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マンドラゴラ事件の終結

「……グリスティアがなんでここにいるんだ?」


 目の前には、ベットで布団を被っているフリオ、さらにそのベッドにもたれ掛かるようにしてグリスティアが眠っている。


「あー……」


 フリオがグリスティアを連れ込んだ、って感じでは無さそうだな。服も乱れていないし、短い付き合いではあるがフリオはそういうタイプでは無い気がする。

 となると考えられるのは……グリスティアが忍び込んだ感じか……。


「このパーティーにはろくな女が居ないな……」


 グリスティア、お前は常識人枠じゃなかったのか。お前までミニモのようになっては大変だぞ。主にフリオの胃が。


 しかしどうしたものか。フリオにマンドラゴラの叫びを聞かせるとグリスティアまで被害を受けてしまう。うーむ……。


 まぁしょうがないか。グリスティアも自業自得のようなところがあるし、叩き起されてもしょうがない。むしろ俺が第1発見者で良かったというところか。

 もしこんな光景、ミニモにでも見つかったら……


「……想像したくないな。さっさと済ませてテントに帰って寝るとしよう」


 フリオの枕元にマンドラゴラを仕掛けてテントを出ようとした瞬間、


「んぅ……」

「……ッッ?!」


 唐突にグリスティアが目を覚ました。だが俺は今透明化魔法を使っている。バレはしないはずだが……


「……誰かいる?」

「ッ!」


 まずい。急いで逃げーー


「姿を暴け、光鏡暴開ーー」


 グリスティアは唱えだしたのは、透明化解除の呪文だ。

 ……しょうがない!詠唱しきる前にやるしかない!


 覚悟を決めてぐい、とマンドラゴラの苗に括りつけたロープを引っ張って思い切り引き抜く。

 もちろんこの距離では俺も叫び声の被害を受けかねないがやるしかない!覚悟を決めろ!


「キギィィルルリリリリリィィ!!」


 金切り声のような、耳障りな叫び声がテント内に響く。思わず耳を抑えてうずくまるグリスティア。

 だが俺の透明化は解除されてしまった。急いで逃げなくてはーー


「な、なんの騒ぎだい?!」


 あまりの大音響にフリオが飛び起きる。そしてすぐにグリスティアが目に入り……


「う、うるさっ?!」


 考える余裕もないようだ。それも当然。マンドラゴラの叫び声の中ではまともに思考できる人間なぞそう居ない。

 そしてなんとか俺は、誰にも気づかれず外へ出ることを成功させたのであった。


***


「あ、危なかった……グリスティア、油断ならないな……」


だが計画は成功だ。これでパーティーメンバーの安眠は妨害できた訳なのだからな。これでようやく俺も追放される日が近づいてきtーー


「エ、エテルノさん……?」


 掛けられた声に思わず振り向く。後ろにいたのはリリスだ。


「……テントに帰ったんじゃなかったのか?」

「え、えっと……私もそのつもりだったんですけどゴブリンさんがもっと散歩したいと言っていたので……」

「……そうか」

「あの、と言うより今フリオさんのテントから……?ミ、ミニモさんだけに飽き足らず……」


 あぁ、どうして俺の計画はいつもこうなるんだ……?もう勘弁してくれ。俺は自分の運の無さを嘆くのであった。


***


「さて、やっと終わったか……」


 またもやリリスにしっかりと口止めをした帰り、俺は自分のテントへ向けて歩き出していた。

 現在時刻は真夜中の三時。計画に手間取ったせいかもうこんな時間だ。


「やっと休めるな……」


 とりあえず明日はフリオとグリスティア、ミニモが睡眠不足で不機嫌になっているはずだ。

 そこで俺が迂闊な行動を取れば追放してくれる可能性がある。そう、計画はまだ終わっていないのである。


「だが健康のためにも睡眠はしっかりと取らないとな。なんとしてでも俺は追放されてみせる……」


 リリスについても本当に何か考えておかなければ。まさかミニモに続いてフリオのテントから出るところまで見られるとは思わなかった。

 くそ、迂闊なことをしたものだ。透明化魔法を瞬時に破ることが出来るグリスティアにしてもそうだ。傷心中とは思えない反応速度で俺の魔法を破って見せた。


 本当にどいつもこいつも強敵ばかりだ。侮っていた俺が悪い。


「……考えるのは一旦辞めだ。今から寝れば三時間か四時間……まぁ睡眠としては十分だろう」


 テントにたどり着き、ベッドを整える。そうだ、ついでに飲み物も用意しようか。

 魔法で熱湯を用意してスープを作って飲む。先程までダンジョン内を歩き回り、腹も減っていたのだ。温かいスープが身に染みる。


「はぁ……」


 さて、もう寝てしまおう。着替えは……まぁいいか。本来なら服も着替えるところだが、今日はこのままで構わない。

 しかし本当に眠いな。判断力が鈍くなってしまっている。このせいでリリスに二度も見つかるような失態を犯したのかもしれないな……。


 ベッドに倒れ込む。宿屋のものとまでは行かないものの今の俺には十分すぎるほどの柔らかさだ。俺は深い眠りに落ちーー


 と、ふと感じた異物感。ポケットに何かが入っている。

 ベッドに倒れこんだ時に俺の下敷きになったのだ。せっかく寝ようとしていたのに、と腹を立てて乱暴に手を突っ込んで引っ張り出し……「それ」と目が合った。


 ――あぁ、そういえば三本買ったマンドラゴラをまだ一本使ってなかったな……。


「あああああ!くそがぁぁあァァ!!」


 俺の絶叫はマンドラゴラにかき消され、届くことは無かった。

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