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蟻の巣を這う

「よーし帰って来たぞー」

「あ、エテルノさんお疲れ様です」

「なぁ兄ちゃん、俺もエテルノって呼んでいいか?」

「駄目だ」


 テミル達の居る洞穴に戻って来て早々、マスクが馴れ馴れしくしてきたため切り捨てておく。

 今頃フリオ達は空を飛んでいる真っ最中だろう。街に戻っても何事も無ければいいが……。


「兄ちゃん案外冷たいのなー」

「冷たいも何も俺はまだお前らを信用してないからな」

「でもでも、エテルノさんは誰に対してもこんな感じですよね?」

「あ?」

「ひゃっ?!すすすすいません!」


 テミルの軽口に少し反応しただけでここまで怖がられるとは。

 少しショックではあるが……


「とりあえずは劇団の奴らの様子だけでも確認させてもらって良いか?ミニモの話はそっからだ」

「あー、待った待った。そんなに簡単に僕たちが会わせてあげると思ってるのかなぁ?先に情報を聞かせてくれるのが筋ってものじゃないかなぁと僕は思うんだけどー?」

「え、そうなのか?」

「マスクは黙ってて」

「あっ、はい」


 さっさとマスクに案内してもらおうとしたのだが、ここで思わぬ横やりが入る。

 真っ白なうえに痩せているせいで血管の浮き上がる手足が洞窟の中の暗い光で更に不気味に見える。

 オーウェン。フリオの親の仇であり、マスクの仲間。グリスティア曰くそんなに悪い奴では無いらしいが、実際はどういう立ち位置に居るのか分からない男だ。

 マスクは『土魔法』を使うことが分かっているが、こいつに関しては何も分からない。警戒が必要だろう。


「オーウェン、だったよな。お前ちゃんと飯食ってるか?」

「……食べたけど?」

「そか。まぁそれなら良いんだけどな」


 軽口を叩きながら頭を回す。

 劇団の皆と会わせる前に情報をよこせ、と言うのは至極もっともな要求だ。俺がこいつらの立場なら間違いなく同じことをした。

 ここは何かしら情報を与えるのが手っ取り早いだろうが……どこまでなら、言っても構わない?


「情報をよこせって言われてもな?逆にアンタらがどこまで知ってるか分からねぇから何も教えられねぇよ」

「……」


 今度はオーウェンが黙りこくる。

 こいつは頭良さそうだったからな。俺の真意にも、気づいているはずだ。

 その上で俺から情報を引き出したいのなら、しっかりと俺にも利益がある形にしてくるはずだ。

 さぁ、どう来る?


「ミニモっていう奴がこの街に居ることぐらいしか分かんねぇけど……?」

「えっ」

「マスクお前……!」

「え、俺またなんかやっちゃった?」


 マスクの発言があったことにより一気に場の流れがかき乱される。

 オーウェンからしても予想外の一撃だろう。

 もちろん、ミニモの情報がほぼほぼ知られていないことが分かったので、俺にとってはかなり有利な情報だ。

 と同時に、テミルがここまであまりミニモの話をしていないことが分かった。


「ミニモの話だが……とりあえず、あいつは治癒魔法を使って色々と町の人間だったりの人助けをしてるな。それもあって俺たちはあいつが悪人だとは思えない」

「……蘇生魔法を使えるんだからそりゃあ治癒魔法も使える、か。でもまさかそれだけの情報で劇団に会わせて欲しいだなんて言わないよねぇ?」

「なんだ、まだ情報がいるのか?そうだな……あいつはたまに、ハンカチを盗んでいくな」

「それはどういうことなの?」

「さぁ?」


 それは俺が知りたいわ。俺も分からないから困ってるんだよな。


「やっぱり真面目に話す気は無い、よねぇ」

「そりゃそうだろ。俺はお前を一番警戒してるんだからな」

「そりゃあ光栄だ。そっちのテミルちゃんが言ってたけどさ、君結構凄腕なんだろ?そこまで僕を警戒すること無いと思うけどね」

「そう言う奴ほど油断できねぇんだよ」


 オーウェンはへらへらと笑って、マスクに視線を送る。

 何の合図かは分からないが……少なくとも今の状況で危害を加えられることは無い、はずだ。


「いやぁ、しっかしこの街は中々とんでもないねー。禁術ほどじゃないにしろめちゃめちゃ強い人間がそこら辺を歩いてるんだからさぁ。僕みたいな日陰者には居場所が無いってわけなのかなー?」

「日陰者と言うかお前どっちかと言うと日の光に当たったら死にそうだけどな」


 真っ白な肌と言いぼさぼさの髪と言い、最近までどこかに幽閉でもされてたんじゃないかというレベルの見た目だ。

 少し歩かせただけで死にそうな見た目なため、肉弾戦となれば俺が勝てるだろう。

 問題はそんな見た目なのに筋肉だるまのようなマスクよりも立場が上であるように見えること。

 どんな魔法を使ってくるのか。分かっているのは、ろくでもない魔法だろうということだけだ。


 と、じっとオーウェンの出方をうかがっていた俺にマスクが声を掛けてきた。


「じゃ兄ちゃん、今から劇団のとこに案内してやっからついて来いよ」

「え、良いのか?」


 確認する相手はマスクでは無く、オーウェンだ。


「まぁ良いんじゃない?僕ももうめんどくさいしー、グリスティアちゃんも居なくなっちゃったしー」

「グリスティアならフリオのことが好きだから狙うのは諦めとけよ」

「えっ」

「え、何お前本気でグリスティア狙ってたの?」


 なんだそれ。

 フリオ、なんかお前の知らないところで新たに因縁が出来つつあるぞ。

 そしてグリスティア。お前何したらこんな訳わかんない奴に好かれるんだ。

 フリオに全然気持ちが伝わってないくせに。


「え、ちょ、そ、その情報もう少し聞いても良いかな?」

「お前ミニモの話聞きたいんじゃなかったのかよ」

「いやそんなのどうでもいいし」

「どうでもよくは無いだろ」


 とりあえず、劇団の様子を確認してからな、とそう約束し、俺はオーウェンとテミルのいた場所を後にする。

 マスクの土魔法で開かれた道を進み、俺は深く息を吸った。

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