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茶柱が立てば

「--とまぁそんなわけで、少しだけ手伝ってもらえないかなって思ったんだけど……どうだい?無理そうなら全然構わないよ。無理なお願いなのは承知しているから」


 町のどこだかにある風呂屋からフィリミルとリリスが帰ってきて、説明をようやく終えた僕はそう締めくくった。

 風呂上りと言うこともあってほんのりと頬が赤いフィリミルは、深刻そうな顔で考え込んでいた。


「うーん……ディアンさんが、ですか……」

「それとアニキさんのお店も、ですよね……。テミルちゃんが見つかったって言うのは朗報ですけど……」

「リリスにも悪いことしたわね。まさかお店があんなことになるだなんて思ってなかったから……」

「はい、私もしばらくあのお店に行っていなかったので……その、アニキさんの子分の皆さんは大丈夫なんです?」

「おう、サミエラが匿っていてくれたみたいでな。孤児院の手伝いをしっかりするように言って来たからまぁしばらくは大丈夫だろ」


 アニキの子分の皆も無事だったのはいい知らせだ。

 孤児院も少しだけにぎやかになって、サミエラの仕事も楽になっていることだろう。

 そんなことを僕は考えて、少しだけ頬を緩ませた。

 前にディアンやテミルと一緒にいたことを思いだした、というのも少しだけあったかもしれない。


「僕としてはアニキのお店を取り返すこともやっておきたいんだけど、同時にディアンがどうやって脱獄したのか、今はどこに居るのかの調査もしないといけない。イギルも……」


 イギル。彼は地割れに呑み込まれて、行方不明になったと聞いている。

 無事に町に戻ってきているとは思えないけれど、彼が死んでいたとしても面倒ごとは増えるばかりだ。

 まずはギルドに彼のことを報告しなくてはならないだろう。


「……とにかく人手が足りなくてね。君たちのような頼りになる人の力を借りたかったんだ。もちろん報酬は支払うし、なんなら場合によってはSランク冒険者として推薦したって良い。情を抜きにしたって僕は君たちにはそれだけの力があると思ってるからね」


 これも事実だ。

 リリスやフィリミルは強力なスキルを持っているし、僕達の教えたことを柔軟に吸収していった。

 そのおかげで今となっては相当な力を持った冒険者の一角だろう。


 この町にいると他にもSランク冒険者やらなにやらが多いせいで実力が霞んでしまうかもしれないが、他の町にいたのなら彼らは既にSランク冒険者になっていただろうとすら思えた。


「別にそんなこと無くても僕たちは協力しますよ。報酬無しでも……いや、それはさすがに厳しいですけどね……」

「働いてもらうからにはしっかり報酬を払いたいからね。大丈夫だよ」

「じゃあリリスもそれで大丈夫?」

「うん。私も皆にお世話になってたし、あそこのお店のお菓子好きだから」


 うん、彼らならきっとこう言ってくれると思っていたけれど。

 やっぱり嬉しいものだ。

 僕達をよほど慕ってくれているらしい。


「あ、じゃあドーラはまたお留守番ね?」

「えっ、私も行きたいんすけど」

「マンドラゴラに何ができると」

「……いざと言う時には非常食になるっす」

「ドーラ的にはその扱いで良いの?」

「お留守番ね」

「なんでっすか?!」


 逆になんでそれで行けると思ったのだろうか。


「部屋の中にいるの死ぬほど暇っすからね?で、なんなら帰って来た時には死んでることとかあるかもしれないっすよ」

「なんで部屋の中で死ぬようなことがあんだよ」


 アニキはそんなことを言ってドーラの煮出し汁に口を付ける。

 凄いな。良くそれを呑む勇気があるものだと思う。


「……案外いけるな」


 アニキはそんなことを言っていた。


「で、なんでドーラは部屋の中で死ぬようなことがあるかもしれないんだい?」

「あ、それなんすけど聞いてくださいっすよもう!」

「……なんだい?」


 なんとなく嫌な予感はするけど。


「今日の朝起きたら、後ろでガサガサなんかが動いててっすね!」

「う、うん」

「振り返ったらネズミが居たんすよ!」

「……」


 ……なるほど?


「なぁんか反応薄いっすねぇ?」

「いやだってネズミぐらいどこにでもいるのでは……」

「で何が最悪って、腕齧られてたんすよ!」

「えぇ……」


 今はどこも齧られてる様子は無いけれど……


「あ、ちなみにお日様に当たってるうちに腕は生え変わりましたっす」

「普通の植物はそんなにすぐに生え変わったりしないわよね?」

「私喋ってる時点で普通の植物では無いっすね。マンドラゴラは植物の中でも特別っすし」


 それはまぁ……確かに。


「そんなわけでここに居ると私美味しく頂かれるかもしれないんすよ!危ないっすよ!」

「じゃあ箱にでもしまっておきましょうか」

「監禁っすか?!人権侵害っすよ?!」

「マンドラゴラにそんなものはないわよ」

「っす……」


 膝から崩れ落ちるドーラ。

 流石に少し可哀そうになって来た。


「あー……一緒に連れてってあげるぐらいは良いんじゃないかな?」

「まぁ……フリオさんがそう言うなら……」

「じゃあこれでとりあえず話は終わりだね。作戦会議と行こうか?」


 そんな話をしていたところにグリスがお茶を持って来た。

 うーん……ドーラが入ってたんだよねこれ……

 ……ん?


「あの、ドーラ、なんか毛が浮いてるんだけど……」

「あ、ネズミのじゃないっすか?私の体にネズミの毛がついてたんだと思うっすよ」


 直後、既にお茶を口にしていたアニキが吹き出したのは言うまでもない。

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