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ノック代わりの大魔法

「っしゃ、あいつらどこ行った……?」


 久々に降り立った町で、すぐに俺はあいつらの居場所を探し始めた。

 この町を見たのは実は久しぶりなのだが……感慨に浸っている暇はない。

 今はそうだな……まずは、ミニモを探すのが先決だろう。


「おい、あいつらの居場所分かるか?」


 ミニモを探すのにあたって、まずはスライムに聞いてみる。

 こいつには近くに居る分裂体と更新する能力がある。以前、皆に渡したスライムの分裂体の位置を探せば皆の位置が分かるという訳だ。


 ふにゃん、と揺れてスライムは矢印の形に変形する。


「……お前、なんかスライムからかけ離れてきたな」


 矢印の向きは右。

 なるほど、このまま右に行けという訳だな。

 分裂体の中でも最短距離にいる奴しか示していないのが残念ではあるが……まぁこの先にミニモがいなかったとしても、フリオやグリスティアに合流できれば何とかなるだろうしな。


「よし、向かうか」


 休憩している暇はない。

 スライムを浮遊魔法で浮かばせ、矢印の方向へ俺は走り出した。


***


「……近いな」


 それから数分ほど経った頃だ。

 空にふわふわと浮かんでいるスライムの矢印が変形し、『!』のマークになった。

 どういう意味なんだそれは。


 ……まぁ、この辺だ、と言うことなのだろうが……


「エテルノさん!なんでここにいるんすか?!」

「お」


 聞き覚えのある声が空から投げかけられる。

 スライムとは少し違うところ。背後の空を見上げると--


「ドーラ。久しぶりだな」


 マンドラゴラの若葉が日光を透かして、綺麗な緑色になっていた。

 ドーラ。マンドラゴラに乗り移った元ダンジョンマスター。

 何が謎って、よく分からないカラスに食われかけてるところだな。


「何やってんだよそれ」

「そんなこと気にしてる場合じゃないんすよ!」

「食われかけてるのに?」


 それよりも優先することってなんだよ。


 と、スライムが一瞬で液状に代わってカラスごとドーラを呑み込んだ。


「っす?!」

「あっ」


 気が逸れたせいでスライムの操作をミスった。

 スライムの半透明の体の中でドーラとカラスがもがいているのが見えた。


「ほら、ぺっしなさい。そんなもん食ったらいくらスライムだからって腹壊すぞ」

「もがもがもが……っす」


 何やらドーラがツッコミを入れているようだが、何を言っているのか分からないな。

 すぐにスライムに吐き出させると、カラスは力なく地面へと落ちてきた。


「カイザァー!なんてことをするんすかこのスラ……え、これホントにスライムっすか……?」

「カイザー……?」

「私の相棒っすよ……!」


 あぁ。このカラスのことな。食われていたわけじゃ無かったと。

 カラスを持ち上げ、少し確認して言ってやる。


「この分ならちょっとした酸欠だろう。放置しておけば復活する。それで要件は何だ?」

「この外道……じゃなくて、そうっすよ!今大変なんす!助けてくださいっす……!」

「今外道って言った?」


 ドーラが手を振りながら、慌てたようにまくしたてる。


「えっとっすね、ディアンが脱走してアニキさんの店が乗っ取られてアニキが閉じ込められてリリスちゃんが怒髪天!って感じで……!」

「待て待て待て。情報量が多い」


 というか……なんて?ディアンが?アニキが?

 思っていたよりも、大変な状況になっていそうだ。

 すぐに切り替え、真剣にドーラの話を聞くのだった。 


***


「リリス、どうだ?」

「ごめん、ちょっときっつい……!ドーラが早くフリオさんを呼んでくるのを待った方が良いかも……!」

「でもそういう訳にもいかないのが困るよね……!」


 アニキさんが急に閉じ込められてから数十分。

 聞こえていた戦闘の音が途絶えてからもう五分ほど経つ。

 これは、まずい。そんなことは僕にもリリスにも分かることだった。


「フィリミル、もう一回二人で魔法を使ってみましょう!」

「それしか、無いよね……」


 僕のスキルはあくまで『未来予知』という力の無い物だ。

 こういう時に僕の力不足を痛感させられる。

 しかも、いざと言う時にドーラとリリスを守るだけで両手がいっぱいだった。

 そのせいで、アニキさんが中に閉じ込められた。

 僕は、何の役にも立てていない。


 せめてリリスが魔獣を使えたら良かったのだけれど、あいにく全てがアニキさんの『収納空間』の中だ。

 アニキさんの所有物にしておいたせいで召喚魔法も使えない。

 つまるところ、僕たちは締め出されまま扉を開ける手段が無かったのだ。


 そのまま放置するつもりも無いけれど。絶望的な状況だと言えた。


「っぐ……!もう一度……!」


 リリスと同時に魔法を放っても、扉はびくともしない。

 やはり僕達では、フリオさんやグリスティアさんを待つしかないのだろう。

 ドーラが呼びに行っているはずだ。

 カラスの翼では、時間がかかってしまうだろうが。


 絶望的な状況に、空を仰いだ時だった。


「っすァァあああ?!」

「えっ」


 ドーラが真っ逆さまに落ちてくるのを見て、思わず飛びのいてしまった。


 その、後ろには。


「フィリミル、リリス、事情は聴いた。ちょっと離れてろ……!」

「え、エテルノさん……?!」


 常に不機嫌そうな目、ものすごくあくどい笑顔。

 少し不器用だけど、凄く優しい人。


「ちょ、あ、フィリミル、マジでどいてくれ危ないから……!」

「えっ、あ」


 直後、僕のスキルが危機を知らせる。

 エテルノさんから凄まじい威力の魔法が放たれるのを察した僕はすぐにドーラとリリスを抱えるようにして全力回避をかますのだった。

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