表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/297

変わり目に祟り目

「だぁから!物凄い攻撃があって空と地面がひっくり返って木が全部なぎ倒されたって言ってるでしょ?!」

「いや……そうは言うけどそんな跡ねぇぞ?」


 少し離れたところでアニキとシェピアが言い合いを繰り広げる。

 俺は今、ミニモと話をしていた。

 ……もちろん、俺達が蘇生魔法について知っているということは内緒にしているが。


「ミニモ、シェピアはああ言っているが事実なのか?」

「ですね。ここら辺全部が更地になるぐらいには、ものすごい攻撃を受けたはずですけど……」

「そうか……」


 なんど見渡してみても周囲はただの森。

 何かが変わっている様子は一切無い。戦闘の跡なんてものは無いし、敵が居た痕跡も無い。

 少し歩いたところではミニモとシェピア、イギルが滞在していた場所に何も変わらず燃え続けている焚火が発見された。

 ミニモはこう表現する。


「夢でも、見てたみたいですね」


 だが夢ではないということはよく分かる。

 ミニモの服にはべったりと、血がにじんでいるからだ。

 傷跡はミニモがすぐに治したからか存在しないが、それでも確かに全身に傷を負ったのは事実なのだろう。

 ミニモ曰く、全身を剣で貫かれた、とのことだったが……


「服に傷は無し、と……」

「ですねー。間違いなく服も切り裂かれてたと思ったんですが……」

「おかしいな。ほんとに」


 全身が急に裂けたとでも言うのか?そんな馬鹿な。

 と、そこにフリオとグリスティアが戻って来た。

 その顔はどこか沈んでいた。


「どうだ、見つかったか?」

「いや、どこにも見つからなかったよ」

「どこ行ったのかしらねあの猫は……」


 グリスティアは心配そうに呟いた。

 言うまでも無く、彼らはイギルを探しに行っていたのだ。

 ミニモやシェピア曰く地割れに呑み込まれたらしいが、地割れの跡が残っていない時点で何とも言えない。

 だがそれが事実だとしたら、一度地割れが起き、地面が戻り、イギルは今も地中に閉じ込められたままだということになる。

 それはマズイ。なにしろイギルはギルド長なのだから。

 ただでさえバルドの襲撃を経て復興しきっていない町をどうにかしてまとめていたイギルが死んだ、ともなれば相当な混乱が予測されるだろう。


「探知魔法が使えればすぐに助けられるのにな……」


 探知魔法が妨害されている、と言うのも問題だろう。

 しかも、マスクやオーウェンの仕業では無いかもしれない、という疑惑まで浮上しているのが現状だ。

 俺達が捕らえた仮面の男を連れてオーウェンたちの根城に行った時、『探知魔法は使えない、考えたな』と俺が発言すると、仮面の男は何も知らないような反応をしたのだ。

 もちろんあいつらが嘘をついている可能性はあるが、もしかしたら、探知魔法を妨害している第三者が居るのかもしれない。

 俺はここに来るまでに、そんな話をフリオとしていた。


「頭がこんがらがってくるな……」


 探知魔法に、蘇生魔法、禁術、ミニモ、劇団、イギルの失踪、何も痕跡の残っていない襲撃。

 他にも、色々。

 さすがに頭がパンクしそうだ。


「……あら?ちょ、ちょっとエテルノ、確認してもらってもいいかしら?」

「あぁ……?これ以上面倒が増えるのは勘弁してくれ……」

「な、なんか探知魔法が使えるようになってるんだけど……?」

「……え?」


 急いで呪文を詠唱し、探知魔法を発動。

 ……うん、問題なく発動するな?


