニキが何らかの手段で操られているところまでは分かったので、問題はどうやって目を覚まさせるかだ。


「なぁ、目を覚まさせるというよりはもっとこう……一回動けなくさせるとか、そっちで良いんじゃないか?」

「具体的に何をするんすか?」

「外に出てきた瞬間不意打ちで足を吹き飛ばす」

「考え方が血の通った人間とは思えないっすよ」


 失礼だな。

 ドーラこそ血も涙も無いマンドラゴラだろうに。

 絞れば野菜ジュースぐらいは出るだろうが。


「で、どうする?アニキをボコボコにするか、目を覚まさせるか。それか……」

「え、まだ何か方法があるんですか?」

「あぁ。アニキを操ってる『術者を倒す』。この三択になるな」


 アニキが収納で逃げている間はこちらから手出しができない。

 となれば、アニキを何とかするのは不可能に近いだろう。

 ……となれば、術者をボコボコにして魔法を解いてやったほうが良い。


「術者はおそらくだがここの商店の……ふむ、何人か候補がいるな。最短距離だと一つ上の階の窓際に立っている……男、だなこれは」

「もうそこまで分かってるんですか?!」

「バレない様に無詠唱で探知魔法を使っておいたんだ。で、何となくだが敵がどの辺に居るかって言うのも分かった。後はどうするかってことだが……」


 何とかして敵のところまで辿り着けば、アニキを助けられるか?


 幸い今はアニキがこの場には居ない。

 爆弾の雨を結界ではじきながら進めば、どうとでもなるだろう。

 そう説明して、俺達は前へ進むことに決めた。


「おいドーラ、離れるなよ。一歩でも結界の外に出ればお前は焼きマンドラゴラだからな」

「っす……!任せるっすよ。カイザーも絶対に離さないっす」

「そいつの場合は焼き鳥だな」

「美味しそうっすね」

「それでいいのかお前」


 怒り狂ったようにカイザー(烏)がドーラをつつきまくっているがそれは置いといて、だ。

 アニキがやたらめったらに爆弾を投下しまくっている、っていう現状からして既におかしいんだよな。

 放たれた魔獣はリリスが処理、爆弾は俺が対処、アニキの不意打ちはフィリミルが警戒するという万全の体勢ではあるが、アニキは基本的にこんな訳の分からない戦い方はしないはずだ。

 とするならば、何かこう……何かがおかしいのだが、その何かが分からない。


 と、その時だった。

 パキン、と軽い金属音を立ててそれまで張っていた結界が砕け散り、宙を細かな破片が舞った。


「……は?」


 すぐに次の結界を展開--出ない。結界魔法が、使えなくなっている。


「え、エテルノさん、そっちまずいです……!」

「う、お……!」


 フィリミルに引き戻された俺の鼻先を火球が掠めていった。

 言うまでも無く、アニキの放ったものだ。


 なんでこのタイミングで、魔法が無効化されているんだ?

 おかしいだろう。先ほどまで使えていたはずが……


「……あぁ、そう言うことかよ……!」


 この現象には覚えがある。

 テミルの行方を追っていてオーウェンやマスクと出会った時も探知魔法が使えなくなったのだ。

 で、あるならば何かしらの『魔法』を封じる手段が相手にあると考えるべきだ。

 今まで使っていなかったことから、この手段は連発できない物だと考える方が自然。


「結界を潰されたのは不味いぞ……!」


 先ほどからずっと疑問だったのだ。

 アニキのようなチートスキルを使える人間がどうしてこんなことになっているのか。

 『収納』さえあれば相手の攻撃を食らうことは無かったはずなのに。

 それは--


「アニキも、収納を潰されたのか……!」


 アニキに他の攻撃手段はない。収納が使えなくなったアニキなんてもう、ただの悪党でしかないのだ。

 ちょっと悪知恵が回る程度では自分の身も守れない。


「……まずいな。フィリミル、とりあえずお前の未来予知が使えなくなったらすぐに教えてくれ」

「え、は、はい!」

「それまでは結界無しでこの状況をしのぐからな……!」


 土魔法、水魔法の複合で泥を辺りにまき散らす。 

 俺達に飛んでくる火球を水魔法で受け止め、地面にまき散らされた火の粉は土魔法で鎮火。

 これだけで十分とは到底言えないが、今はこれしか--


「エテルノさん!予知が使えなくなりました!」

「よし、今すぐ逃げろっ……!」


 結界魔法を発動……した。結界は張れたが、今はこれじゃぁ意味が無い。

 フィリミルたちを抱えて、俺は天井へと飛び上がった。


「--『収納』」


 アニキが再びこちらへと現れて、何もかもを『収納』でこそげとっていく。

 もはや元々の倉庫の面影は一切残っていない。

 蹂躙と、破壊の跡だけが生々しく残された。


 ……いや、破壊とすらも言えないかもしれないな。『収納』の断面が鋭利すぎるせいで、これはこれで何かの芸術品のようにすら思えてしまう不思議な光景だ。


「エテルノさん、今のどうやって分かったんですか……?!」


 リリスが驚いた声を上げるが、今はそれどころではない。

 とにかく、今分かったことは……


「アニキは倒せない!術者を探す方向に切り替えて考えるぞ!」


 作戦の方針が決まった……と言えば聞こえはいいが、実質敗北宣言を掲げて俺は逃走経路を考えるのだった。

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