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聖人✕3

 俺がこのパーティーに入ってから約三日。悪だくみは既に俺の思惑からは逸れ、非常に困った事態になっていた。


「その荷物重くないかい?少し持たせてくれると嬉しいな」

「……あぁ、ありがとう」


 荷物持ちをしている俺に声をかけてきたのはフリオ。このパーティーのリーダーであり、金髪の美丈夫だ。

 パーティーメンバーによく気を配っており、今も荷物持ちをしていた俺から一番重い荷物を取っていった。


「悪いわね。基本私の使ってる道具がかさばっちゃうのよね……。あ、なんなら私が持った方がいいんじゃない?」

「ダメだグリス。魔法使いが体仕事をしてどうするんだい?君はもう充分働いてくれているよ」


 申し訳なさそうにそんなことを言ったのは魔導師のグリスティア。

 彼女は腰まで届く長い赤髪を後ろで結わいて魔法使いらしい大きな帽子を被っており、その右手には先端に青い宝玉が収まった大きな杖を持っている。


 魔道士というのは色々な道具を使うからな。彼女が荷物を自分で持とうとするのは、自分しか使わないような荷物を人に持たせるのは申し訳ない、ということだろう。


「でもでもエテルノさん、疲れてるなら私が癒しますからね?いつでも言ってくださいね?」

「……あぁ。ありがとう、ミニモ」


 一番の問題はこいつだ。ミニモ=ディクシア。このパーティーでは癒術師として仲間の怪我を癒すことを専門にしている女。

 こいつなのだが、俺がこのパーティーに入った時から異常なまでに馴れ馴れしかった。初対面でここまで馴れ馴れしくできるのもある意味才能だとは思うが、今も普通に俺の手を取って熱心に話しかけてきている。

 美人ではあるのだがやたら距離が近く、あまり近寄りたくない女である。

 こいつの見た目はそこそこ珍しいプラチナブロンドの髪を持つ陽気な少女、といったところなのだが、実は二十歳前半らしい。しかも大酒飲みだというのだから驚きだ。


 ……さて、こいつの態度についてだが、普通であれば新しく入ってきたパーティーメンバーには警戒心を持つものだ。

 事実、フリオとグリスティアでさえ俺を若干警戒している節があった。

 こいつは危機管理能力とか知能とかその他諸々が欠如しているのでは無いだろうか。そう俺は疑っている。


「今回の討伐目標、見つけたわ。この茂みの奥、前方に約百歩ね」


 先程から周囲に探知魔法をかけていたグリスティアが言うと全員が構える。

 今回俺たちは、森に現れた魔獣の討伐にやってきていた。

 なんでも何人かの冒険者を送ったが帰ってきていないらしく、Sランク冒険者の多いパーティー……つまりこのパーティーに依頼が来たのだそうだ。


 そんな危険な魔獣がいるというのにこのパーティーの皆は呑気なものだ。緊張している様子は一切無い。

 ミニモに至っては笑顔すら見せているというのだから、このパーティーがどれだけ強いのか伺えるな。

 

 ゆっくりと、こっそりと俺たちは進む。

 そうして鬱蒼と植物が生い茂る道をかき分けて、魔獣を見つけた。

 

 正面に居たのは巨大な蛇の魔獣。開いた口は人間一人ぐらいなら簡単に呑み込んでしまいそうだがどうやら俺たちには気づいておらず、どこかを注視しているようだ。

 ふむ、その魔獣が見つめる方向には--



 --傷ついた他の冒険者達の一団がいる。


と、俺が確認したと同時にフリオとグリスティアは走り出していた。


 グリスティアが氷槍を大量に放ち魔獣の気を逸らす。そしてその隙をついてフリオの一閃。魔獣の口から顎までを一気に裂く。鮮やかなものだ。

 宙を舞った血飛沫がフリオの金の髪を濡らした。

 

 一瞬だが出遅れた俺も急いで合流するのだが……


 魔獣とてこの程度で倒れるほど弱くはない。その巨体でフリオに向かって突進、フリオが吹き飛ばされて木に体を打ち付け、慌ててミニモが駆け寄っていく。

 フリオは受け身を取ったようだが……大丈夫なのだろうか?


