絶叫絶許王
「三人とも大丈夫そうだったかい?」
彼女達と合流して、僕が真っ先に聞いたのはそんな内容だったように思う。
グリス、シェピア、そしてミニモ。
僕のこの質問には暗に、『ミニモは何もしでかさなかったか』という疑問が込められていた。
「えぇ、大丈夫よ。そんなに問題は無かったわ」
「そうかい?まぁグリスがそう言うならそうなんだろうけど……」
見ると、シェピアがミニモを宙に浮かせている。
浮遊魔法……だよねこれ。
シェピアが浮遊魔法を使うと魔力の操作がうまく行かないとかでなんかまずいことになるんじゃなかったかな……?
「フリオさん、ギルドの方はどうでした?」
「んー、まぁまぁかな。イギルのことはしっかり伝えてきたから大丈夫だと思うよ」
「じゃあ私はもうアニキのところに合流しても良いのかしら?」
「良いけど……でも一人で行ったらダメだよ。僕達もついて行くから、皆で向かおう」
アニキについていけなかったせいで若干不満そうな顔のシェピア。
彼女はアニキのことを随分気に入っていたからね。あまり離れたくなかったのだろう。
「で、グリス。これは今何をしてるんだい?」
「いや、シェピアには前々から魔力の操作を教えてくれって頼まれてたからこの機会に教えちゃおうかと思って……」
「ミニモは何で浮かんでるのか教えてもらっても……?」
「怪我してもすぐに治せるからって自分から練習台になってくれたのよ」
「治るから何されても良いってわけじゃないよね?!」
ミニモの若干常識はずれな感じは、僕には未だに理解できないところが多い。
エテルノなら何か心が通じ合っていたりするのだろうか?
「ミニモはそれでいいのかい?」
「大丈夫ですよー。あ、シェピアちゃん今ちょっと魔力暴走してましたから気を付けてください」
「わ、分かったわ!」
「もう爆散したくないのでお願いしますねー」
「もうすでに一回は爆散したんだね?!」
「三回はしたわよね」
「三回も?!」
いや、ミニモが蘇生魔法も使えるのは知っているけれど……それは隠してるんじゃなかったのかな?
なんでこんな公衆の場で三回も体が爆散させられてるのか、僕には全然理解が及ばない。
「まぁすぐに治したので血の一滴すらこぼれてませんからね。大丈夫ですよ」
「大丈夫の基準がおかしい」
うん。もうこれ僕じゃ収集がつかないな。
こういうのは専門家に任せるべきなのだ。
要するに、ミニモはエテルノに、シェピアはアニキに押し付けるということだけど。
「それじゃあアニキのところに行こうか。商店の方に向かってたはずだよね?」
「そうね。フィリミル君とかリリスちゃんとかが一緒のはずだけど」
「うん、覚えてるとも」
まぁ、あの二人がいるのならそんなに困ったことになることは無いだろう。
アニキは圧倒的に防御面においての最強であり、フィリミル君はどんな不意打ちも通用しないスキル持ちなのだから。
防御に関してはあの二人のペアに勝る人は居ないだろう。
……攻撃に関しては、シェピアとグリスとかかな?
絡めてだとアニキとエテルノ……まぁ色々ありそうだ。
僕にしかできない役回りが無い、というのは問題だけれど。
「僕が役に立てるのなんて数が必要な時だけだしなぁ」
数が必要になるなら僕のスキルで影を呼び出して攻撃、みたいなこともできるけれど、単純に敵の数が多いだけならシェピアやグリスの大魔法で事足りてしまうからね。
僕の周りには唯一無二の才能を持つ人が多いけれど、僕にはあくまで代用の効く程度の才能しか備わっていないのだ。
「フリオ?どうしたの?」
「……あぁ、いや、大丈夫だよ。少し考え事をしてただけさ」
グリスが心配そうな顔でこちらの顔をうかがっているのに気づいてすぐに気分を切り替える。
最近はこういうことが多い。
やはり、少しだけミニモのことを意識してしまっているのかもしれない。
だって、蘇生魔法の使い手がすぐそこにいるのだから。
僕の村が壊されたのも、ディアンの親が殺されたのも、全部、蘇生魔法のせいだ。
そもそもの村を破壊した元凶であるオーウェンに会ってしまった、というのももちろん大きいだろうけど。
「……さて、アニキのところに向かおうか。別に困ったことにはなってないだろうけど僕達が合流していても問題は無いはずだしね」
ゆっくりアニキのところへ行こう。そう提案しようとした、その時だった。
「--アニキさん、うじうじしてないで……さっさとシェピアさんとくっつけっすよォおおおおおお!!!」
「えっ」
突如とんでもない声量で響き渡るドーラの声。
辺りを行き交っていた人々も皆不思議そうに空を見上げていた。
「え、何どういうことだい?ドーラが……なんだって?」
「ちょ、ちょっとシェピア?!しっかりしなさいよシェピア?!」
呆然としているとグリスの焦った声が聞こえてきて慌てて振り向く。
そこには、トマトと見紛うくらいに顔が真っ赤に染まったシェピアの姿があった。
そのまま彼女は、ゆっくりと膝から崩れ落ちる。
顔からはまるで湯気が立ち上っているかのようだ。
「あー……ミニモ、今のどう見る?」
「どうって、アニキさんとシェピアちゃんがうじうじしているのに痺れを切らしたドーラちゃんがとうとう我慢の限界を迎えた、とかそういうことじゃないんですかね?」
「まってミニモそれ今のシェピアにオーバーキルだから」
案の定、シェピアは口をパクパクさせているが言いたい言葉が出てこないようだ。
うーん……
「……とりあえず、行こうか?」
少なくともアニキ達の話を聞く必要はありそうだ。
そう判断して僕たちはアニキの向かった商店へと歩き出すのだった。




