昨日の敵は今日の友、でも多分明日には敵
「あっぶな……!おいフィリミル!リリス!怪我はしてないか?!」
「大丈夫です!避難間に合いました……!」
立ち込める土煙の中、少し咳き込みながらもフィリミルからの返事が返って来た。
良かった。フィリミルが居なかったら巻き込みかねなかったからな。
……そうなった場合俺が意地でも皆を守るつもりだったが、マジで良かった。
「はぁ……。つい気持ちが逸ってしまったが、悪かったな。巻き込んでしまって」
「いえ!まさかエテルノさんが来てくださるとは思っていなかったですが、むしろエテルノさんで良かったです!フリオさんやグリスティアさんだと僕たちは足手まといになってしまうので……!」
「俺が弱いって言いたいんだな?」
まぁあの二人と比べると否定はできないが……。
そう言ってみると、フィリミルが焦った様子を見せた。
「いえそんな訳じゃ……!むしろエテルノさんは僕達を足手まといにするだけじゃなくて、色んな風に役に立たせてくれるかなと……!」
「……あぁ、そ、そうだな」
フィリミルの迫力に思わずのけぞってしまったが、そうか。そこまで期待してくれているのか。
フリオやグリスティアだってこいつらを足手まといだなんて思ったりしないだろうに。
この期待には、応えなくてはいけないな。
「エテルノさんは弱いっすからねぇ。弱いくせに悪知恵だけで生きていく方針、憧れるっすよ」
「……ドーラ」
「はいっす」
「……」
「えっ、なんでそんな満面の笑みを--」
スライムに命じて再びドーラを呑み込ませる。
消化はしないように、とだけ言っておけばドーラが死ぬ心配は無いだろう。植物だから、すぐには窒息死とかもしないだろうしな。
ちょっとした気晴らしを終えて、俺は再び入口へと向き合った。
「この商店に敵が居る、ってことで良いんだよな?」
「ですね。アニキさんが引っ張り込まれて以降は分かりませんが……戦う音は多分アニキさんと、もう一人だけです。多人数で乱戦になっているような音はしませんでした。それと、その……」
「なんだ?」
「何かが凄く燃えてるような音と、細かく空気が震えてたタイミングがあったんです。物凄い魔力がここからでも感じられるぐらいで……」
リリスの報告を聞いて、何となく状況を推測してみるが……あんまり詳しいところまでは分からないな。
「まぁ、しっかりできることをやってくれていたのがありがたいな。お陰で多少は警戒できそうだ」
その大技だが、相当魔力を使う技らしい。
と言うことは、アニキがそこまでの魔法を使うとは思えないので敵側にそれだけの実力者がいるということになるが……ん、そうなると妙だな。アニキがその攻撃を食らうとしたら、『収納』で回避するはずだ。
焼ける音、と言うのはおかしい。
収納空間の中で何かが燃えたところでその音がこちら側に漏れ出してくるということはあり得ないからな。
「『収納』を使っていなかったということか……?何のために?」
中々分かりにくいところはあるようだが、どうしたものか……。
「とりあえず、警戒しつつ入るしかないな。リリス、ちょっとそこ開けてくれるか?」
「は、はい!」
リリスに少し離れてもらって、そこに魔獣を召喚しておく。
俺が以前スライムを手なずけた時に同じく手なずけておいた雑魚魔獣たちだが、居ないよりはマシだろう。
「リリス、そいつらはお前に譲るからうまくやっといてくれ」
「え、あ、良いんですか?!」
「俺が魔獣を操るよりお前に頼んだ方が良い動きになるからな。それに、戦ってる最中に同時に魔獣を操る余裕は無いかもしれない」
リリスのは『魔獣操作のスキル』であって俺のは『魔獣操作の魔法』だ。
似たような効果ではあるが、リリスのスキルの方が圧倒的に上位互換なのである。
それならリリスに任せた方が良いとの判断だ。
「それからフィリミル。フィリミルは悪いが、危機察知頼む。大体は教えてくれれば結界で何とかするが、それでも駄目そうだったら……まぁ俺の命は任せるぞ、ってことだ」
「っは、はい……!」
「緊張はしないで良いぞ。よっぽどのことが無い限りは結界魔法で何とかなるからな」
フィリミルを先頭に、店の中へと足を踏み入れる。
埃っぽい足元には、大小様々の木片が散らばっていた。
……俺が先ほどドアを破壊したときに散らばっている物も含まれているようだが、この量は……俺だけのせいではないな。
間違いなく、ここで戦った痕跡だ。
「……やっぱりおかしいな」
アニキの戦闘スタイルは『収納』で何かを空間ごと切断したり、『収納空間』に引きこもって魔獣を大量に放ったり……と言うものだ。魔獣以外にも、自分だけ引きこもりつつ爆弾をばらまいたりもするのだが……
「フィリミル、大丈夫そうか?」
「……はい、まだ大丈夫です。ここは、安全です」
拾い上げた木片の断片は、凄まじい力でねじ切ったような形をしていた。
やはり妙だ。『収納』による跡なら鋭利な刃物で切ったような綺麗な断面になるはずだし、爆弾や魔獣によるものなら火薬臭や魔獣の死体が転がっていてしかるべきだろう。
ここには、それが無い。
と、向こうからふらふらとやってくるアニキが、目に留まった。
「……!アニキ、お前大丈夫だったのか?」
「……」
返事が無い。
「……おい?聞いてるのか?」
そう俺が言った時だった。
「エテルノさん危ないです!」
「は?」
フィリミルに突き飛ばされた俺を掠めるように、先ほどまで俺の頭があった場所に大穴が開いた。
綺麗なその断面は、間違いなく『収納』の跡だ。
「お、おいおい、嘘だろ……?」
無言の殺意を向けてくるアニキを見て、思わず悪態が口をついた。