「……と、とりあえずイギルを探してくれ!本当に生き埋めになってたら事だからな!」

「わ、分かったわ!」


 もうほんとに、どうすれば良いのやら。


***


「はぁ……やっぱり見つからなかったか……」

「そうね……。もしかしたら脱出してる可能性はある、けど……」


 それからしばらく。

 結局探知魔法が使えるようになってもイギルが発見されることは無かった。

 深さ的には十分な距離まで探知出来ていたはずなので、発見されなかった場合考えられるのは二つ。

 既に脱出してここから離れた森をさまよっているか、既に死んでいるか。


 ……既に脱出していた場合でも、探知魔法に引っかかっていておかしくはないはずだ。

 穴に落ちて、脱出して、わざわざここからはるか離れたところまで移動する意味が分からないからな。

 だから、おそらく……


「……森にとどまっているよりも一足先に街に戻っていた方が合流の確率が上がると考えて、先に帰っている可能性はあるな」


 生きている可能性があるとしたらそのぐらいだ。

 とはいえここはそもそもが街からそこそこ離れている。その距離を一人で帰っているというのは少しだけ無理があるが、イギルならギルマスとしての何かを使って帰っている可能性も、無くはない。

 ギルマスだ、と言って道を通りかかった商人でも捕まえれば街まで送ってもらうことは可能だろうしな。

 幻覚魔法を使えば舐められることも無い。山賊に襲われた場合はとんでもない化け物にでも見せかければいいのだ。そうすればビビッて奴らは襲ってこなくなる。


「街に一度帰ってみるかい?しばらく帰ってなかったからね。それもいいかもしれないよ?」


 フリオがそう提案し、皆が賛同する。

 少なくともイギルの件以外でも街に戻る意味はあるだろう。

 だが、


「……俺は残る。どうせなら分担して調べたほうが良いだろう」

「え、一人で残るのかい?」

「あぁ。単独行動が出来るのはこの中なら俺が適任だろう」


 そう言ってフリオの目を見据える。

 もちろん今言ったことには真意が隠れているが、フリオなら伝わるはずだ。


 俺は、ここに残ってオーウェンやマスクとの情報交換をすると言っているのだ。

 テミルのことも気にかかるし、何よりも俺一人でいたほうが交渉がしやすい。

 ミニモの情報をあいつらに伝えるとは言ったが、テミルが言っていなければあいつらはまだ俺達がミニモと同じパーティーだとは知らないはずだからな。

 どの情報を伝えて、どんな風に話を誘導するか考えた時に俺は一人の方が都合が良い。


「あぁ、そうだ、テミルについても多少調べておくから、任せておけ」

「……うん、分かったよ。グリスティアもそれでいいね?」

「わ、分かったわ。ミニモも一緒に帰るのよね?せっかく帰るんだったら次はエテルノに街のお土産を持ってこないと……」


 よし、少なくともフリオには伝わったな。

 テミルについて調べておく、というのはミニモに取っては『テミルの行方を捜す』という意味に、フリオ達にとっては『テミルのことは俺が何とかする』と言う意味に聞こえているはずだ。

 結局帰ることになってしまったミニモは不服そうだが、こいつの蘇生魔法やら何やらについては、フリオ達に頼む。

 出来る限り並行して色々な問題を解決していこう。

 

「おいミニモ」

「なんですか?考え直して私もこっちに残るとかでも……」

「それは無いが、まぁそうだな……街の方でのお前の働きには期待してるからな。それでまた会った時に、上手い飯でも食おう。俺がここまで旅してきた途中で見た美味い料理をごちそうしてやるよ」

