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南国商店ボレン・ルルガス

「えぇと……そんな感じで、イギルさんが今行方不明なんですけど……」

「あの馬鹿は何をやってるんですかねぇ……フリオさんにはご迷惑をおかけしましたようで……」

「あ、いえそれは全然……」


 ギルドに到着して話を済ませた僕は、予想とは全然違う対応に少し面食らうことになっていた。

 というのも……


「とりあえずギルマスは死んでいないはずですから、そのうち自力で帰ってくるでしょう。あのクソ猫はしぶといのだけが売りですからね。それで先ほどから変な顔をなさっているようですがどうしました?」

「いやその……受付さんがそんな感じだとは思わなかったので……」

「あぁ……大丈夫ですよ。私は単純にあの猫にイライラさせられていただけなので、フリオさんや他の冒険者の方には何も問題は無いですし」

「あっ、はい……」


 有無を言わせない強い口調の彼女に思わず圧倒される。

 ここまで怒らせるって、いったいイギルは何をしてたのやら……


「あの人はすぐ思い付きで行動して!気づいたときにはギルドの中に居ないし、たまに帰って来たと思ったら訳の分からないガラクタ抱えてるし!頼れるのは副ギルマスのディアンさんだけだと思ってたらあの騒ぎですよ?!このギルドどうかしてるんじゃないですかね?!」

「し、心中お察しします」


 そっか。ディアンも色々と面倒なことになってたんだもんね。

 この受付さんも苦労していたらしい。


「まぁあの猫ならしぶとく生き残ってると思うのでそのうち帰ってくるでしょう。それまでなんとかギルドを守り抜かないと……」


 ため息をついてまた机と向かい合う受付嬢さん……いや、今は受付には居ないから、何嬢さんなんだろうか?

 そういえばこの人の名前もまだ聞いていないんだった。


「あー……ところでなんですけど、ディアンの方はどんな対応を……」

「そのことならもう対応しましたよ」

「え?」

「いえ、もう既に指示はしておいたので、何も問題は無いかと」


 見ると、受付嬢さんの手元には水晶玉が置いてあった。

 あぁ、そういえばエテルノもこんなものを持っていたっけか。

 これで連絡は既に済ませていてくれたらしい。


「フリオさん、わざわざありがとうございました。お仲間を待たせていらっしゃるでしょうから、もう大丈夫ですよ。何か分かり次第こちらからご連絡します」

「あぁ、いえいえ、こちらこそですよ……」


 そう、流石に大勢で押しかけるのも良くないだろうと思ったので外にミニモやグリスティアを待たせているのだ。

 シェピアとミニモが仲良くしているだろうとは思うので待たせる分には問題ないのだけれど……皆で中に入ると何をしでかすか分からないのが二名ほどいたからね。

 流石に僕一人で報告に来たのだ。


「あぁ……それと」


 お辞儀をして部屋を出て行こうとしていた僕を、書類から目を離さないままでいる受付嬢さんが呼び止める。


「あの大馬鹿野郎を見つけたら、私が探してたとお伝えください」

「っす……はい……」


 むしろこれ、イギルを遠くに逃がしてあげた方が良いんじゃないだろうか。

 そんな風にすら感じさせる凶悪な愛想笑いを向けられて、僕は思わず鳥肌を立てるのだった。


 いやぁ、今頃アニキ達はどんな感じになってるかな?


***


「……よし、大丈夫そうか?」


 そう言って俺は皆に声をかける。

 別に入るのに躊躇しているわけでは無いのだが、事前に皆の気を引き締めておく必要があるのではないかと思ったのだ。


 目の前に広がる巨大な趣味の悪い建物は、この町でも有数の商人であるボレン商会の物だ。

 ボレン・ルルガス。それが俺の店を奪った奴の名前なのだ。

 数ある商人の一族の中でも特に性根が腐っているということで知られており、俺がギルドマスターをやっていたときも苦心させられた。

 その頃は俺もあくどい商売に手を出していたが、こことだけは関わらないようにしていたのだ。

 理由は単純明快。


「よしお前ら、限界まで暴力には訴えるな。俺らと関わるのが面倒だと思わせられれば、それで店は取り返せるからな」


 この商会はかなり手広く店を構えているため、一度目を付けられれば一生の付き合いになると考えた方が良い。

 顧客としても、敵としても。

 以前の俺が関りを避けてきたのにはそう言う理由がある。


 ……もちろん今はそんな気はさらさら無いのだが。

 こうなってしまったら、向こうからこちらと関わるのを避けさせるのが一番良い方法だろう。

 俺と関わると面倒なことになると考えさせれば良い。

 下手に手を出すともっと目を付けられるからな。この商会のブラックリストに載ってやるつもりで頑張ろうでは無いか。


「フィリミル、お前はそうだな……怪我をしかねない攻撃だけを、見極めてくれ。脅し程度には反応しなくて良い。出来るか?」

「ま、慣れてきましたしね。できますとも」

「よし。でリリスは……出番は無い方が良いが、俺が収納してある魔獣を操ることになるかもしれないからな。そうなるまでは俺達から離れず待機」


 リリスに関してはマジで、魔獣を操るスキルとか使いどころ誤ったら大惨事だからな。

 制御が利くとは言え、そう簡単に町の中に魔獣を解き放つわけにはいかない。


「で、ドーラ……」

「はいっす!なんでも任せてくださいっすよ!」


 うきうきした様子でカラスに咥えられて飛び回るドーラ。

 このカラスなんて言うんだっけ?カイザーとか言ったか?


「あー……そうだな、ドーラは……」

「なんっすか?」

「……あー……自由にしててくれ」

「あんまりじゃないっすかねそれは?!」


 だってほら、マンドラゴラとか扱えって言われてもどうしようもないし。

 必要になる場合が思いつかねぇんだよなぁ。


「その、あれだ。ドーラは秘密兵器ってやつだからな。下手な指示するより自由にしてもらってた方が良いだろ」

「……なるほど。それもそうっすね!分かってるじゃないっすか!」

「おう……」


 とりあえずドーラが上機嫌になったので安心して、再び商会の入り口に視線を戻す。

 改めてみると妙な門構えをしている。

 こういう商会は基本的に一階部分が店になっているものだが……それも無いようだ。

 入り口から既にうさんくさい感じだな。

 守衛が居ない、というのがこれまた妙なところだろうか。

 あいつなら守衛ぐらい置いててもおかしくなさそうなものだが。


「……よし、行くぞ!」


 そうして店の扉を勢いよく開いた俺を出迎えたのは、南国のそれとも思しき広大な空間であった。

 なんなら店の外観とは全然そぐわない、大きなヤシの木さえそびえ立っている有り様。

 店の中とは思えないほど広大な空間が広がっており、さざ波の立つ真っ白な砂浜がどこまでも広がっている、ように見える。


「……はぁ……?」


 予想だにしなかった光景に、流石の俺も困り果てるしかないのだった。

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