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石頭と石造りの牢

「あぁあああ離しなさいよ馬鹿!」

「いやマジで悪いんだけどそれやったら俺がオーウェンに怒られるんだわ」


 マスクが暴れる劇団長を担ぎあげて運んでいく。

 劇団長は抵抗しているが、まぁその程度でマスクが意に介するわけも無く。

 ちなみにだが他の団員は黙ってマスクについて行っている。

 こっちはこっちで諦めムードと言うか、むしろ暴れる団長をあきれ顔で見ているな。


「この団長ならそりゃあテミルと仲良くできるわけだ……」

「あんたも仲間なんだったら手ぇ貸しなさいよ!手を貸さないってことは敵なんでしょ!すぐにぶっ飛ばしてやるから覚悟しなさいよバムヘルト!」

「もう訂正しないからな」


 名前を間違えられてももうなんとも思わないしな。

 ただこのままだと話が進まないかもしれないか……?


「マスク、ちょっとそいつ下ろしてやってくれるか?」

「はぁ……?いや逃げられたら困るんだけどよ……」

「大丈夫だ。俺を信用しろ」

「まぁ……そこまで言うんだったら……」


 渋々マスクが団長を下ろし、道の横に寄る。

 しかし信じたなこいつ。仮にも俺は敵だぞ?危機管理能力とか死んでるんじゃないか?

 怪訝な目を向けたまま警戒を解かずにいる団長に向かって俺は魔法を使う。

 俺の手段がマスクにバレないよう、無詠唱で。 


「--よし、もうそいつ動けないから大丈夫だ」

「えっ?」

「え、ちょ、ちょっと何よこれ!」

「拘束魔法だ。とりあえず俺は今お前らを助けるつもりは無いから、悪いがもう少し大人しくしててもらいたくてな」

「正体を現したわねこの悪魔!」

「誰が悪魔だ」


 悪魔などと呼ばれるのは久しぶりだな。

 なんとも思わないが、まぁ……こいつはやけに思い込みが激しいらしい。


「じゃあさっさと運び込んで、詳しく話を聞かせてもらおうか。俺も暇じゃないんでな」


***


「ぐっ……そろそろ魔法解きなさいよ!もうこんな状況じゃ脱走できないでしょ?!」

「あ、すまん。それ効果時間が過ぎるまで解けないんだわ」

「はぁ?!」


 動けなくなった団長を石造りの椅子に座らせてやって俺たちは話をする。

 まずこの監禁部屋に入ってみての感想だが……ここも中々凄まじいな。

 もちろん壁が土なんてことはなく、今までに見たことの無いような鉱石で覆われている。

 先ほど試させてもらったが、俺の魔法も全く歯が立たなかった。

 道理で劇団が脱走できなかったわけだ。こいつらとて自衛手段として魔法を覚えているだろうに、脱走できないのはおかしいと思っていたのだがこれで納得できた。


「ここを出入りできるのはマスクだけ、ってことだな」

「おう。ここはオーウェンにも手ぇ出せねぇし、どんな禁術使いだろうと通さねぇぜ!」


 ……逆に言えば命をマスクに握られてる状態というわけだな。

 まぁ脱走手段は考え付かないでもない。

 例えばアニキの『収納』であれば、収納に際し硬さなりなんなりを度外視した『空間の切断』のようなことを行っているためこの部屋も突破できるだろう。

 俺が出来そうなことと言うと……難しいが、死ぬのを覚悟でやればなんとかなるかもな。


「あ、外でマスクが死んだ場合はどうなるんだ?そうなったらこの部屋はこのまま放置、だとしたらこいつらはどうなるんだよ」

「いや死んだら解除されんぞ?俺が死んだら俺の使った魔法で起こされたのは全部元通り、って感じだな」

「ふむ」

「あ、でもそうなったらこの通路も俺の魔法で作ってあるから全部崩れ落ちるのか。結局死ねねぇなぁ」


 あぁ、そう言えばそうだったな。

 残念、外でマスクを殺せれば脱走させてやれるかもしれないと思ったのだが、それは厳しかったか。

 となると脱走に際してはマスクを殺さずに、この劇団メンバー全員を連れて逃げる必要がある、と。

 ……やはりアニキでも連れて帰ってきて、劇団全員を収納して逃げるか?アニキが居ればこの部屋の脱走が難しい問題も解決するわけだしな。


「まぁ、怪我してる人間は居ないんだな。多少ここら辺は衛生面が気になるところではあるが」

「おう。何も怪我させたくて捕まえてるわけじゃねぇからな。保護だ保護。禁術使いを殺して安全になったら解放するぜ」

「結局ミニモの事か……」


 とりあえずだが、ここは安全そうだ。

 マスクが死なないようにしてやればおそらくだがかなり持つだろう。

 部屋には土や石で造られた家具だったり、長持ちする食料が置かれている。

 マスクが持ってきたであろう新鮮な野菜なんなりも置いてあるので、その問題は大丈夫。


「……よし、こういう状況なのであればこちらもしっかりミニモの話をしよう」

「お、マジか?」

「あぁ。もし何かあったようならこの場でお前を殺して逃げるところまで考えてたぞ」

「おうおう。言ってくれんなぁ兄ちゃん。そんなただじゃぁ殺されてやんねぇからな?」


 多少挑発してはみたのだが乗ってくる様子は無し。

 しかも、反撃して殺す、とは言わずにただでは死なないと言ったな。

 自身の実力を過信しているわけでもない、か。

 あぁ、めんどくさい。


「お前何気に厄介だよなぁ。味方にしても悪だくみの邪魔だし、敵にしたら普通に強ぇんだから……」

「お、なんか褒められてんな?」

「ちなみにミニモの話をするんだったらオーウェンのところまで戻らなくちゃいけないよな」

「ん、俺に言われても分かんねぇからな」

「だろうと思ったわ」


 じゃあ一旦、戻るか……


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!私だってもう少し--」

「おい」

「ひっ?!」


 団長がまた何か言いそうだったので、召喚魔法で銀色に光る髪飾りを取り出す。

 もちろん見せかけは髪飾り、と言うだけなのだが。

 実際は俺の使役する、突然変異したスライムを分裂させて変形させている物だ。

 そこそこ近い距離であればスライムの各個体同士で意思疎通を取ることが可能な上に、分裂しているためフリオ達にも持たせてある。

 さすがに町からここまでの距離では意思疎通を取れていないようだが、便利なことには変わりない。

 無いかあればこいつに手紙を持たせてこっちまで送るように言ってある。


「その髪飾りを付けとけ。せっかく美人なのにもったいないぞ」

「へっ?え、あ、ど、どういうことよ?!」

「マスク、このぐらいは良いよな?」

「良いぞー。別にプレゼントを止めるつもりはねぇしな!」


 よし、上手く騙せているな。

 なぜかどぎまぎしだした団長を置いて、俺たちは再び部屋の外に出て行くのだった。


 後でマスクの居ないタイミングで、こちらの事情を劇団の皆に伝えてやれば不安も無くなることだろう。

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