遠のく光明
「あー、簡単に言うとだな……なんかよ、禁術を使ってる奴らが、うろついてるっぽいんだよな……」
「……どういうことだ?」
マスクが男を尋問して得た情報を共有してもらおうとしていた俺は、既に何やら面倒なことに巻き込まれそうな予感を察知していた。
そもそも最近はやたらと禁術関係のことに巻き込まれ続けていたのだからさもありなん、と言ったところかもしれないが。
「あー、えっと……悪い組織がなんやかんやしてて、そいつらが禁術の……なんつーか……悪い奴らなんだよ……」
「お前とオーウェンも悪い組織だろうが」
「いや俺らよりもっと悪いんだって。むしろこう、禁術ウェルカム派の奴らもいるってオーウェンから聞いてたんだけどよ、鉢合わせたっつぅか……」
「あー……」
マスクはお世辞にも知恵が働くとは言えないのを忘れていたな。尋問は俺がやるべきだった。
しかし、マスクの言葉の断片と金庫の中身……入っていた、書類云々から推測するに、だ。
「お前らとは正反対に、禁術を広めようとしてる奴らも暗躍してる、ってことか?」
「そう!それが言いたかった!兄ちゃん頭良いな!」
「逆になんでこんなことをまとめられなかったんだ」
まぁそれは置いておくとしても、だ。
禁術を取り締まるのがマスク、オーウェンたちだとすると広めようとする人間が居るのも当然の話ではあったか。
むしろそういう人間もいると考えた方が辻褄が合うことが多い。
そもそもミニモがどこから蘇生魔法を学んだのかとかも謎のままだったからな。
「で、その悪い奴らがあのー、ここの町長の人となんかやってたっぽくてよ。それのなんやかんやをアレしたのがその紙のやつな」
「指示語が多すぎて訳分からないな」
言いたいことは分からないでもないが。
元々あの男は、かつて俺が行った『復讐』に巻き込まれて失墜した人間だ。
そんな奴がなぜ再び町長の座についているのか、なんていう風に考えていたのにも説明がつくな。
分かり切った話だが、奴も禁術に手を出していたのだろう。その力で、再び町長の座についた。
そして奴が禁術に手を出していたとなると、だ。
「一応聞いておきたいんだがあの男も始末するのか?」
「ん、なんでだ?」
「いや、あいつも禁術に手を出してたんならお前ら敵には見過ごせないんじゃないかと」
「まぁあの程度なら大丈夫じゃね?禁術のことを知ったって言っても使い方は知らねぇみたいだかんな。禁術ってのがあることを知っておくのは悪いことじゃねぇよ」
「……そうか?」
「おう。ガキでも火遊びしたら危ねぇってことは知っておくべきだろ?実際に火遊びしたらそりゃあアウトだけどよ、何も知らずに火遊びされるくらいなら先に知っといてほしいんだよな。禁術もそれと一緒だな!」
マスクの言い方が少しわかりにくいが……まぁとにかく、すぐにあの男を始末するような予定は無いらしい。
「それで?問題はその、禁術を広めて回ってる奴らが今どこに居るのかってことだろ?何か分かったのか?」
「あー、まぁな。なんつぅか複雑な感じなんだけどよ、そのだな……」
「なんだ?もったいぶってないで早く言え。時間が無いんだからな」
マスクの複雑そうな表情を無視して俺は先を促す。
当然だ。今すぐに事が済むならその方が良いんだからな。なんなら今すぐオーウェンを呼びに戻って、オーウェンと共にこの町のどこかにいるであろう奴らを捕らえれば良いんじゃないだろうか?
「そ……その、だな。なんかさっきの男は町長にならせてもらう代わりになんか取引?してたって言ってたんだけどよ」
「そのぐらいは推測できるだろう。早く先を言え」
「あー……えぇと……なんか、ミニモを仲間に引き入れるために、ミニモの情報を探ってたって……」
「……は?」
***
「っす~……この暑さは干からびるっすよぉ……」
「うるっせぇな……俺もくそ熱いんだから我慢しろよ……」
「そもそもなんでお店の中にこんなでっかい砂浜が広がってるんすかぁ~?」
「知らねぇっつの……」
店に入ってから、約五分ほど。俺達は未だに先の見えない砂浜をさまよっていた。
じりじりと照りつける太陽が砂浜に反射し、上からの日光と下からの反射光でこんがり焼けてしまいそうだ。
ドーラに至っては既に葉がしんなりとしてきており、いざとなったら俺のスキルで退避して休憩すればいいとはいえかなり精神的にきつい状況だ。
リリスもフィリミルも、口には出さないがその顔には困惑と疲労の色が現れ始めていた。
「ちょ……これそもそも何なんすかねぇ。店の中に海を持ってくるなんて、どういう次元の空間魔法っすか……」
「だぁから俺に聞いてんじゃねぇよ……あぁくそ暑ぃな……」
汗を拭くの端で拭って、再び辺りを見渡す。
砂浜はほぼ直線。この先が見えないことはあり得ないのだが……どこまでも砂浜が広がっているように見える。
照りつける日も砂を踏みしめる感触も、全てが体力を奪っていく。
しかも終わりが見えないのだからなおさらだ。
「……そろそろ引き返すか……?」
少なくともこの商店が異常なのは分かった。それさえ分かっていれば一度フリオ達と合流してもう一度こっちに来れば良いだろうさ。
「いやぁ、弱ったな……。アニキさん、とりあえず危険もなさそうですけど、手がかりもなさそうじゃないですか?」
「だなぁ。……うし、やっぱ帰るか!」
これ以上ここに居るのは効率的じゃない。そう判断して引き返し始めた俺達が目にしたのは、
……いや、目にしなかったのは、の方が適切か。
何しろ、俺達が入ってきたはずの『商店の入り口』が見つからなかったのだから。




