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黒い翼で

「それでこの後はどうするんだったかしら?」

「基本フリオが計画立ててんじゃねぇの?まぁこれだけ人数がいるんなら分担することにはなるんだろうが……」

「あー、どうしようか」


 とりあえず聞き込みをするための人数は確保したからあとは分担だけなんだけど……

 どう分けたものかなぁ


「あー、シェピアはアニキと一緒の方が良いよね?」

「はっ?!そ、そんな訳ないでしょ?!私は一人で全然平気よ!」

「流石に一人は止めて欲しいけどね」


 んんん……。

 僕とグリス、アニキとシェピア、リリスとフィリミル。

 六人でやるのであれば二人組で東西……あと一ペア欲しいかな……?


「もしかして私の事数えてないっすね?」


 そんなことを言っているのはドーラだ。

 いや……流石にドーラを数に数えるのはどうかなって……


「私がただの植物だと思ってるんなら間違いっすよ!今はこんなんでも元はダンジョンマ……」

「ダンジョン?」

「っす……だ、ダンジョンマンドラゴラっすよ!そこらの養殖どもと比べられるのは心外っす!」


 ダンジョン産とか養殖とか、あんまり関係ないと思うけど……

 ドーラはそんなことを言うと窓によじ登って懸命に窓を開けようとし始めた。

 全然開きそうには無いけど。

 窓の近くにいたグリスが開けてあげると、ドーラは一瞬で窓の外に飛び降りた。


「なっ……?!」


 脱走?いや、ドーラが一人で外に出るのは相当危険なはずだ。

 エテルノのスライムと違ってドーラは相当に弱い。

 なんなら--


「ふーっはっはっはっはっはー!そっちに向かうっすよカイザー!」


 バサリ、と窓の外を影が横切る。

 墨を塗りこんだかのような黒い翼と、こちらを見つめるこれまた吸い込まれそうなほど黒い目。

 嘴にドーラを咥えて影は窓の枠にとまった。

 丁度首の部分を咥えられているドーラは焦った様子も無く、言う。


「カイザーがいれば私も何だって出来るっすよ!」

「……この鳥?」

「カイザーっす」

「あぁ、うん……」


 僕からはノーコメント。

 だってほら、なんかリリスが文句言いたげだったし。


「--ドーラ?」

「っす?」

「なんでそんなにその……カイザー?が懐いてるのか教えてくれる?」

「餌付けしたからっすね」

「へー……そう。私に内緒で、食糧持ちだしてたんだ?」

「っす……そ、い、いや、やだなぁ……そんな訳ないじゃないっすか……」


 フィリミルの方を見てみると、若干諦めたような顔で顛末を見守っていた。

 なるほど、さてはこれ結構よくあるやり取りなんだね?


「ちなみに何をあげてたの?」

「……っす……」

「大丈夫だよ。別に怒ってないから、言ってみて?」


 リリスとドーラのやり取りを部屋の中に居る皆が黙って見守る。

 アニキは何と言うか……同情したような顔を向けているね。もしかしたら自分の境遇と何か重なるところがあったのかもしれない。

 ドーラはすっかり委縮しており、その状態で鳥に咥えられているものだからもうただの捕まった獲物程度にしか見えない。


「ひ、ひき肉をあげてたっすよ……飢えて窓のところに居たからちょっと気になってあげてみたら案外懐いたっす……」

「……うーん……まぁそういうことだったら……」


 渋々リリスが引き下がり、ドーラが少しだけ安心したような表情を見せる。

 よほど怖かったか、過去によほど怒られたんだろうな。多分だけど。


「あ、そういえばアニキさん、まだゴブリンのお肉ってもらえたりしますか?」

「えっ、あ、お、おう!ゴブリンの肉だったらいくらでもやるよ!」

「あぁいや、一個で大丈夫です」


 アニキが収納していたゴブリンの肉を一掴み、リリスは持ち上げ--


 --窓の外に、放り投げた。


「カイザー!取ってこい!」


 その瞬間カイザーは羽ばたき、窓の外へ飛び立っていく。

 もちろん咥えられているためドーラも一緒だ。

 

 当然のごとくカイザーは放り投げられた肉をキャッチするために嘴を開き、ドーラは地上に真っ逆さま。

 その様子を見届けて、リリスが笑顔で一言。


「うーん、すっきりした!」


***


「ひ、酷い目にあったっすよ……」

「お疲れ様ー」

「自業自得みたいなところあったわよね」


 しばらくしてどうにか戻って来たドーラが、そんなことをぼやいていた。

 アニキが『お互いに頑張ろうな……』などと言ってシェピアに睨みつけられる。

 うーん、和むなぁ……。本当なら和んでる場合じゃないんだけどなぁ……。


「あ、そういえばさっきミニモさん見かけたっすよ」

「えっ?!ほ、本当かい?!どこにいたんだい?!」

「一瞬だったので何とも分からないっすけど……そうっすねぇ……カイザー、おいでおいでーっす」


 ガッ、と音のしそうな勢いでカイザーと名付けられた野良の鳥がドーラを咥えて飛び去って行く。

 

「今から私呼んでくるっすから!少し待っとけっすよ!」

「え、あぁ、うん……」 


 使いこなしてる。

 使いこなしてると言うか、うーん……乗りこなしてる……?


「さぁカイザー、行くっすよ!私の相棒として、ここで風になって見せろっす!」


 ガァ、とドーラに答えるようにカイザーが鳴き声を上げ、ドーラが地面に真っ逆さまに落ちていったのはその直後の事であった。

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