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目覚まし時計マンドラゴラ

「よし、これでトレントは全部倒し終わったかな?」


 森を進めない原因がトレントと呼ばれる魔獣だと判明してから二日、俺たちは森の伐採を進めていた。

 あれほど雄大だった自然が今となっては切り株と倒れた木々の広場に早変わりだ。冒険者達の努力にはいつも驚かされる。


 一息ついていた俺の元にフリオがやって来て、飲み水を差し出してきた。


「いやー、しかし疲れたね。エテルノもお疲れ様!」

「あぁ。俺たちが通る通路の分だけとは言え片端から切り倒さないといけなかったからな」

 

 フリオから水を受け取って一息に飲み干す。乾いた喉を流れる水の感触が心地よかった。


 ……まぁ、今夏鵜野伐採は下手に中途半端に伐採してもトレントの被害は消えない可能性があったからな。中々大変な作業だった。


「じゃあ今日は探索終わりってことで、明日まで休憩しようか」

「休憩ですか?!やったー!」

「ち、近寄らないで貰えるかい?」

「あ、すいません……」

「いや、ミニモは悪くないんだ……。助けてもらった立場なのにすまないね……」


 フリオは若干ミニモの事を怖がるようになっていた。まぁ体を抉られたらそうなるだろう。

 だがこの調子だと俺より先にミニモが追放されることになるんじゃないか?そこだけが心配である。


「そういえばフリオ、今日は注意不足が目立ったぞ。気づいたからよかったものの、切り倒される木の下敷きになったらどうするつもりだ」

「あー、実は最近、ちょっと眠れなくてね……。今日はしっかり休むから、明日からは多分大丈夫だよ」


 眠れない?ミニモのアレがトラウマになっているから、ということだろうか?


「どうも最近寝つきが悪いんだよね。ちょっとイライラしちゃうというか、ボーッとしちゃうというか、気をつけなきゃなとは思うんだけど……」

「……睡眠不足はイライラするものなのか?」

「するね。やっぱり睡眠時間っていうのは健康に直結してると思うよ」


 うーむ、それを利用するのは気が引けるが……俺は追放される為に手段を選ばないことにしているからな。

 よし、睡眠の妨害を主にした作戦を考えてみるか。俺は作戦を練り始めたのだった。


***


「兄ちゃん、頼まれたブツだ。取り扱いには十分に気をつけてくれよ?」

「あぁ。分かっている」


 ダンジョン内の街にあった薬屋で鉢植えを受け取る。 この植物は、元は人間を殺しかねない危険性を持った魔獣の一種だった。

 だが栽培されるうちに危険性が減り、大きな害は及ぼさなくなった、そんな薬用植物だ。

 その名もマンドラゴラ。引き抜いた瞬間絶叫する、人型植物である。


「とはいえこのまま使うのはまずい。キャンプ地にいる全員を起こしてしまうのは俺とて申し訳ないからな」


 俺も一度、マンドラゴラをうっかり引き抜いてしまったことがある。栽培されていたものだったので命に大事は無かったのだが、その後一週間は叫び声が耳にこびりついたように離れなかった。

 さすがにその症状をキャンプ地の全員に押し付けるのは気が引けるというか、俺とて鬼では無いのである。


「さて、どうするかな……」


 ターゲットはミニモ、グリスティア、フリオの三人だ。そのためマンドラゴラも三本買っておいたのだが、正直寝ている人間の耳元で引き抜けばいい程度にしか思っていなかった。


「キャンプ地には絶叫が広がらないように消音魔法を使ってみるか。俺の耳については……耳栓を使うしかないが……」


 高性能な耳栓を揃えておく必要があるな。俺は耳栓を探して街を歩き回るのだった。


***


「なんとか揃ったぞ…!」


 マンドラゴラ三本、岩塊羊の毛(耳栓用)、消音魔法用の触媒、それとテントに侵入する時に気づかれないための透明魔法の触媒。占めて金貨二袋。高い買い物であった。

 時刻は……九時を回った程度だ。

 もう少し待つ必要があるな。キャンプ地全体に消音魔法を発動する用意をしておこうじゃないか。

 そんなわけで、俺は用意した物を再びチェックし、この後の作戦に備えるのだった。


***


 深夜二時。キャンプ地は静寂に包まれていた。

 それもそのはずだ。散々木を切り倒し、トレントを燃し、穴を掘り続けた冒険者たちはクタクタだ。さすがに深夜まで起きていられるような体力バカはいなかったようである。

 そんなキャンプ地を俺は静かに歩き回る。耳元でマンドラゴラの叫びを聞かせてやるために。

 

 ……ここだけ聞くと今回の計画も訳が分からないな。



「よし、これで準備は終わりだな」


 消音魔法を使うためにはいくつか手順が必要になる。魔法陣を描き、触媒となる水晶を設置し、呪文を詠唱。そこで初めて発動する魔法なのだ。


 とりあえず今回は初回ということで、ミニモのテントの周囲に設置してみた。これによってミニモのテントからの音は外に聞こえなくなるわけだ。


「……よし、やるか」


 体に透明化魔法をかけ、俺の姿も外から認識できなくする。よし、これでバレることは……


「なんで俺は、ミニモを叩き起すためだけにこんな苦労をしなければならないんだ……」


 まぁミニモを叩き起すためだけならまだいい。トラウマを植え付けられたりだとか恨みは色々あるからだ。

 だが、フリオについては恨みも何も無い。あいつを叩き起すのは俺とて気が引けるのだ。


「頼むから今回で追放してくれよ……?」


 俺は半分願うような気持ちで、ミニモのいるテントに入っていった。

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