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蘇る因縁

「どうよお味は」

「……うん、美味しいね」

「美味しいな」


 マスクの言葉にフリオとアニキが答える。

 テーブルに並んだ料理もあらかた無くなり、グリスティアとテミルは洗い物に立っていた。

 まぁ確かにこの料理は美味しいので料理に関しては不満は無いのだが……


「ミニモが蘇生術、ね……。お前らはミニモを追ってここまで来たってことで良いんだよな?」

「おうよ。まぁ蘇生術だけを追っかけてきたわけじゃねぇんだけどそっちのオーウェンと、俺。後は部下諸々の大所帯でここまで来たぜ」

「で、テミルをさらったのは?」

「あの劇団が禁術使いと接触したって聞いてたからだな。蘇生術師と接触したのは一部っぽいが、またそれとは別の奴もいるみたいでな」


 禁術使い、ね。

 先ほどから何度か質問を重ねた末に分かったのは大まかに二つ、ミニモは禁術を使う者としてこいつらの間では指名手配を受けていること。

 それと、禁術を使っている奴が他にもいる、と言うことだ。


 ミニモに関しては真偽は不明だが、納得できることでもある。

 ミニモが関わった事件はことごとく死傷者の数が少なかったからな。バルドの襲撃に至っては死傷者はまさかのゼロ。

 確かに、ミニモが治癒魔法以外に蘇生魔法を習得していると言われても納得できてしまう。


 そして『別の禁術使いがいる』と言うことに関しては、若干予想されていたことだ。

 バルドに死霊術のことを教えた人間が居る。それはフリオ達と話しているうちに予想出来ていたことだからな。


「蘇生魔法ってそんなに悪いことなのかよ?俺は正直ミニモに助けてもらったこととかもあってあいつがそんなに悪い奴だとは思えねぇぞ?ほら、まぁちょっと変わったところはあるけどよ」


 アニキがそんなことを言い、オーウェンと呼ばれていた男が眉をひそめる。


「まず蘇生魔法は『寿命以外の死因の人間を蘇らせる』というものなのは知ってるかな?」

「いや全然知らなかったけど」


 ほう、蘇生魔法は老衰した人間を蘇らせられないと。それならなおさらどこが禁術なのか分からないな。


「元々蘇生魔法を使えた人間はさー、スキルとして蘇生魔法を持ってたんだよ」

「スキル……」


 スキルで魔法を使える人間は一定数存在する。

 例えば俺がそうだ。俺の場合は『俺を追放した人間の扱う魔法』を俺のスキルを介して使っている状態だな。

 アニキもそうかもしれない。『別空間に収納するという空間魔法』をスキルとして扱っているわけだ。


「その人は医者だったんだけど、自分一人じゃ全ての死者を救えないことを嘆いて、自分のスキルとしてしか使えなかった蘇生魔法を解析、誰でも扱えるようにまでしちゃったんだ。そうするとどうなるか分かるよねぇ?」

「……皆長生きするようになるな?」

「あー、もしかして食糧問題とかの話をしてるのか?」


 アニキとオーウェンの話に口をはさんでみると、オーウェンは鼻で笑って言った。


「確かに食糧不足にはなるさ。人口は増えるからねー。でも、そこじゃない。だって飢餓で死んだってまた蘇れるんだから、食料なんてものは問題なくなったのさ」

「……じゃあ何が問題だって言うんだよ」

「戦争だよ。戦争。お互いに不死の兵同士で戦いあうんだから決着がつかない。でも一度蘇っても意識は引き継がれるから、全員が全員幾度となく死に続け、殺しあい続けるっていうこの世の地獄の完成だよねー。で、そのせいで廃人が量産されちゃったから、『蘇生魔法』は禁術指定されたってわけー」


 なるほど。言っていることの意味は、分かるな。

 戦争をするにあたって蘇生魔法や死霊術は圧倒的な力を発揮するだろうが、兵士にとっては体は死ななくても精神が死ぬ、という訳か。


「蘇生魔法を覚えてた人は皆廃人になっちゃって、もうとっくに死んでるけどね。ただなんでかなぁ、蘇生魔法の使い方を示した書物の焼き忘れがあったっぽいんだよねぇ。それを見て覚えた人がミニモ、って人なわけだ」

「おいおい、それしっかり回収してるんだろうな?少なくともミニモがそんな仰々しい物持ってる様子は無かったぞ?」

「大丈夫ー。十年ぐらい前にとある村で回収済みだよー」


 まぁ、それならいいが。いや良くは無いけどな。


「で、そっちの君はずっと喋ってないけど、何か聞きたいこととか無いのー?」


 オーウェンがけだるそうにフリオに話しかける。

 フリオは、ひたすらにテーブルを見つめていた。


「……フリオ?どうしたんだ?」


 様子がおかしい。そう気づいたときには、既にオーウェンの背後に真っ黒な人影が出現していた。

 言うまでも無くフリオのスキルだ。真っ黒な人影が、瞬きの間に増殖していく。

 明らかな異常事態にマスクやテミルまで片付けを中断してこちらへとやって来た。


「ちょ、ちょっとフリオ?どうしたのよ?!」

「……グリス、いやちょっとだけ気になることがあってね」

「なに?なんか質問あるんだったらさっさと答えちゃうから早く聞いてくれるかなぁ?」


 オーウェンに動じる様子は無い。

 顔を上げてオーウェンを見据えたフリオの目には、憎悪が色濃く表れていた。


「……オーウェンだったよな?お前、蘇生魔法を回収した村で女を、僕の母さんを、殺したか?」

「え?あぁ、そういえばなんかそんなことがあった気も--」


 フリオには珍しい怒気をはらんだ言い方の質問に、オーウェンは飄々と答えた。

 ゾワリ、と地獄の底から這いあがるような怖気と共に周囲の黒い人影が何倍にも増殖し--


「っぐ……?!」


 爆音。閃光が周囲を駆け巡りその場にいた全員がうずくまる。

 凄まじい音だ。それこそ意識を保っているのが難しいほどの音とともに、洞窟の中にいるにも関わらず目を焼くような光線が辺りを駆け巡る。

 この魔法には覚えがあった。戦場では閃光弾にも使われるような魔法がこんな光や音を放ったはず。

 そしてこの規模となれば、シェピア、もしくはそれに並ぶ人間の魔法だろう。


「フリオ!因縁は今は一旦抑えてくれ!この音の原因を確認する!」

「……ッ」


 動かないでいるフリオに浮遊魔法を掛け、無理やり担ぎ上げる。

 抵抗されなかったことに若干ほっとしつつもテミルにも言うことは言っておく。


「テミル!また後で劇団の奴らも含めて迎えに来るから待ってろよ!」

「あ、は、はい!気を付けてくださいね!」

「おい兄ちゃん、俺らが嬢ちゃんとか連れて逃げるとは思わねぇの?」

「俺らはミニモの情報を知ってるっつったら逃げねぇだろうが!」

「あー、それが本当なら逃げらんねぇなぁ」


 よし、これでいったんは大丈夫だろう。ここに居れば劇団のメンバーも危険が及ぶことはない。むしろ今俺達が連れ出すよりも安全だ。

 フリオは……一切動かないが、今だけは無視しよう。


 グリスティアとアニキを連れ、俺たちは洞窟の出口へと向かう。

 幾度となく発生するトラブルの種を少しでも突き止めるために。

説明回です。

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