「フリオさん!大丈夫ですか?!」

「あはは……ちょっとしくじったなぁ。ごめんミニモ、治療頼める?」

「分かりました!」


 剣を支えに立ち上がったフリオが苦笑いをした。

 まぁ……あれだけの攻撃を受けておいてそれほど負傷してない、って言うのも大概化け物ではあるがな。


 ミニモがフリオに治癒魔法をかけている間、魔法を使っているために無防備になっているグリスティアを守るのが俺の役目だ。

 剣も魔法も一通りできるのを理由にこのポジションを任されている。

 防御に関しては色々なことができたほうが便利だからな。


 ……ふむ、先程からグリスティアが魔法を打ち込んではいるが蛇にはあまり効果が無いようだ。

 むしろいい感じにヘイトを買っているせいで魔獣が怒り狂ってこっちへと向かってきているな。


「この蛇……!全然攻撃通らないじゃない……!」


 なるほど、魔法を放っても基本蛇の鱗にはじかれているようだ。

 とするならば、


「グリスティア、口の中を狙え。幸いさっきフリオが口を狙いやすくしてくれたようだからな」

「あ、それいいわね。やってみるわ!」


 フリオが顎までを切り裂いたお陰で随分と狙いやすくなっている。

 先ほどの攻撃で顎を開く筋肉でも傷つけられたのか、魔獣の顎がだらしなく垂れ下がっているからだ。

 俺のアドバイスでそれに気づいたグリスティアがそこに火炎魔法を大量に撃ち込んだ。


***


 --数分後、耳障りな断末魔と共に魔獣は倒れ伏していた。やはりSランクパーティー、その実力はAランク冒険者である俺よりも一回り上のようだ。

 このパーティーを追放されることが出来れば間違いなく俺もSランク冒険者になれると思うのだが……

 目をやった先ではミニモが、蛇に狙われていた冒険者たちに治癒魔法をかけてやっている。


 ……しかしなんとなく感じてはいたが、こいつら全然噂と違くないか?

 噂では、


「フリオは周囲を見下している嫌な奴」

「グリスティアは自分の成功の為なら他人を蹴落とすような恥知らず」

「ミニモをナンパしたやつがボロボロになって見つかった」


 というようなものが多かったが、いくら噂が誇張されているにしても実際はこんなに良い奴ら、というのはありえない話じゃないか?


 いや、まぁ別に良い奴らなのは悪いことじゃないのだが、このパーティーで俺が追放されることは出来るのだろうか。


 俺のスキルは簡単に言えば『追放されればされるだけ強くなれる』というものだが、実際は色々な制約がある。

 例えば、俺が自主的にパーティーを脱退した場合には発動しないし、他のパーティーメンバーが俺よりも弱かった場合も発動しない。

 俺には今Aランク相当の力があり、更に今入れるSランクパーティーはここしかない。

 つまり俺には、この聖人共のパーティーを追放される以外に強くなる方法がないのだ。

 

 ……ふむ、これは困ったぞ。


「エテルノさん、難しい顔をしてどうしたんですか?」

「……いや、俺がミニモ達に嫌われてないかなぁと」

「そんなことあるわけないじゃないですか!」


 そんなことあれば楽だったんだけどな。

 まぁ文句を言ってもしょうがない。今考えるのは一旦辞めて、俺がこのパーティーを追放されるにはどうすればいいか、ギルドに帰った後でもう一度考えようじゃないか。


 全ては「誰にも負けないほど強くなる」という俺の悲願のために。

 なんとしても俺は追放されなくてはならないのだ。


 そんなわけで俺たちは荷物と負傷した冒険者共を担ぎ上げ、街へ帰るために再び鬱蒼と茂る茂みに分け入っていくのだった。

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