表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

194/297

白昼夢

「エテルノ、もう大丈夫だから下ろしてくれないかな」


 森の中を駆ける俺の肩を軽く叩いて、フリオは言った。

 だがその声はやはりというかなんというか、沈んでいる。


「どういう因縁があったのかは知らないけどな、あんなところでお前のスキルなんて使ったら劇団の皆が危ないだろうが。お前なら分かってるはずだと思ったが」

「……うん、そうだね、本当にごめん」

「いや、お前が怒ったのにはそれ相応の理由があったんだろうとは思うから気にしては無いけどな。ただあそこでスキルを使うのは控えろよ、ってだけの話だ。文句は言ったが、まぁそこまで気にするな」


 俺の真上をグリスティアが飛んでいく。

 グリスティアは空からの偵察、アニキと俺、フリオは地上に何かいないか確認する、と言うのが今回の分担の仕方だ。

 今はフリオが使い物にならないので、実質は地上に二人空中に一人、と言った感じだな。


「……あのオーウェンって奴さ、僕の母さんの仇なんだよ。同時に、ディアンとかテミルの仇でもある」

「……そうか」


 そういえば、フリオの村は何者かに滅ぼされたんだったな。

 それがあいつらと言うことは……


「……村の誰かが禁術に手を出したのか?」

「まぁ、ね。手を出したのは母さんだと思う。ただ僕も手を出したようなものだよ。途中まで禁術の使い方をなぞってたんだ。生き残ったのは、そうだな……それこそ僕にスキルが目覚めたおかげかもしれないね」

「で、禁術を追ってきたあいつらに村を滅ぼされてディアン、テミルと三人でサミエラのとこに行ったと」

「そうだよ。だから、僕たちの自業自得と言われればそれまでだけど、やっぱりあいつは憎いさ」


 親の仇というだけでなく村の仇、ということにもなれば確かに、あそこで我を失うほど暴れてもおかしくないだろうな。

 少なくとも同じような復讐を繰り返してきた俺にはフリオの心境が痛いほど理解できた。


「軽蔑してくれて良いんだよ。さっきのはどう考えたって僕に非があるんだからさ」

「しねぇよ。俺とかアニキに比べたら大したこと無いっての」

「ん、呼んだか?」

「呼んでない」


 アニキが反応してきたので手でしっしっ、と追い払っておく。

 それを見て、フリオはほんの少しだけ笑いを漏らした。


「あ、でもしばらくその話グリスティアにはすんなよ」

「え、なんでだい?」

「グリスティアはオーウェンのこと若干信用してるみたいだったからな。あいつは悪人だ、っていう先入観を抜きにして『禁術に手を出していない』グリスティアから見たオーウェンの印象も興味がある。フリオがその話したらグリスティアは、『オーウェンは悪人だ』っていう前提で話しちゃうだろ?」

「あぁ、そうだね。分かったよ」


 空中を飛ぶグリスティアは呑気なものだ。俺達の会話は聞こえていないらしく、辺りの偵察をしっかりこなしている。

 俺達の会話が聞こえていればあんな呑気な顔は出来ないだろうに。


「ところでなんだけどさ、僕の母さんが手を出した禁術が何なのか、分かるかい?」

「……オーウェンの話からすると、蘇生魔法だろ?」

「そう。まさかミニモも使ってるとは思わなかったけどさ、そうだとしたらミニモにも僕の因縁が関わってるってことになっちゃうのかな?」

「お前ほんと災難だな……」

「いやいや、エテルノほどじゃないとも。君みたいにたくさんのパーティーで辛い思いをしてきたわけじゃないからね。まだマシな方さ」


 あぁ、そうか。そういえば俺のスキルのことは話していなかったがここまでの経歴は話したんだったな。


「ミニモについてだが、こっちもやっぱりしばらく何も言わないでおこうと思うんだがどうだ?」

「うん、それについては賛成だよ。ミニモも悪い子じゃないと思うしね。禁術を使ってるからって必ずしも悪人って考えは間違ってると思うんだ」

「……そうだな」


 俺はあくまで、俺達が秘密を知ったことをミニモが知れば厄介なことになるかもしれないという打算で言ったのだが、フリオはやはりと言うか何と言うか、情に熱いな。

 こんなフリオだからこそ俺はこれ以上追放されるのを諦めて、このパーティーに居つくことにしたわけだが。


「じゃあそれはグリスティアとアニキにも伝えておくぞ。後でテミルにも伝えて、ミニモには俺達が知ってることを悟られないようにな」

「いやそれは良いけど今グリスに伝えるってどうやるのさ?アニキならまだ分かるけど……」

「それは大丈夫だ。魔法で何とかする」

「魔法ってほんと便利だよね……」


 まぁ、普通なら出来ないことを可能にするのが魔法だからな。

 俺の扱える魔法の幅が広いというのももちろん一因ではあるが。

 土魔法だけ使える、とか偏った使い手だと魔法を組み合わせて使うことができないからな。俺のように扱える魔法が多いと工夫次第で色々なことが可能になるという訳だ。


「フリオ!あっちにミニモ達がいt……え、ちょっと何これ?!なんか変な声が聞こえるんだけど?!」

「あ、すまん。それ多分俺の魔法だな」


 ミニモ発見の報告があったタイミングで魔法を発動したせいでおかしな感じになってしまったな。

 まぁ伝わるだろうし良いのだが。アニキもどうやら大混乱しており、首を何度も回して辺りを見回している。

 端から見ると面白いな。


「で、ミニモ達が居るって言うのは?」


 あれほどの閃光弾が放たれたのだ。多少なりともとんでもない戦闘の跡が残っている物と思ったが……ここら一帯は、どうってことないな。ただの森にしか見えない。

 強いて言うなら多少……蔓植物が多いか?

 あちこちの木に太い蔓が巻き付いているのが確認できる。


「ミニモはここから少し先の木の幹にもたれかかってるわ。シェピアも一緒!」

「じゃあ悪いけどそこまで案内、頼むよ!」

「任せて!」


***


 その後光によって意識を失っているシェピアを回収、シェピアを介抱していたミニモと合流した。

 問題はイギルが行方不明になっていたことと、もう一つ。


 その場に一切、戦闘の跡が()()()()()ことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