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禁庫を閉じれど

「よぉし、そんじゃ始めるか」


 伸びをしてそんなことを言ってみる。

 言うまでも無く相手を怖がらせるためなのだが……


「なんでお前らまで怖がってるんだよ」

「いや……だって……」

「兄ちゃんやばすぎんぞ……?」


 何故だかマスクとテミルが疑念の目でこちらを見ていた。

 団長の奴に至ってはもう目を合わせようとすらしない。


「あのな……お前らはこいつに捕まりかけてたんだぞ?」

「捕まったよな」

「……それはまぁ置いといてだ。やられたらその分は相手に報いを受けさせる気でいないとこの先やっていけないんじゃないか?」

「いや言いたいことは分かるんだけどよ……」


 アニキが気の毒そうに見ているのは椅子に縛り付けられて泣きそうな目をしている町長。

 普通に拘束魔法を使って逃げられないようにしているだけなのだが、どうもこいつらはお人好しなところがあるようだな。

 テミル以外に何人かいる劇団のメンバーも誰一人としてこの町長に敵意を燃やしているような人間は存在しない。


「ぐっ……何をうだうだやっているエテリノ!腹はもう括った!やるんならさっさとやれ!」

「エテルノだって言ってんだろ」


 いや別に危害を加えようと思ってこんなことをしているわけでは無いのだが?

 俺とて穏便に済むならその方が良い。

 別にその、拷問とかそういうことをしようと思っているわけでは……


「あー……いや、そんなに大したことを聞きたいわけでは無いんだけどな。とりあえずどうやってこの地位に戻って来たのか知っておきたいんだ」

「……教えてやる気は無いからな。聞いても無駄だ!」

「なんだ、口留めされてるのか」

「えっ」

「なるほど図星だな」


 なんとなく予想はつくものだろう。

 以前こいつは汚職が発覚して信用を地に落としたというのに、誰の協力も無くこの地位まで這い上がってこられるはずがない。

 そんなわけでカマをかけてみたのだが、やはり、と言ったところだろうか。


「それで?誰に協力してもらったんだ?」

「ひ、卑怯だぞ!私は何も……!」

「まぁ答えないなら答えないで良いんだけどな」


 とりあえずここはこいつの部屋なのだから、探せば何かしら見つかるだろう。

 そうだな、ありがちなのは金庫とかだろうか?


「おいお前、金庫ってどこにあるんだ?」

「はっ?!き、金庫なんてわ、私は持っていないが……?」

「目線が泳いでるんだよなぁ……」


 男の目線の先を辿ると、これ見よがしに壁にかかる男の肖像画があったため魔法で燃やしておく。


「んなぁっ?!」

「おぉ、あったあった」


 壁に掛かっていた絵の燃えカスをどかすと、その裏にあった金庫の扉が現れた。

 まぁあるとは思ったんだよな。しかもこいつは相当に駆け引きがへたくそだ。

 場合によってはマスクにも匹敵するレベルで頭が悪いのではないだろうか?


「さて……」


 この金庫を開けなくてはならないのだが、どうしたものか。

 強引にこじ開けるか?


「おい、この金庫の開け方を教えてくれたりとかしないよな?」

「……す、するわけ無いだろう」

「あっそ」


 男の方に俺のスライムの分裂したやつを放り投げておく。

 すぐに悲鳴が上がったが、気にせず金庫に視線を戻した。


「……うーむ……」


 下手な魔法を使うと中身まで一緒に駄目にしてしまう可能性があるからな。

 やるとしたら、なんだ?炎を使うのはまぁ間違いなく避けた方が良いだろう。水……もまぁ避けるか。


「あ、俺それ開けてやろうか?」


 そんな風に悩んでいた俺に声が掛かる。

 声をかけてきたのはマスク。その手にはなにやら、土が握られていた。


「……開けられるのか?」

「おう。多分な」


 俺が退いてやると、マスクが金庫の鍵穴に土を流し込む。そのまま鍵穴に手を当て--


 カチリ、と音がしたかと思うと簡単に金庫の扉が開いた。


「凄いな。どういう仕組みなんだ今のは」

「いやぁ、普通に金庫の中で土を動かして鍵代わりにしただけなんだけどよ、まぁ役に立ったんなら何よりだぜ」


 鍵穴の中で土を動かすと言ったって、そう簡単に言えるものではないはずだ。

 とんでもなく細かい操作を出来なければそんなことは不可能だ。

 ……こういうところを見せつけられると、こいつもそこそこ脅威になりかねない障害の一つだということを認識させられるな。

 ミニモとマスクが戦う前に、マスクを無力化できるような策を考えておかなければならない。


「さて、と……」


 金庫の中に入っていたのは何枚かの茶封筒と、山と積まれた金。

 茶封筒に入っていた紙を引っ張り出して真っ先に目に飛びこんできたのが--


「『禁術』……?」

「……兄ちゃん、それこっちにも貸してくれるか?」

「おう。ここのとこだな」


 紙にはなにやら、禁術がどうとか記されていたようだ。

 魔法の使い方だなんてものではなさそうだったが、マスクのこの食いつきようを見るに相当重要な手がかりだったらしいな。

 男は椅子に縛り付けられたままおびえ切っており、劇団の面々は遠巻きながらも心配そうにこちらを見ていた。


 マスクは、ため息をつくと言う。


「悪ぃ兄ちゃん、ちょっと事情が変わったわ。そっちの男、少しばかり尋問させてもらう」

「……そうか。じゃああいつらは外に連れて行った方が良いか?」

「あー……そだな、頼んでも良いか?」

「あぁ。まぁ手早く済ませて出て来いよ」

「うぃーす」


 マスクに言った通り、劇団の面々を引き連れて外に出る。

 先ほどのマスクの目だが、今までとは一変した表情をしていたからな。

 どんな尋問をするのやら分からない状況で劇団の面々も残しておくというのは良くないだろう。


 あぁ、しかしここまで来ても禁術がらみとは。

 

 とりあえずドア越しにも漏れ聞こえてくる男のくぐもった悲鳴が聞こえない場所まで、俺は劇団の面々を先導するのだった。

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