「……そ、そこまで言われたらしょうがないですね!エテルノさんがそこまで期待してるんだったらしょうがないですから!」


 これでミニモも良し、と。

 と、アニキが多少苦々し気な顔をしているのに気づく。


「……なんだよ」

「いや……エテルノってたまに死ぬほど糖度高いセリフ吐くよな……」

「糖度……?あぁ、まぁトヘナに影響されてるのかもな」

「え、誰ですかその女」


 トヘナ。かつて俺と一緒に旅をした、サキュバス族の女だ。

 サキュバスなだけあって口説き文句やらなにやらに長けていたからな、一緒に旅をする途中で多少影響されてしまったかもしれない。


 若干むっとした顔をしているミニモに『もうこの世に居ないから心配するな。ただの昔の友人だから』とだけ告げてさっさと荷物を整える。


「持って帰る物は……そうだな、アニキに収納してもらって、グリスティアの浮遊魔法で帰ればいい。そうすればすぐ帰れるだろ」

「あぁ、そうだね。エテルノが何か必要な物とかあれば残していくけど……」

「いや、気にするな。野宿だけなら慣れてるからな」


 そう言って土魔法で簡易的な小屋を建ててやると、フリオは納得したようにうなずく。


「分かった。あとはよろしくね」

「おう。お前らも街で情報収集とか、頑張れよ」


 こうしてフリオ達は飛び立っていった。

 俺がその後の街の状況を知るのは、再びフリオ達が森までやってきたときのことである。


「……さて、それじゃあテミルのところまで行くとするか」


***


「ミニモ、大丈夫かい?」

「……大丈夫です。絶対に、エテルノさんの期待に応えて見せます!」

「あぁ、うん。そういうことじゃないんだけどね」


 そろそろ街に着こうかと言う頃。

 僕はミニモから目を離さずにいた。


 蘇生魔法。僕にとっては因縁の深い魔法が、ミニモの使う魔法だというのだから当然だろう。

 エテルノには『ミニモに悟られるな』と言われたしそれには僕も賛成なのだけれど、やはり気になってしまう。

 その点アニキは本当に凄い。僕とグリスティアは若干気にしたりしているのに、アニキだけはいつも通りだ。


「えっと……グリスちゃん、さっきからどうしました?」

「えっ?!あ、え、ミニモの服に凄い血がついてたから大丈夫かなって思ったのよ!」

「あー……まぁ大丈夫ですよ。ほら、こんな感じで」


 ミニモが魔法を使うと、一瞬で服の汚れが消える。

 思わず身構えてしまったが、これは、蘇生魔法では無い、はずだ。


「これはど、どういう仕組みなんだい?治癒魔法……ではないよね?」

「ですねー。ただ治癒魔法って言っても色々あって、傷を治すだけじゃなくて何かを清潔に保つ魔法も治癒術師は使えるものなんですよ?ほら、傷を治すのに清潔な空間は必要ですからね?」

「あ、あぁ、そういえばそうだね……」


 なんかこう、身構えすぎてしまうな……。

 ミニモが普段から変わってるわけじゃないのに。おかしな話だ。


「あとはこう……応用次第ですけど、木でできてるならボロボロになった床板とか治せますよ。元生物ですしね」

「治癒魔法も大概凡庸性高いよね……」


 ミニモならエテルノといい勝負できるんじゃないだろうか。

 最近時々そんな風にも思う。


「あ、グリスティア、ちょっといいかしら」

「え、何?」

「いやその……あとで浮遊魔法教えてもらいたいんだけど……」

「……?別に良いよ?」


 そんな会話をしているのはシェピアとグリスだ。

 彼女達も色々と考えていることがあるらしいが……

 アニキは今、何を考えているのだろう。


「おいフリオ、町見えてきたけどどこに降りるんだ?」

「え?あぁ……そうだなぁ……サミエラの孤児院とかで良いんじゃないかな?」


 あそこなら変に騒ぎになることも無いだろうし、アニキの子分の人もいたはずだ。


「グリス、孤児院で降ろしてもらえるかい?」

「分かったわ」

「ごめんねこんな風に使っちゃって。今度お礼するよ」

「良いのよそんなの。私だって役に立ててるなら嬉しいんだから」


 まぁ、それなら良いんだけどお礼はいつかしっかりしないとね。

 と、アニキがこちらを見ているのに気づく。


「フリオもエテルノとあんま変わんねぇよな……」

「え?それどういう……」

「そのまんまだよ……」


 ……?まぁエテルノに並んでいるところがあるって考えれば嬉しいけど……。


 と、下から手を振っている人影があるのに気が付く。

 白い髪に、小さい体。

 久しぶりに見る、サミエラだ。

 孤児院の皆がはしゃいでいるのはきっと、僕たちが空からやって来たからだろう。

 グリスティアがゆっくりと僕達を下ろしてくれた。


「ただいまサミエラ。でも残念だけどそう長居は--」


 僕が真っ先に地に足を付けて、そう言いかけた時だった。

 僕の言葉を遮るようにしてサミエラが口を開く。


「ディアンが居なくなった!ど、どこにも居ないんじゃ!どこに行ったのか分からんか?!」


 思わず、口をつぐんで皆と目を合わせる。

 皆もやはりこれは予想外だったようだ。


 エテルノ、こっちもこっちで面倒なことになりそうだよ。

 僕はそう心のうちで呟かずにはいられないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