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露呈した計画

「……やはりミニモは寝ているか」


 ミニモのテントに入り、辺りを見渡す。ミニモは布団に入って寝息を立てていた。


 内装は中々清潔に保っているようだが……ミニモに盗られていた俺のハンカチと思しき物が額縁に入っている。どういうことだ気持ち悪い。

 ここで取り返す気は無い。

 その代わりに俺のハンカチには催涙スプレーを振りかけていき、一枚、二枚……と来て見覚えのないハンカチに気づく。

 ……額縁も、このハンカチは一段と立派なものに入っているな。

 俺に覚えがないということは……


「む……あいつ、フリオからも取ってたのか?」

「ん……」


 ミニモが寝返りを打つ。このままだと起きてしまうかもしれないし、しょうがない。

 さっさとこいつにマンドラゴラを仕掛けて出るか。

 マンドラゴラの鉢を取り出し、ミニモのベッドに括り付ける。

 固定に関しては問題無いだろう。


 確認を済ませ、マンドラゴラの茎にしっかりとロープを結び付けてテントの外へ出ると――


「あ、え、エテルノさん?」

「……リリス?」


 テントを出た瞬間、ゴブリン達を引き連れているリリスと目が合った。

 

 なんでリリスがこんなところにいるんだ?この時間に起きてきているはずが……。

 いや、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも俺がミニモのテントに細工をしたことがバレてしまう方が非常にまずい。

 テントに忍び込んだことで好感度が下がった結果として追放されるのなら都合がいいのだが、それはリスクが大きいし俺にとって都合が良すぎる展開だ。

 なんとか、ここはなんとかしてごまかさなければ……!


 とりあえず、緊張を出来るだけ感じさせないように俺はリリスに話しかけた。


「あー、な、なんでこんな時間にこんなところにいるんだ?」

「ちょっと寝つきが悪くて……あの、お、お邪魔しました……」


 そっと俺から離れて離れて行こうとするリリス。

 まずい。誰かに告げ口でもされることになるのは何としてでも避けなければならない。


「ちょ、ちょっと待て。誤解だ。俺は何も……!」

「だ、誰にも言わないので許してくださいっ!」

「待てと……!」


 リリスの行く先に先回りして道を塞ぐ。どうするべきか。とにかくまずは口封じ、もしくはうまく誤魔化すしかないのだが誤魔化し方が考え付かない。口封じとなると……


「あー……本当に言わないでいてくれるか?」

「で、ですよ!私、凄く口が堅いので!」

「……すまないが、信用できない。契約魔法を使って約束してもらうことは可能か?」

「契約魔法……?」


 契約魔法とはその名の通り、他者と約定を結ぶときに使われる魔法だ。

 これを使って約束してもらえるのであれば今回のことは誰にも言うことはできないし、安心もできる。


「そこまでしなくてもいいと思うんですけどね……」

「俺が悪いのは分かっている。が、口封じはしっかりとさせてもらう。俺も必死なのでな……」

「あー、普段からいろいろやってましたもんね」

「なっ……?!」


 リリスに俺の計画がばれていた?いや、そんな馬鹿な。俺とて相当に注意して実行していたはずだ。

 だが、その可能性があるのなら――やるしか、ないか。


「契約するか、しないかだ。契約しないというのであれば悪いが……」


 そう言って俺が杖を構えると、リリスはワタワタと焦った様子を見せた。


「しますよ?!そこまで言われたらさすがの私でもしますって!」

「良かった。……それと、本当にすまないな」


 本来俺の計画のために他者を巻き込むのは間違ったことだ。

 しかもリリスに脅迫じみたことまでしなくてはならないとは……これは俺の失態だな。今度リリスには何かお礼の品を用意しよう。


 そんなわけで契約魔法は滞りなく進み、リリスは俺の計画についてのこと、今日見たことについて一切喋ることができなくなった。

 リリスは遠慮がちにゴブリンを引き連れて去り、俺一人が残された。


「……ここまでやったんだ。計画は実行しなくてはな」


 俺はそっとマンドラゴラに括り付けた紐を引っ張り、マンドラゴラを引き抜いた。消音魔法を使っているため俺のいる位置からは聞こえないが、ミニモのテントの中では今、大絶叫が起こっていることだろう。


「よし、次だ。次は見つからないようにしなくてはな……」


 というかよく考えてみれば、テントを出るときに透明化魔法をかけておけばよかったのだ。くそ、初歩的なミスを……。


***


「エテルノさん凄かったね……」

「ギ!」


 ゴブリンさんは肯定してくれている様子。うーん、この子は人間の言葉で喋れないようですね。喋れる子と喋れない子がいるのはなんでなんでしょうか?

 まあ私に関してはスキルで意思疎通ができるので、ゴブリンさんが人間の言葉を使えなくても気にはならないんですけど。


「エテルノさん、凄く必死だったな……」


 エテルノさんは、ミニモさんやフリオさん、グリスティアさんの仲間の中でも一番怖い人。

 ついさっき私は、そんなエテルノさんがミニモさんのテントから出てくるのを目撃してしまったのでした。


「ミニモさんのテントから出てきたってことは……そういうことですよね……」


 エテルノさんはミニモさんのこと嫌いそうだったのに、案外そうでもないんでしょうか。だとしたら普段のあれは痴話喧嘩……?

 しかも他の人にバレないように、契約魔法まで使うなんて。ばれたらいけないことでもあるんでしょうか?


「……でも、ミニモさんとエテルノさんが幸せになってくれると良いな」

「ギィ?」

「えぇー、そんなことないよぉ」


 さ、テントに帰りましょうか!私はゴブリンさんと雑談しながらまっすぐにテントに帰っていくのでした。


***


「なんだ?何故か悪寒が……」


 フリオのテント前。俺の計画だが、少々問題が発生していた。

 ミニモのテントの後にグリスティアのテントに向かったのだが、中にはグリスティアの姿が無かったのだ。

 ……グリスティアは最近いろいろあったからな。今どこにいるかは知らないがあいつにマンドラゴラを仕掛けるのはやめておこう。そんな風に考えて俺はグリスティアのテントを後にした。


「最後はフリオなんだが……」


 今のところ計画にミスが生じまくっているからな。なんとかここで巻き返さなくては……。

 俺はフリオのテントを開き――


「えぇ……?」


 中の光景に思わず、困惑の声が漏れだした。

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