抉り出す手刀、ミニモ
「ギキィ?!」
「あ、あの、ミニモさん?もっとちゃんと奇襲を仕掛けるとか……」
うーん、確かにそうなんですけど私って細かいことを考えると失敗するんですよね。殴って治す!これに限ります。
そんなわけで、リリスちゃんの忠告はしっかり聞きつつもこのままの方針で行くことに決め、私は拳を構えました。
「へいへーいゴブリンさーん。こんなところに人間が居ますよー」
「ギ……」
うーん、やっぱり襲ってきませんね。もうちょっとだけ挑発してみましょうか?
「えいっ」
「ひいっ?!」
壁を手で叩いてみただけなのですが、リリスちゃんまで怖がらせてしまいましたね。これは悪いことをしました。
「ギッ……」
「あれ?」
私の前に手を広げて立ちはだかるようなゴブリンさんたち。この仕草は私たちを襲うというより何かを守ろうとしているかのような……?
不思議に思って先を見てみると何匹ものゴブリンが寝かされています。見たところ――
「リリスちゃんリリスちゃん、あれって怪我してるみたいじゃないですか?」
「え、どれですか?……あー……そう、かもしれないですね……」
うーん、なんで怪我をしてるのかは分からないですけど、治すのが治癒術師の本分ですもんね。せっかくですし治してあげましょうか。
そう決めた私はどんどんゴブリンさん達に近づいていき……
「どいてください。さもなくば一度殺して治します」
「ギイッ?!」
「ミ、ミニモさん?!危ないですよ!直した瞬間襲い掛かられたらどうするんですか!?」
「別に大丈夫ですよ?この数なら小指で十分です」
「強者の余裕……」
エテルノさんならこういう時、『本当のことを言っただけなのだがな』とか言うんでしょうかね。
それに何より、傷ついた人を放っておくのは私のポリシーに反するので……しょうがないですよね!
とりあえずゴブリンさん達には退いてもらえたようなので、寝かされているゴブリン達の診察を始めましょうか。
と、調べ始めてすぐに目につく異変がありました。
「あれ、このゴブリンさん、葉っぱみたいなのが生えてる?」
「ギ……」
「大丈夫ですよ。危害は加えませんから」
「ミニモさん、治りそうですか?」
「うーん……」
とりあえずこの植物を取り除かないと難しそうですよね。根を張ってるのは背中のあたりでしょうか?
「じゃあちょっと痛いですけど我慢してくださいね?」
「ちょ、ちょっと待ってください!ミニモさん、何するつもりで……?!」
体に根を張った植物を無理やり引き抜き、傷をすぐに治癒魔法で治す。もちろん痛みはすごいものになるでしょうがそこは我慢ということで。
治癒魔法をすぐに使えばそんなに痛くはなりませんしね。
「ギャィッッ……?!」
あまりの痛みに昏睡していたゴブリンも目を覚ました様子。ただあれですね。この植物は魔力を吸っているのかもしれません。事実私が治癒魔法を使ったせいかどんどん大きくなって通路の天井まで届くほど大きくなってしまいました。
「ミニモさん、この木ってあの森の木ですよね?」
「え?」
二匹目の治療を終え、リリスちゃんからそう声がかかりました。確かに葉っぱは似てるような気もしますね?
「ギキャア?!」
「ギギィ?!」
「うーん、この感じ、注意してみると私からもちょっとずつ魔力が吸われてるような……」
「あの、とりあえず会話の片手間で治療するのはやめてほしいんですけど」
とりあえず自分の体の中にも何かあるように感じたので手を入れて取り出してみることにします。えいっ!
「わぁ?!み、ミニモさん?!何やってるんですか?!す、すぐに治療しないと?!」
「大丈夫ですよリリスちゃん。ほら、何かがあるように感じたのでやってみたんです」
「だ、だからって自分の体に唐突に手を突き立てるのはどうかと!し、死んじゃったかと思いましたよ?!」
開かれた私の手には急速に成長する種子が。とりあえず手の上で成長されると困ってしまうので放り投げておきます。
「うーん、ちょっとゴブリンさんたちの治療が終わったらリリスちゃんも調べさせてもらっていいですか?」
「えっ」
「痛くはしませんから安心してくださいねー」
「こんな治療法見せられてるのに安心できませんよ?!」
***
「で、治療した結果ゴブリン達に懐かれた、と」
「ですよ」
「あのな……。とりあえず治療法が、聞く限りかなりグロテスクなんだが……?」
「体内に入っちゃってましたからねぇ。一応キャンプ地の皆さんの治療をするときには麻酔もかけてましたよ?」
ミニモは少し倫理観がおかしいな。
いや、よく考えてみたら俺の部屋に床下から侵入してくるような奴に倫理観も何もあるわけがないんだが……。
「キャンプ地に森ができた理由は分かった。だが結局、なんでゴブリン達は喋れるんだ?」
「さぁ……?」
「むしろそこをしっかり調べておけよ」
そこが一番気になるわ。そもそもゴブリンは魔獣で、人間の言葉を理解しているはずもないのだが?
と、そんな俺達の方を見ておずおずとリリスが手を挙げた。
「あ、あの……」
「リリスか。なんだ?」
「もしかしたらなんですけど、私にスキルが目覚めたかもしれないなと……」
スキル。確かに魔獣を眷属にするようなスキルが使えるようになったという可能性もなくは無いが……
「根拠はあるか?」
「えっと、ゴブリンの頭のところに魔法陣みたいなものが見えてるんですけど……」
「俺には見えないな。ミニモ、お前は?」
「見えませんね」
リリスのスキルか。うーむ、それだけではない気もするが……まぁいいだろう。
とりあえずリリスがスキルで管理しているのならこのゴブリンはこちらに危害を加えてくることは無いな。それが分かれば安心だ。
「で、なんでリリスじゃなくてミニモが親分なんだ?」
「ミニモさんが私よりも強くて、ゴブリン達を治療してたからじゃないかなと思います」
「なるほど。質問はまだあるぞ。トレントの種なんだが、日光に当たらないと発芽しないんじゃなかったか?魔力を吸っていたというのはどういうことだ?」
「えっと?植物の種が芽吹く時って日光は別に必要じゃないですよね?水分の代わりに魔力を吸ってたのかなーなんて思いますよ」
……なるほど、話が違うようだが。
黙って振り向くとフリオが立っており、その隣にいたはずのアニキは一目散に逃げだしている。これは悪気があったというより純粋に知らなかったのだろうな。
「……あの野郎、よりにもよって大事な情報を間違ってるじゃねぇか……!」
「あ、追いかけるのはちょっと待ってください」
「なんだ。今回はあいつを逃がす気はないぞ」
前回はまんまと他の町に逃げられてしまったからな。今度は逃げ切られる前に捕まえなくては。
「いや、その前にエテルノさんとフリオさんの分の種も取っておかないとなぁと」
「おい、その手は何だ。や、やめろ。あいつを捕まえてからでも遅くないぞ?」
「早く取らないと成長しちゃうかもじゃないですか。えいっ!」
ミニモの手が俺の体を貫く。確かに痛くはないのだがこれ……間違いなくトラウマになるな。
ふと横を見ると、フリオが凄い顔をしていた。そんな顔で見るなよ。次はお前の番だぞ。
俺は悲しい目でフリオを見つめ返すのだった。
ミニモのサイコパス度が上がってますね。
根はいい子のはずなんです……




