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腑抜けのから

「ふ、へぇ……流石にこの段数は老人を労わっておらんじゃろ……」


 そう言うとサミエラはその場にへたり込んだ。

 なにやら疲れ果てた顔をしているのはきっと、彼女がここまで全力で走って来ていたからだろう。

 まぁ短い手足のせいでお世辞にも早いとは言えなかったが。


「もう僕が抱えていこうか?」

「それは普通に怖いんじゃが……。お主普通に人投げたりするじゃろ……」

「落とさなければセーフ」

「もっと老人の心臓を労わるべきだと思うんじゃが」


 サミエラは息も絶え絶えにそんなことを言う。

 サミエラを前に投げて、サミエラが地面に落ちる前にキャッチ。

 普通に走るよりはこっちの方が早いと思うのだけれど。


 グリスも心配そうに、水を出してサミエラに渡したり色々としているが……このままだと早くディアンの居た独房までたどり着けないかもしれない。

 サミエラがこれ以上走るのは無理だろうし、僕が抱えても駄目だというのなら……


「じゃあグリスに頼めるかい?」

「別にいいけど次また私達を置いて先に行ったりしたらサミエラさんを浮遊魔法で飛ばすからね?」

「わしの扱い酷くないかの?!」


 別に置いていくつもりはもうないけれど、やはり少しでも早く現状を確認したいものだ。


「じゃあ行こうか。あ、グリスは外から行ったほうが早いかい?」

「あぁ、そっちの方が良いかもしれないわね。フリオも一緒に浮かべてあげるけどどうする?」

「僕はこのまま中を走っていこうかな。ディアンの逃走経路とか見つけられるかもしれないし」

「そ。じゃあサミエラさん、ちょっと空飛ぶけど耐えてね」

「えっ」


 グリスが窓を開け、飛び降りるようにして外へ飛んでいった。

 もちろんサミエラも一緒だ。

 

 グリスは浮遊魔法を使ってまっすぐにディアンの独房まで。

 僕はこのまま走ってディアンの独房まで。

 突然外に放り出されたサミエラの絶叫を聞きながらも僕は走り出すのだった。


***


「あら、案外遅かったわね」


 ディアンの独房に着いた僕を出迎えたのは、グリスのそんな言葉だった。


「走りながら考えてみたんだけど、僕はサミエラを置いていっちゃいけないのにグリスたちは僕を置いて先に到着するって言うのはどういう……?」

「あー……ま、あれじゃないかしら。今私たちは『分担』しただけで『分断』されたわけでは無いというか……」

「あぁ、うん」


 グリスにしては珍しい、くだらないダジャレをスルーして僕は早速部屋の中を調べ始めた。

 以前この部屋でテミルのお別れ会を開いたこともあったため、部屋自体はかなり広いのだがディアンの牢屋はそこそこ狭め、かなり堅固なものになっていて、部屋の隅に鉄格子で造られた牢が置かれている。

 この檻はエテルノが散々魔法を重ね掛けして作ったもので、グリスティアレベルの魔法の使い手でもないと壊せないと言っていた。

 あぁ、そういえばディアンはさっきグリスが言っていたような、くだらないダジャレも好きだったな。


 そんな感銘を抱きながら檻を見ていくが……


「……どこも壊されてない、よね?」

「ないわね……。私も一足先に調べてみたんだけど、どこもおかしなところは無かったわ。エテルノがかけた魔法も一つも解除されてないもの。一切エテルノの魔法に手を付けずに脱獄、だなんてとんでもないわよ?」


 グリスはそう言って真剣な目で牢屋を見つめる。

 僕は魔法が物凄く使える、という訳では無いからグリスの言うほどのものだという実感は湧かないけれど……やっぱり、エテルノはとんでもないものを作ったのだろう。


「サミエラ、とりあえず詳しい状況を聞いても良いかな?ディアンが居なくなったのはいつぐらい?」

「……気づいたのは今朝、衛兵から連絡が来てからじゃな。ただ、おそらく脱走したのはもっと前になるかと思う。最近わしは野暮用があっての。あまりディアンのところへ来てやれてなかったんじゃよ」

「でもそうだとしても、衛兵の人たちだって見に来るわよね?」

「いや、来んよ。死霊術を恐れて一切こっちまで来ようとせんわい。ディアンが使っていたわけでは無いといくら説明しても、よほど怖い思いをしたんじゃろな……魔法を使って、食事をディアンの牢に投げ込んでおったわ。しっかり姿も確認しておらんかったんじゃないかのぉ」


 あぁ、そうか。禁術を普通の人が見ると、そんな風に恐るべきものとして映るのかもしれない。


「でもそんなことやってたら仕事も満足にこなしてないことになっちゃうんじゃ……」

「まぁ、そこはこの牢を作ったのがエテルノじゃからな。あれだけの大混乱を何とかしたエテルノの作った牢なら、なんて油断も会ったんじゃろうよ」


 それにしたって流石におかしい気もするけれど。


「ま、結局はエテルノの責任にされかねないじゃろうな」

「ミニモが聞いたら怒りそうな話だね……」

「想像できるわね……」


 とにかく、現状ではこの牢には手がかりは無さそうだ。

 多少壊されたりしていたならどんな手を使ったのか分かったかもしれないけれど、何も壊さず、牢だけをすり抜けるなんて。

 どう考えたって分からない。

 だから今は、ディアンが脱走する前どんなことを話していたか調べる、だったりとかこの監獄を抜け出た後でディアンを見た人は居なかったか、とかを調べることになるだろう。


 エテルノに何か手紙を送ってみてもいいかもしれない。何かあればエテルノの飼っているスライムを経由して手紙交換をする手はずになっていた。

 こういう頭を使うのは僕なんかよりもよっぽどエテルノやディアンの方が得意だろうに。そんな風に思って街を見る。

 立ち並んだ街並みは決して綺麗とはいいがたいけれど、順調に復興が進んでいるのが分かる。

 良いことだ。この調子ならすぐにでも街は元通りに--


 --突如、街のごく一部、空中から突然何かが出現して落下、土煙を立てるのが見えた。


「グリス、あれなんだい?」

「え?あ、ちょっと待ってね……」


 グリスが魔法で遠くを見渡し、困惑した顔で、言った。


「あれ、街が壊されたときに出た瓦礫よね?なんであんなところに……?」

「えぇ……?」

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